「一応灰被りさんに個人メッセージ送ってみたけど……返信はなし、と」
いよいよ灰の塔の周辺まで辿り着いた私は、一度灰被りに対してメッセージを送ってみる事にした。
『メッセージを送れば反応してくれる』などという希望を持っているわけではなく、単純に灰の塔にこれから侵入する旨を事前にメッセージで伝えておいただけだ。
移動しつつ、そんな事をしていると。
灰の塔から一定距離離れた位置にプレイヤー達が等間隔で立っているのが見えた。
否、プレイヤーだけではない。
人形や、RTBNやメウラほど精巧ではないにしろ人型のホムンクルスやゴーレムの姿も見つけることが出来る。
一応、見られて困るようなものでもないが……私は操っていた霧を隠すように、自身の背後へと移動させた。
「ん?……おい、君!」
「はいはい?」
「ここから先は危険だ。プレイヤーの1人が無差別魔術を発動していてな……ほら、あの塔が見えるだろう。あれにこれ以上近づくと徐々に身体が灰に変わって、最終的に死んでしまう」
「あー、成程……」
その包囲網から先へと行こうとすると。
近くで立っていたプレイヤーの1人が私に声を掛けてきた。
内容は警告。恐らく、私のように塔に近づこうとするプレイヤーがかなりいるのだろうし……初心者プレイヤーならばあんなに目立つ塔なんてものが転移先にあったら、何かのギミックや宝があるのかもしれないと近づいてしまう事だろう。
よくよく見てみれば、私に声を掛けてきたプレイヤーの姿はどこか警官のようにも見える。
……確か、警官系の見た目をしてるのは……自警団系のクランだっけ。
Arseareでは、時たまではあるがNPCとプレイヤーを見分ける事が出来ないプレイヤーが若干名存在している。
それもそうだろう。一見すればNPCもプレイヤーと同じく魔術を用い、そしてそのアバターもプレイヤーと同程度には出来が良い。
受け答えもしっかり出来るし、私はあまり関わっていないために知らないが……好感度システムなども存在しているのか、人によって対応を変えているとの話もあるくらいだ。
だからこそ、今私の目の前にいるような自警団の存在が必要になってくる……らしい。詳しくは知らないが。
どちらにせよ、私にとってはあまり関係のない話だ。
「すいません、でもちょっとこの先に用があるんで」
「……そうか、そういう事なら止めるのはやめておこう。でも、無理だと思ったらすぐに引き返してくると良い。塔に近づけば近づく程に、身体が灰になる速度が上がるからな」
「あは、ありがとうございます」
その言葉を聞いて、私は包囲網から少し離れた位置へと移動する。
彼には見えないように霧を操ってはいたものの、近場で操作するようなものでもないためだ。
移動しつつ操作していた霧とは別に。狐面から濃い霧を自身の周囲へと一気に引き出し、私の足へと集中させる。
その姿に一瞬、包囲網を作っているプレイヤー達が臨戦態勢になりかけたものの。
私の事を知っているプレイヤーが数人居たのか、すぐにそれらは解かれ落ち着いていくのが視界の隅で見え、少しだけ頬が緩んでしまう。
「一気に近づくと一気に灰になる。でも、ゆっくり近づいてもそれはそれでゆっくりと灰になる。……うん、どうせなら一気に行こっか」
足に集中させた霧に、この荒野に転移してくる前……宿屋の窓枠を大破させた魔術言語の構成を思い出しながら、霧の形自体を変えていく。
さながらニーハイブーツのように。所々に魔術言語の装飾がされた白一色の霧のブーツが完成した。
チャームポイントとして、もう形が変わってしまい面影がなくなってしまった【脱兎】の代わりとして、兎耳のようなものを踵の辺りに生やしておく。
……うん、良い出来。狐面の強化がしっかり終わったら実体化もちゃんと出来るだろうし、色々出来そうだね。
「名前は……うん、そのまま『
いつものように名前を付けつつ、もう一つ。
ここに来るまでに操作していた霧を、完成形へともっていく。
といっても、そこまで難しい事はしていない。
ただただいつも『狐群奮闘』で狐を作る時と同じように、その要領で鳥を作っただけだ。
モデルはなく、単純に見れば『鳥だ』としか反応が出来ないタイプの適当な造形。
だが、これでいい。
今回使う予定のこの鳥は、名前を付ける予定も、今後使う予定もないのだから。
「こっちの鳥は……まぁ、中の構成を少しだけ変えておいて……よし、完成。じゃあ先に……」
さらに霧を引き出し、今度はしっかりと狐を作り出し。
私よりも先に包囲網の内側へと入れてみる。
変化は……特にない。
……単純な霧だから魔術の対象になってないって感じかな?あんまり分からないけど……うん。とりあえず飛ばそう。
狐がある程度先まで進んでも灰にならない事を確認した後に。
私は手元の霧の鳥を塔に向かって飛ばしておく。
目指すは……どこか内部に入れるような所を。
そして私自身も足に力を入れ、力強く前へと踏み出した。