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Chapter6 - Episode 42


踏み出した足は軽い。

実際の重さではなく、気分的に軽いのだ。

一歩目から魔術言語の効果によって強烈な加速が私の身体を襲っているものの、それ以外に問題は起きていない。

そう、起きていない・・・・・・


身体の端から灰になる事もなく。

単純に身体に向かって叩きつけられる風によって、きちんと顔が前を向けない程度。

包囲網に居たプレイヤー達の話と、私の現在進行形の体験では結果が違っている。

……まぁ、予想通り……かな。


だが、これは私にとっては予想通りだ。

何故なら灰被りは私に対して、わざわざ伝言を残している。

『目印になるものを用意している』と。『そこで合流しよう』と、わざわざ1人のプレイヤーを捕まえてまで私にそれを伝えたのだ。

ほぼほぼ眼前まで迫った塔は、明らかに灰被りの意図していない挙動をしているのだろう。

恐らく、彼女はこの魔術を発動させる時に私だけを例外に……合流できるように、この目印がプレイヤーにも周りに出現する取り巻き達にも破壊されないように設定したのだろう。


私は息を吸うのすらも辛くなりながら、一気に塔の根本と言うべき場所まで辿り着く。

無理やりに霧を操り、水の壁を出現させ自身の勢いを殺しつつ。

塔の外壁に沿う形でゆっくりと歩きながら、私は中にどうにか入れないかを確かめる。


「ん、これかな……うん、ここだけ中に霧が入っていく」


ぺたぺたと壁を触りながら歩いていると。

灰色の外壁と同じ色合いで、パッと見ただけではそこに在るかどうかも分からない扉を見つけることが出来た。

過去に攻略した『蝕み罠の遺跡』のように、霧を使ってトラップや今回のように見つけにくい扉を見つけるのは得意だ。

霧さえ入り込める隙間があれば、こちらが魔術を発動させることも敵が居るかどうかの索敵を行う事も出来るのだから。

……寧ろ、最近まで挑んだダンジョンが私に合ってない事が多いんだよね。


「【霧狐】、索敵お願い」


そんな事を考えながら、私は狐面から一気に霧を引き出し扉の内側へまで侵入させる。

見た目はしっかりとした灰の塔ではあるものの、灰であるが故か気体が入っていけるだけの隙間は沢山あるようで。

新たに出現させた【霧狐】も、扉や壁が無いかのようにすり抜け内側へと侵入していく。

数瞬待ち、【霧狐】が顔だけをこちらに出してきた時点で、私は塔の中へと扉から堂々と入った。


「……状態異常は特に無し、っと」


内側に入ってみると、そこはほぼほぼ何もない部屋が広がっていた。

円状の灰一色の部屋に、灰で出来た螺旋階段が存在しているだけだ。

しかしながら空間が弄られているのか、外で周囲を歩いた時に感じた大きさよりも数周り程は部屋の大きさは大きく感じる。

恐らくは学校の教室1つ分くらいはあるのではないだろうか?


塔に入った事でデバフが掛けられるようなことも、身体が灰になっていくような事もない。

それを確認した私は、自身の索敵範囲を広げるために更に濃い霧を引き出し。

螺旋階段の上へと、霧が入っていける限り進ませていく。

……そういえば外の鳥の方は……うん?


「【霧狐】、ちょっと私は外の様子を確認するから何かが来たら教えて」


【霧狐】が頷いたのを確認してから、私は意識を外で半分無意識で飛ばしていた霧の鳥の方へと向ける。

鳥に仕込んでいる魔術言語の構成は中々個性的だ。

『狐群奮闘』と同じように、内部に仕込んである魔術言語で氷を作り出すことが可能……ではあるのだが。

触れた相手を凍らせることは出来ない程度でしかない。

ただただ氷の塊が出現するだけのものだ。

そしてもう1つ。どちらかと言えばこちらの方が本命の仕込みである。


……起動。

塔の周囲にまで漏れていた霧を伝い、霧の鳥の内部の魔術言語を起動させる。

すると私の視界は灰の部屋の中から塔の外、空を飛んでいる視点へと変化した。


【『言語の魔術書』読了による構築補助を確認しました。『カルマ値』を獲得します】


何やらログが流れたが気にしない。

どうせこれからも魔術言語を扱う上で付きまとうものなのだから。

……視界は良好。他の部分も問題なさそう……よし、行こう。

私が霧の鳥にした本命の仕込み。それは『視界の共有』である。


よくファンタジー作品であるように、使い魔の視界を術者が共有し確認することが出来る。

そんな仕込みを魔術言語を中心に、儀式魔術とシギル魔術も組み合わせて作り上げたのが霧の鳥だ。

本当はこんな仕込みをするくらいならば空を飛べる使い魔系の魔術や、【霧狐】を順当に強化していればよかったのだろうが、やっていなかった事を考えても仕方ない。

現実として、今私は霧の鳥で空を飛ぶ視界を見ているのだから。


……上の方もこれ空間がおかしくなってるのかな。結構飛んでるのに地面からの距離が変わってない。

そのまま上へと飛ばしていくと、この灰の塔の異常さが分かっていく。

大きさもそうだが、何より距離感が何処かズレている・・・・・

まるで同じ場所をループさせられているかのような感覚を覚えながら、代わり映えのしない塔の側面を飛び上がっていくと。


「窓?」


私が入った扉以外に壁しか存在していなかった塔に、1つの窓が存在しているのを発見した。


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