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~エピソード1~ SNSで惚気ちゃだめっ!

 俺は陽葵ひまりの寝顔を見る度に愛おしい気持ちになる。

 陽葵は静かな寝息をたてている。


 真夜中に目が覚めてしまい陽葵の寝顔を見つめているうちに愛したい気持ちが爆発しそうになっているのだ。

 俺は彼女を起こさないようにソッと髪を撫でて柔らかい頬に指を滑らせた。


 3歳の娘が陽葵から片時も離れずに寝ている。

 娘のあおいは陽葵に甘えたい盛りだ。


 葵は陽葵のお腹を枕にして寝ているが寝返りが多いので眠りが浅いようだ。

 俺は寝ている陽葵の頬から指を静かに放して、可愛い子供がいて陽葵が傍にいる幸せを噛みしめる。


 同時に愛おしく感じた陽葵を強く抱きしめてしまいたい衝動にかられたが、傍で寝ている葵を起こしたくない気持ちが錯綜して気持ちを抑えるのに必死だった。


 俺は寝ながら沸々と込み上げる陽葵への愛おしい気持ちを抑えて、心の中で般若心経を唱え続けていたら、もう明け方である。


 今日は休日で良かった。

 俺は少し明るくなってきて…ようやく少しの眠りについた。


 その昼下がり、俺はチョットした悪戯心から、葵が昼寝をしているのを横目にPCに向かってSNSに陽葵への想いを思いっきりぶつけようと決意していた。


 ある種の羞恥プレイという…夫婦にとって新たな試みであるかも知れない悪戯心が芽生えてしまった。


 SNSは夫婦共に匿名であるが、お互いにフォローして書き込みは見ている。俺と陽葵は相思相愛である。互いが何も隠す必要がないぐらいお互いが今でもベタ惚れ状態だ。


 他の妻子持ちから、その状況を知って吃驚される事もあるが、これは双方が信頼しきっている結果だ。

 俺は色々な雑念を振り切って、相当な羞恥心を払いのけてキーボードを叩いた。


 『娘が寝るときも片時も離さずに嫁にべったりくっつきすぎてて、俺氏が嫁成分を吸収できなくて困ってる。嫁成分をあますところなく吸収したい。』


 『だめだ、嫁が好きすぎて…独り言で「嫁氏を抱きたい」と呟いてしまった。重症だ。orz』


 特に独身フォロワーに惚気が被弾する事に目もくれず羞恥心を捨てしまった。陽葵の目の前でハッキリとは言えない愛する想いを派手に書き綴ってしまった…。


 更に俺はキーボードを叩くのをやめず、勢いあまってハイテンションになる。


 『承前:当アカウントはフォロワーを悶えさせる事を目的とし、私の羞恥心を120%ほど抑え込んで嫁氏へのノロケをさらけ出して皆様を砂糖漬けにするつもりです。悪意はありませんが、皆様を悶えさせるような努力をしようと決意しましたので、ご了解のほど、お願い申し上げます。』


 長年の夫婦生活の一部をSNSで知っているフォロワーはこれを読んだ瞬間に固まったかも知れない。もしかしたら『もう当てるのは止してくれ』と、呆れたかも知れない。


 多めの砂糖が入ったココアでも飲まされたような甘い気持ちと同時に恥じらいが襲って目の前の机などをバンバンと叩いたかも知れない。


 家事をしながらスマホで書き込みを読んだ陽葵はぎこちない歩みで俺に寄ってきた。


「ねぇ、あなた… あなたの欲求不満を全世界に晒すのは…」


 陽葵の顔をみれば、耳まで真っ赤に染まり、恥じらいで俺を直視できなくてそっぽを向いている。


 『だめだ。陽葵が可愛すぎる』


 俺は陽葵の恥じらいが愛おしくなって、その場で抱きしめたい気持ちをこらえた。彼女のこの愛らしい姿をできる限り見ていたい意地悪な考えからだった。


 それを誤魔化すように陽葵の頭をなでつつ、こくりとうなずく。上手い言葉も出ずに黙った俺も随分とヘタレだが新たな愛情表現も夫婦にとって斬新である。


 暫く後に俺はPCの画面に目を落とす。


 複数のフォロワーが惚気に被弾して、甘いとのリプが殺到する中で陽葵からのリプが目に留まった。


 『恥ずかしすぎてブロックしていい?』

 『旦那の惚気に恥ずかしくて耐えられないっ。』


 陽葵は俺がSNSで撒いた惚気が全部被弾していた。

 そう言いつつもブロックなどはしなかった。


 陽葵は相当な恥じらいがあって気持ちを誤魔化すように家事をやっていたが…。

 暫く後に「ふぇぇぇ~~」という悶えた小さな声が聞こえたのを確認した。


 同時に陽葵が恥じらいながら書き込んだかと思うと俺まで耳が赤くなってきた。


「だめだ…陽葵が可愛すぎる」

 心の中の声が独り言となって俺から漏れた。


 『しまった!。』


 これでは自分の策に溺れてしまっている…。


 もう陽葵を愛でたくなって仕方がない自分を責め続けている。俺は陽葵に対して仕掛けた事をかなり後悔して休日を過ごさなければいけなかった。


 …その夜…


 2人がどうなったかは…皆様のご想像にお任せする。


 そして、俺の魔がさしたSNSの書き込みが学生時代の思い出を呼び起こし、当時の仲間との絆を深める事になろうとは…。


 このときは、そんなことなど…、夢にも思わなかったのである。

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