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Chapter6 - Episode 46


私の戦闘の仕方と言えば、とりあえず『面狐』をもって正面から敵と切った張ったを行うことだろう。

一応パーティを組んでいる場合であれば、【衝撃伝達】を要にした機動力があることから奇襲役を任される事も多いものの、基本は近接戦闘に限る。

そして習得している魔術も近接戦闘でその真価を発揮するモノが多い。

例えば、


「【挑発】!」

『む、ぅ!?』


【挑発】。

周囲の敵対者のターゲットを強制的に私へと向かせる、使い方を間違えれば自滅一直線の魔術。

しかしながら、今回のような1体相手……それも、私以上の火力を出せるであろう後衛が居る場合にはこれ以上無い程に真価を発揮する。

相手はこちらを強制的に目で、身体で追わねばならない。

理性がある、思考が出来る相手ならばもどかしい事この上ないだろう。

強制的にターゲットを向けさせられるという事は、相手側の後衛に……火力役に強力な魔術を準備する時間を与える事と同義なのだから。


このままではいけないとでも思ったのだろう。

フールフールはその巨大な身体に雷を纏わせながら私へと突っ込んでこようとする……しかしながら雷を纏っているとはいえ、その実態がただの突進ならば私が対応できないはずもない。

近づいただけで強制的に天高くへと転移させられる事も、霧の槍が複数本飛んでくる事もないならば問題は何もない。


「追加で【霧の羽を】。【血狐】もおいで」

『次は視界を奪うか!小癪な……!』


発声行使によって2つの魔術を、『面狐』を上から下へと軽く振り降ろす事でその刀身に薄い魔力の膜を……【魔力付与】を発動させ、その形状を変える。

普段は使わない、しかしながら形状変化が行えるようになった時に一番その恩恵を感じた形状――盾の形状へと。


「【血狐】ェッ!」


フールフールは一瞬で私との距離を詰め、そして私の身体へと触れる前。

私が真っすぐ前へと突き出した『面狐』に、【魔力付与】の膜へとその頭を触れさせた。

瞬間、私の身体は衝撃で後方へと……灰被りの方へと飛ばされそうになるものの。

その間に赤黒い液体が入り込み、その勢いを殺していく。

視界までもがその色に染まっていく中、私は自身のHPを確認し頬を緩めた。

減っていない・・・・・・


仕様と言えばいいのか、それともグリッチと言った方が正しいのか。

兎も角として、【魔力付与】の効果によってフールフールの雷を伴った突進は私に一切のダメージを与えることが出来なかった。


『忌々しいッ!霧の羽に血の狐!叫声も煩わしい!!狐の仔娘がァ!』

「ごぼっ……悪魔の将軍様が1人の娘っ子にそんなにイライラしちゃって……カルシウム足りてないんですかぁ?」


言いつつ、周囲に展開していた霧の狐達……『狐群奮闘』を動きを止めたフールフールへ向かって走らせ、代わりに私は灰被りの方へと一足飛びの要領で下がっていく。

長い間、灰被りと戦っていたにも関わらず傷の1つも見えない事から、恐らくは魔術耐性が高いか、そもそも外皮自体が堅いのかのどちらかなのだろう。

だが、それでも出来る事はある。

特に私は堅い生物に対して打てる手は中々に多い。


『き、貴様ァ……!』

「あは、怒っちゃいました?怒っちゃいましたか?」


どうやら子供レベルの煽りでもフールフールには十二分に効果を発揮してくれたようで。

これが演技でもない限りは、私の事を血眼になって狙ってくれるだろう。

思考の出来る相手だからこそ出来る魔術の使わないターゲットの固定法だ。

そして意識が【霧の羽を】や私の方へと向いているのなら……私の使い魔はその隙を見逃さない。


『――挟撃』


頭をぶんぶんと振り回しつつ、今も降り注ぐ霧の羽を払おうとしているフールフールに対し。

私から見て左側から『狐群奮闘』が。そして右側からは赤黒い津波が襲い掛かった。


『ガッ、アァ!!』


徐々にその外皮に霜が降り、そして凍り付いていく中。

津波はフールフールの身体にぶつかると同時に、その全体を絡み取るように形状を変化させた。

まるでクリオネが捕食する時のように、複数の触手のような血が鹿の足に、角に、蝙蝠の翼に絡みつく。

……予想以上にこっちの戦い方がハマってる感じかな、これ。


灰被りがボロボロになるまで痛めつけられたのは、単純に彼女とフールフールの相性が壊滅的に悪かったのだろう。

魔術主体の彼女の攻撃では傷が付かない、ダメージを与えられない程に高い魔術耐性。

距離を取り、耐性を突破できるような魔術を唱えようとしても……先ほど私が防いだ突進によって強引に距離を詰められてしまう。

そして慣れない近接戦闘を強いられ、ジリジリと擦り減っていく精神。

私も先ほどの突進を防ぐことが出来なかったら色々と戦い方を考えねばならなかっただろう。


だがこれを余裕だとは思わない。

悪魔の将軍なんて大層な肩書を持っている相手が、こんな簡単にやられてくれるわけもない。


「【血液強化】、【ラクエウス】」


私は足を踏み鳴らしつつ。

一度自ら離した距離を、再度詰める。

動作行使によって発動した【衝撃伝達】、構築するのに慣れてきた『脱兎之勢』、そして新たに発動させた【血液強化】によって、フールフールの比ではない速度で近づいた私は何の攻撃魔術も発動させることもなく。

ただ一度『面狐』によって切りつけてみる。

しかし結果は、金属を叩いた時のようなキィンという音を立てただけで終わってしまった。

……かったいな。とりあえずは罠設置メインで動いた方が良いなぁコレ。


どうやら『面狐』でも素の状態では傷をつける事は出来ないようだ。

ではどうして先ほどは避けたのか。そして何故今は溶け込むように消えて【血狐】の拘束を解かないのか。

この辺りの問題を片付けねば、もし灰被りの魔術の準備が出来たとしてもその効果が薄くなってしまうかもしれない。


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