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ShortStory2 - Episode 5


両者の間には言葉はない。

否、交し合う必要がない。

私の振り下ろした剣は、白竜の背を断ち切り地面へと到達する。

白竜の吐き出した火は、息吹となって自身の背諸共、私の事を焼き殺そうとしたが……それは叶わない。

耐熱耐性を獲得している私にそれは効かないのだから。

その為、私はそのまま白竜の背に乗ったまま、次に備えて魔術を構築し始めた。


そして1つの結果が訪れる。

それは、


『ぬぅ……ッ!』


最初は私が持つ直剣の効果だった。

白竜の血を、肉を浴びた刀身はどくんと虚空に脈を打ち、柄の骸骨の意匠は刀身へと這うように移動する。

禍々しい赤黒い魔力を纏い始めた剣は、独りでに宙へと浮かび上がっていく。

私はそれを確認してから、自身の目の前の虚空を軽くつまむように指を動かしてから、一気に下へと引き下げた。

瞬間、私の目の前には宇宙のような空間が広がったチャックの穴が出現した。

文字通り【裂け目を開け】による簡易転移ポータル……簡単に言えば、簡易版のどこでもドアが出来上がった。

軽い足取りでその中へと入れば、私の視界はジャバウォックへと突っ込んでいく前の場所へと切り替わる。

それと共に、白竜が現状どういった状況なのかを理解した。


「あー、結構殺ってたんですね」


白竜の身体に纏わりつくように、赤黒い何かが……人が、動物が、動物なのか分からない形状をした何かが襲い掛かっている。

『残架の直剣』、その特性は『罪の計上』だ。

切りつけた相手の罪を数え、それが形となって襲い掛かるという少し分かりにくい効果を持っている、ボスから受け取ったアイテムだ。


数える罪は何でもいい。剣は切りつけた時に相手の犯した罪の中で最も重い罪を勝手に選び取るのだから。

そして選び取られた罪は、所有者の魔力によって具現化し襲い掛かる。


窃盗罪ならば、その身体を奪われることだろう。

暴行罪ならば、その身に消えない傷が幾つも出来るだろう。

そして、殺害罪ならば。

過去、その者が殺した相手が具現化し、その身を殺し切るまで嬲り続けるだろう。

これが私の対敵性モブ、その中の切り札の1つ。『残架の直剣』である。

当然使うための制限が幾つかあるが……それでも、目の前の相手のように能力が分からない相手に対して使うならば一番楽に殺し切る事が出来る代物だ。


……魔力足りるかなコレ。一応MPポーションの数的に足りるだろうけど……いや、怪しいかな。この感じだとまだ本命は再現されてないし。

そんな目の前の惨状を見ながら、私はインベントリ内からMPポーションを取り出し一気に呷る。


「フギン、魔力吸収特化」

『了解。半自律モード解除。周囲魔力吸収陣【吸う者に情けを】、外部魔力貯蓄陣【桶を一杯】二重起動』


私の周囲に、更にデフォルメされた吸血鬼、桶の意匠がされた『自律陣』が浮かび上がり、そして吸血鬼の陣だけが消えていく。

私の切り札、というよりは鬼札と呼ばれる、あまり使いたくはない手札の1つ。

このArseareという魔術が普及している神秘の世界、その大気中に存在している自然の生み出した魔力を吸収する【吸う者に情けを】。

そして、その吸収した魔力を私が扱えるように変換し、貯蓄してくれる【桶を一杯】。


魔力を扱うだけならば【吸う者に情けを】だけでも事足りるのだが……セーフティロックを徹夜作業をしていた所為で忘れてしまった為に、これだけで扱うと最終的に魔力災害と呼ばれる大爆発を引き起こす欠陥を抱えてしまっている。

