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Chapter6 - Episode 39


「干渉ではなく、暴走。コントロールが出来ていない為に、術者の私でも解除が不可能……」


分かりきった事を口に出し、しかしながらその事実を素直に飲み込むことは難しかった。

高位のダンジョン……私が普段挑むような第5、第4フィールドのダンジョンにも、こちらの魔術のコントロールを奪うことがある特性が付与されている事は少なくない。

だからといって、発動後の解除すらも出来なかった事例は今回が初だ。


となると、考えられるのは他の要因・・・・


「……鑑定用の触媒は……取り出せる、と」


インベントリ自体は問題なく機能しているらしく。私は虚空から自身の鑑定魔術に使う複数の触媒を取り出す事が出来た。

次に確かめるべきは魔術の行使がいつも通りに出来るのか。

結論から言えば、これも問題なく行う事が出来た。

しかしながら、


「部屋には傷1つ付けることは出来ない……はぁ、面倒なタイプですね」


部屋の壁どころか、唯一外と繋がっているであろう窓も、私の発生させた氷の茨や炎の華に対して何の反応も示さない。

まるで私から与えられる影響自体がなかったことかのように、傷も、霜や煤すらも付くことがない。

……中からは脱出が不可能なタイプ?いや、Arseareはそんな理不尽を強いるようなゲームじゃない。


一応確認として、バグなどで進行不可能になった時の為の自殺機能が使えるかどうかを確かめると……こちらも問題はなく使えるようだった。まだ最悪の事態とは言えないために使わなかったが。


「では本命。……【摂理の目】発動」


本命の鑑定用魔術【摂理の目】。

敵性モブの目を複数触媒として、私の指定した物をある程度の抵抗を無視して鑑定する魔術だ。

発動すると同時、文字通り私のの前に平面の逆三角形が出現し、出しておいた敵性モブの目が光となってそれに吸い込まれていく。

徐々に光が貯まり……逆三角形の中心に人の眼球を模したマークが現れると同時。

私はガツン、と頭が横から殴られたかのような衝撃を受けた。


【鑑定効果が妨害されました】


横に落ちていく視界のまま、私は咄嗟に身体を回転させることによって受け身を取る。

こんな衝撃を受けるようなデメリットは【摂理の目】には存在しない。

つまりは、私に危害を与える何かによる攻撃と考えた方が無難だ。

地味に広い部屋の中を転がりながら、私は右手の指を鳴らし、動作行使によって私の周囲へと炎の防壁を出現させた。


……HPはそれほど減っていない。つまりは本当にほぼほぼ衝撃だけの何か。

だが、ダメージがほぼないとは言え頭を強い衝撃を襲ったのだ。

私の視界は揺れ、それに伴ってか【視界異常】などというデバフまで付いてしまっている。


「一応聞きます。話が通じる何かですか?」


炎の防壁を出現させた方向へと視線を向けつつ、いつでも何か行動を開始出来るように身体を起こす。

衝撃を与えてきたモノが敵とした場合。話す事が出来るのか否かで大分難易度が変わってくる。

当然、話せない方が難易度は低い。その場合、野生の獣上がりの事が多いからだ。

だが、話せるとなると……一気に難易度が異なっていく。

人間と似たような知恵を持ち、そして策を練り、行使してくるのだから。

しかし、それらよりも一番面倒で、一番相手にするのが高難度なのは別に居る。


『ふふ、はは。何か、我の事を何かと称するか。人の仔娘よ』


炎の壁の奥から、低い男の声がした。それと共にどこか獣のような息遣いも聞こえてきて私は顔を顰めた。

……一番面倒なタイプ、か。

獣の身体を持ち、そして人と似たような思考を行う敵性モブ。

それが一番面倒くさいのだ。人に似た思考で、獣の身体で出来る策を練り実行してくるのだから。


『だが問われれば答えねばならぬ。分体ではあるものの、この場を掌握する者として。そして人の仔娘を打ち倒すものとして!我は悪魔将フールフール!さぁ、死合おうぞ!』

「……」


私はその口上を聴き、そして。

小さく笑った。


「フールフール、ですか。そうですか」


名前は聞いている。

悪魔の中でも、一般的に知られている名前ではあるだろう。

だが、知られているという事は、対処法も知られているという事。

そして今開催しているイベントは元々、この悪魔が出現するのではないかと噂されていたのだから……対策自体は出来ている。


意味がないと判断した炎の防壁の発動を解除し、その姿をしっかりと目に捉える。

事前情報的にも、私がボス戦用の特殊フィールドに転移してきた時に見た取り巻きの姿にも似た、燃える尾を持つ牡鹿の姿だ。

だが、取り巻きと違う点が存在している。

その背に蝙蝠のような翼が一対付いているのだ。


「悪魔に名前を教える程、馬鹿ではありませんので……失礼ですが、名乗りは無しで行かせていただきます。悪魔の将よ」

『構わぬ。こちらも本体ではない故、礼儀は気にせぬ』


言うと同時、私は距離を取る為に後ろへとバックステップの要領で跳んでいく。

突然の、推定イベントボスとの戦闘が開始された。


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