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ShortStory2 - Episode 6


「……で、どっちを選択したんだ?」

「そりゃあ当然『対話』ですよ。倒した段階でダンジョンの落下も止まったんで」


ダンジョンの攻略後。

私は【始まりの街】のグリルクロスの工房に顔を出し、事の顛末をある程度の詳細を省いて報告していた。

と言っても、正確には攻略から1日程の時間が経っており……顔を出した時はグリルクロスは幽霊でも見たかのような表情を浮かべていたが。

現実でもないのに死ぬわけがないだろう。


「まぁ聞く限りは偽装やらその手の素材が手に入りそうなダンジョンだし当然か」

「そうなります。後はボスもボスで話せば分かるタイプのボスだったんで」


ちなみに『空浮かぶ古庭』改め『写し鏡の偽庭』はボスを含め、中々に美味しいダンジョンだ。

戦闘中、一時的に落下しかけたものの。

今では以前のように空高く浮かび続けており……現在はといえば。


「……ちなみに聞くが、そのダンジョンは今どこに?」

「そりゃ、この真上に」


ある程度、私の意思によってその位置を移動できるようになったため、移動式の拠点として重宝している。

それこそ、ある程度の高さにまで達してしまえばゲーム内のセーフティも機能しなくなるのか、座標的には【始まりの街】に重なっていても特に警告の類は来ていない。

当然だろう。この世界には鳥のように空を飛ぶ敵性モブも存在しているのだ。上空にまで制限をかけてしまうと色々と面倒が生じてしまうのだ。


「大丈夫なのか?敵性モブとか落っこちてきたら俺達プレイヤーは兎も角、NPCなんかは……」

「そこら辺は大丈夫ですよ。そもそもあのダンジョンはボス1体しか出てこない決戦型ですから。攻略した後隅々まで確かめましたけど、それっぽいモブも居ませんでしたし」


だが、新しく管理者となったのだからそこらの確認自体はきちんと行った。

結果として手に入ったのは、


「で、これらがその結果として手に入ったものですね」

「何々?……『空庭の枝葉』、『空庭の林檎』、『空庭の土』ィ……?」

「あ、やっぱりそう表示されます?」


『空庭』と名の付いた各種素材である。

といっても、私自身はこの表記に満足してはおらず。

恐らく私に攻略の顛末を聞いたグリルクロスも、これが正しい素材表記ではないと思っているのだろう。

虚空から取り出した、素材の鑑定用だろうと思われるルーペをそれらに当てながら溜息をついた。


「このルーペ、一応俺が買える中では最上位の鑑定アイテムなんだが……」

「あは、やっぱり無理ですか」

「あぁ。どうやっても同じようにしか見えん。……嬢ちゃんはどう見えてんだ?」

「私には『写身の枯葉』、『写身の腐身』、『写身の腐葉土』ですね。ちなみに林檎はその名前の通り腐ってます」


といっても。ダンジョンを攻略した私には違うように見えるようにはなっている。

というよりは素材側が真実の姿を現していると言った方がいいだろう。

瑞々しい枝葉は見る影もない程に乾き枯れ。

赤く、甘い香りを漂わせていた林檎は腐り異臭を漂わせ。

そして土に至っては、そもそも落ち葉などで出来た腐葉土へと変わっている。


「一応、グリルクロスさんに過剰補助をかければ見れますけど……どうします?」

「一度見れば、あとはずっとそのままか?」

「恐らくは。いやまぁ検証数がほぼゼロなんで、絶対とは言えませんが」

「……やってくれ」


覚悟を決めた彼に対して、私は【ウアジェトの目】を【フギンとムニン】によってグリルクロスを対象にして発動させる。

すると、彼は目頭を押さえつつもその素材群を見て……再度溜息をついた。


「あぁ、俺にも確認出来た。これの効果時間は?」

「もう切れますよ……切れました。どうです?」

「そのままだな。……成程な、これが『写身』か。高位の偽装、もしくは鑑定妨害……どちらにしても使える事には代わりないな」

「えぇ。で、ここら辺の素材自体は沢山とってこれるんで、先に他のも合わせて何種類かは渡しておきます」


そう言って、私は大容量のリュック型のアイテムボックスを虚空から取り出し、それをグリルクロスへと渡す。

一瞬躊躇うような姿勢を見せたものの、彼は彼でそのまま受け取った。


「で、問題は……『対話』を選んだってぇ事は、ボスの魂はとれなかったって事だろう?」

「そうなんですよねぇ……なので、一応ジャバウォックと交渉してこれを貰ってきました」


そう言って、私は新たに1つの素材をインベントリから取り出した。

それは、私の目から見ても瑞々しく、甘い香りを漂わせている林檎。

しかしながらその色は、


「金の林檎。元々あのダンジョンのボスだったラードーンが守っていた、ある意味ダンジョンの核と言っても良い代物ですね」

「そんなもん持ってきて大丈夫なのか?」

「大丈夫そうです。なんか一定時間経ったら再収穫できるっぽいんで」

「それはそれで強化が出来るかって所だな……試してみるか」


私からその金の林檎……正確には『写身の金林檎』と名無しのナイフを受け取ると、作業スペースのある店の裏の方へと引っ込んでいってしまった。

暫くして聞こえてきたガン、ガンという規則的なテンポの音を聴きながら。

私は今後についてを窓の外を見ながら考える。

といっても、ほぼほぼ方針自体は決まっているのだが。


「……おい、嬢ちゃん」

「あ、終わりました?」

「あぁ。一応強化自体は出来た。というか、だ。そもそもあの林檎、果物じゃねぇのか」

「そりゃそうでしょう。金の林檎なんて代物、世の中にはありませんよ。あるとしたらそれは……金の塊でしょう」


すぐに作業は終わったのか、少し金の装飾が加えられた白銀のナイフをグリルクロスはこちらへと持ってくる。

だが、しかし。


「あれ、まだ名前がないんですねコレ」

「あぁ。それに【これ以上の強化には他の第5フィールド以降に出現するダンジョンボスの魂が必要です】ってのが出てきたぞ」

「……他、かぁ」


受け取った白銀と金のナイフを見ながら考える。

恐らく、このナイフを最後まで強化するには何種類ものダンジョンボスの魂が必要になるのだろう。

と、いう事はだ。


「分かりました。じゃあ次に行きますかねぇ」

「あてはあるのか?」

「あは、情報自体は仕入れてますよ。色々と詳しい人が知り合いにも居るんで、大丈夫です」

「成程な。……で、次はどこに?」

「……そうですねぇ」


一息。

息を吸い、そして視線をグリルクロスへと戻してにっこりと笑いかける。


「次は、死霊教皇の居る方にでも。あっちもあっちで、沢山未攻略ダンジョンが転がってるって噂なんで」

「死霊教皇……ってぇと、宗教ギルドのアレか」

「アレです。まぁ飲まれないようにしておきますよ」


そう言いながら、私は店の扉から外へ出る。

次に挑むダンジョンはまだ決めてはいないが……その前に。

今出来る事や装備の強化などが必要なのは明白だ。

その為に、ジャバウォックを生かした所もあるにはあるのだから。


「さて、クエストクリアっと」


見上げた空に、庭園は見えず。

ただただ青い空が広がっていた。


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