だからこそ無駄に無駄を重ね、そのまま扱えば10にもなる力を1程度に変換し貯蓄する【桶を一杯】を構築し、わざわざ起動時に並列で起動するように設定している。


……落下してる場所で爆発しても問題ないだろうけど、私が危ないからねぇ。

だが、そんな非効率的な変換貯蓄をしているにも関わらず、私の視界の隅に新しく出現した魔力貯蓄量は貯まっていくことはない。

2種の『自律陣』が正しく機能しているのに、だ。

これはジャバウォックが何かしらの妨害をしているわけではなく、単純に『残架の直剣』の燃費が悪すぎるというだけの話だ。

変換し貯蓄した端から、底を舐めるように全て根こそぎ奪っていく。

確かな結果をもたらすのだから文句は言えないが、これを渡してきた骸骨には後で一言文句を言っても許されるだろう。


『なめ、るなァ!!』


だが、そんな切り札、鬼札を使ってもどうやら白竜は止まってくれないらしい。

何やら一声張り上げたと思えば、ジャバウォックの周囲に群がり美しい白の肉体を赤へと染め上げていた過去の亡霊達が弾かれるように消えていく。

それと共に、白竜の姿がダブって見えた。否、実際に二重に見えている。

どうやら白竜はその身に宿る力を正しく発揮してこちらへと対峙しようとしているようで、


「でもそういう話の流れって私嫌いでさ。『これって前、友人に言った言葉なんですが』」


私の言葉に応じるように、頬の近くの虚空から銀の鍵が飛び出し眼前まで独り浮遊してくる。


「『私って、戦闘はあっさり終わるタイプの作品が好きなんですよね』」


瞬間。

銀の鍵を中心に、周囲の景色が切り替わる。

土や自然の香りがしていた庭園は、書架の立ち並ぶ図書館へと変わる。

落下していた影響で揺れていた地面も、揺れず、しっかりとした木製の床へと変化する。

上を見上げれば、終わりの見えぬ図書の山。

これこそは、


「【心象風景:在りし日の好奇心へ】」


未だ、知り合い達の中で私以外に使っている場面を見たことがない。

共闘を幾度も、死線を何度も掻い潜ってきた仲だ。そんな中、私みたいな性格がひん曲がってるヤツでもない限りは……いや、居そうだが。だが出し惜しみするような性格の人はあまり居ないため、私1人知っている秘中の秘。


周囲の環境の突然の変化についていけないのか、ジャバウォックが呆気にとられつつも、私を見据え。

その巨躯をもって私を圧し潰そうとして二重にブレた身体を動かすのをみて、


「『図書館ではお静かに』」


一言でその身体を止める。

ブレていた身体も私の言葉によって一つへと戻り、完全に静止する。

だがボスはボスなのか、身体の動きが止められたからと言って、攻撃の手を休めようとはせずに口の中へと火の気を集めていくのが見え、


「『火気厳禁』」


一瞬でそれが霧散する。

有り体に言えば、ジャバウォックの状況は既に『詰んでいる』。

【心象風景】という魔術、否。魔法は名の通り、魔の法だ。

一定の範囲に、私という魔が生んだ法を押し付ける。それが【心象風景】だ。

これの存在があるかないかでダンジョン攻略やその他の難易度は大きく変動するだろう。しかしながら、これが使えるからと言って相手を打倒出来るわけではない。

単純にこの魔法は、自分に圧倒的な有利なルールを勝手に決める事が出来るだけなのだから。


……十分、それでも強いけどね。

だが当然、都合の良い現象を引き起こすような物には多大な代償が必要となる。

私の【心象風景】、それの起動や効果の発露に必要な代償は……その身に宿る経験だ。


【レベルダウンしました】


ログが流れる。

流れ、それと共に私の扱う事の出来る魔力の総量が感覚的に減ったのを感じ、早急にケリをつけねばならない事を悟る。


レベルダウン。

この魔法は私が時間を掛けて蓄えてきたレベルを吸い、現象を相手に強制させる……出来るのならば、否。絶対に使いたくない最終手段とも言えるものだ。

……詳細は知らないけど『残架の直剣』の能力を声だけで弾くとか、まともにやり合うだけ無駄でしょ。

他人に聞かれれば怒られそうな独り言を心の中で吐きつつ、まともに動けていないジャバウォックに対して静かに歩き近づいていく。

どうやら、身体を動かすことが先ほどの姿をブレさせた何かの発動条件だったらしく。

手が触れられる位置まで近づき、少し待ってみてもジャバウォックがこちらへと何かをしてくることはなかった。


【裂け目を開け】をその巨躯に沿うように発動させる。

すると、だ。

開かれた先に見えるのは、どくんどくんと鼓動する巨大な心臓がそこに在った。

私は虚空から白銀の名無しのナイフを取り出すと、それへと向かって何度も何度も突き立てる。

その鼓動が止まるまで。図書館が、自身が血濡れとなろうとも。

そして鼓動が止まり、図書館が消え、落下していく庭園に戻った後。ボス討伐のログが流れるのを確認し、


「……クエスト、クリア」


私は選択した。


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