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Chapter6 - Episode 45


似たような部屋を2、3ほど過ぎ。

そろそろ辿り着いても良いだろうと思い始めた時、螺旋階段の終わりが見えた。

今まで通ってきた部屋とは違い、今回はきちんと扉が存在している。

それもここまで灰一色だったのにも関わらず、その扉は木製のしっかりとした扉だった。

明らかに空気感が違う。


肩の上の【霧狐】に問えば、あそこから先は霧が入って行かずに索敵が出来ないらしい。

喋る事が出来ないため、細かいニュアンスが間違っている可能性があるが大体は合っているだろう。


「という事は、この先に居るって事かな……」


あくまで予想だ。そして希望でもある。

外からこの塔を見たときに見た目以上に高さが、そして中から駆け上がってくる際に広さが変わっている事くらいは分かっている。

この扉を超えた所でまた螺旋階段を登らねばいけない可能性だってあり得る。


「そろそろ戦いたいんだよね、私も」


MPの残量を確認しつつ、インベントリ内から各種回復薬を取り出して服用していく。

ここまでくるのに『脱兎之勢』に加え、途中から【血液強化】なども使い無理やり駆けて来たのだ。

まだまだ戦えるとはいえ、数値上ではHPなどが半分切っているのは不味いだろう。

それにこの後灰被りと共闘するとなれば、十中八九私は前衛を務める事になる。

所謂回避盾のような立ち回りを得意としているとはいえ、出来るだけ回復しておくのは間違いではない……はずだ。


インベントリから煙管、『面狐』をそれぞれ取り出し。

私はその木製の扉をゆっくりと開けた。

そこには、


「ッ……!」

『ハハッ、まだまだ目の光は消えぬか!』


ボロボロの灰被りに対し、その巨大な蹄を振り下ろそうとしている巨大な牡鹿の姿があった。

燃える尾を持つ、蝙蝠の翼が付いている牡鹿。霧の鳥で見たあの牡鹿だ。

それを見た瞬間、私の身体は既に動き出していた。

『脱兎之勢』、【衝撃伝達】によって高速で牡鹿の背後へと到達した私は、その無防備な蝙蝠の翼に対して【魔力付与】の掛かった『面狐』を振り下ろす。


『む?!』


しかしその攻撃は避けられる。

他の取り巻き達がやっていたように、しかしながらそれらよりも数段早いスピードで牡鹿の身体が空気中に溶けるように消え、私の一撃は空振りに終わってしまう。

だが、それでいい。

私は空振った勢いそのままに前へと……灰被りの方へと移動し、彼女を背にして前へと立つ。


「すいません、遅れました」

「……貴女は……」

「あは、色々言いたい事はありますけど、とりあえず。……この状況はアレが原因で合ってますか?」


私の視線の先。

数メートルほど離れた位置に、膨大な魔力と大量の瘴気が集まり牡鹿を象っていく。

先ほど私が攻撃した時と変わらない姿。

そして鳥で見た時とも変わらない。


「え、えぇ……名はフールフール。悪魔の将軍です。私達の名前は呼び合わない方が良いでしょう」

「了解です。じゃあ楽ですね」


私は笑う。

やっと状況が分かりやすくなったのだ。これが笑わずにいられるだろうか。


『人の仔娘の次は狐の仔娘……ふぅむ。もしや先ほどの霧の鳥は貴様が寄越したものか?』

「だと言ったら?」

『ふふ、ハハハッ!我も嘗められたものだ!2人で何が出来る?貴様も他の者と同じように我の糧としよう!』


何やら高笑いをしながらこちらを糧にする等と言っているが、気にしない。

何故なら、私がこれからやる事自体は単純なのだから。

些細な事を気にせずに。

変な背景を背負わずに。

手足に余計な力を入れずに。

私は一歩前へ踏み出した。


「じゃ、援護と火力任せます」

「は?……え、戦うんですか?」

「そりゃもう。だってここから出るのにアレ殺らないとダメなんでしょう?それに――」


一息。

深呼吸は必要ない。頭の中はこれ以上無いくらいに冷えているのだから。


「――私の友人を一方的に嬲っておいて、そのままにしておくとか出来ないですし」

「……分かりました。でも、無理はしないようにお願いします」

「その言葉に熨斗つけてお返ししますよ」


狐面から濃い霧を引き出し、私と灰被りを覆い隠すように展開させる。

相手はフールフール……牡鹿の悪魔であるようだが、視覚的に一度こちらの姿を隠しておいて損は無いだろう。

灰色の部屋が濃い白の霧で染まっていく。

それを黙って見ていたフールフールは鼻を鳴らしながら、足を踏み鳴らしている。

今にもこちらへと突っ込んできそうな様相だが、この手の類の獣型はそれだけではない事を私はどこかの馬鹿狐のおかげで嫌でも知っている。


「さぁ、ここからが戦闘開始だ」


周囲に霧の狐を複数体作り出しながら、私は悪魔の将軍フールフールを真正面に見据え、そう言った。


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