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Chapter6 - Episode 38


「居ない……って?」

「索敵魔術に引っ掛からないって意味だねぇ。それこそ、複数人が対象指定型の索敵魔術を使ってもさ」


異常、と言うべき他ないだろう。

ボス戦、それもあんな魔術が発動している以上彼女はこの戦場のどこかに必ず存在しているはずなのだ。

それなのに、存在していない。発見できない。

索敵妨害系の装備をしていると言っても限界はあるだろう。


「あの塔の中は……そもそもが近付くだけでアウトだから入れてもいない、と」

「そうだねぇ。それに魔術関係も通りにくいときた。……まぁほぼほぼ確定だろうね」


と、なるとだ。

答えは1つ。フィッシュの情報も合わせれば自ずと見えてくる。

……あの塔の中に居る可能性が高いって事かぁ。

あくまでも可能性の話だ。

しかしながら……私の行動方針はここにきて決まってしまった。


「了解です……じゃあ私は塔に行きましょうかね」

「正気かい?」

「正気ですよ。一応伝言で『目印を出し続けるのでそこで合流しましょう』って言われてるんで。なら私が行くしかないでしょう?」


あれが目印でないなら何なのだ。

そういった眼差しで彼女を見れば、一瞬呆気にとられたような表情を浮かべた後に笑い始める。


「……――ぷっ、ははっ、あははっ!やっぱり良いねぇアリアドネちゃん!」

「おや、褒められました?」

「あぁうん、褒めてるよ。ふふっ。……分かった、分かったよ。君が灰被りちゃんの塔に行くなら、外のあいつらは私達に任せると良い」


そう言いながら、フィッシュは数多くの……それこそ普段は使っていなかったであろうマグロ包丁なども取り出し、周囲にばら撒き始める。

何をしているのかと思いきや、おもむろにそれらを無造作に蹴り飛ばし……それと共に少し遠くから断末魔のような獣の鳴き声が微かに聞こえた。


「ありがとうございます、では」

「あぁ、多分塔の近くに誰かしら知り合いが居ると思うから、私はこの辺に居るって言っておいておくれ。割と戦場が広いし、パーティ機能が効いてないからね」


その言葉に私は返事をしなかった。

否、する前に私の身体が塔へと向かい始めていたと言うべきだろう。

既に狙いを付けていた私は、動作行使によって【衝撃伝達】を発動させ、瞬間的な移動を開始していたのだから。


……でも実際、私が行った所で何かが解決するってわけじゃないんだよね。

近づいただけで灰になる。そんな魔術に対応している手札なんて、私の中には存在していない。

当然だろう。私は身体を使って相手の攻撃を避ける事をしても、魔術を使って攻撃を回避すると言った手段に乏しいのだから。

だからこそ、半分賭けに近い。

というか、ほぼほぼ希望のようなものだ。

『私が辿り着けば、灰被りが魔術を止める』……どこの童話なのだと苦笑いを自分でも浮かべてしまう。

そもそも、彼女は『灰被り』であって『白雪姫』でも『茨姫』でもないし、私は『王子』役ではない。

ただ単に、彼女の友人だから。彼女と待ち合わせをしているから行くだけなのだ。


「ふふ、良いね。そうだよ、私は友人だから行くんだ」


風を身体で切りながら、私は意外にも結構近くにあった塔に向かう。

ただこのまま行った所で芸がないと言われてしまうかもしれない。

ならば私に出来る事で、灰被りが少しでも面食らうような何かを用意しておくべきだろう。

そう考えて、出しておいたままにしてあった煙管を口に咥え、魔力の伴った霧を出していく。

私に出来る事……そして分かりやすいもの。

高速移動する私の周囲に濃い霧が集まり、そしてそれらは少しずつ少しずつ形を変えていった。



―――――



……私は、今……?

灰色の部屋、自分と1つの窓以外は何もない場所に私は居た。

いつから居たのかは覚えていない。

直前までは荒野で戦っていたような気がするし、平原に居た気もする。


「少し、混乱していますね……」


1つ1つ、状況を自分の頭の中で読み込んで、咀嚼して、そして反芻していく。

そうして分かるのは複数の事実、ここが何処で何故ここにいるのかという事だ。

まず1つ目として、私は荒野にて今回のイベントのボス戦に参加していた。これは間違いないだろう。

そして2つ目として、遅れてくるアリアドネの為にと、目印を用意しようとしたのだ。


「そして発動させた後……ここに居た」


恐らく、ここは私が発動させた魔術の中……【魔灰の塔】の中なのだろう。

元々は自分の周囲に数本の、私の魔術を補助、補強する灰の塔を建てるだけの魔術だ。

当然、それだけでは簡単に折られてしまうため多少の迎撃機能は付けているのだが。


だが、それにしたって今まで使っていた時はこんな部屋に訪れる事はなかった。

ならば何が原因なのかと言われれば……恐らく、今回のボス戦のギミックか何かが干渉してしまったと考えるのが素直な落とし所ではあるだろう。

そしてそうならば、と考え。私は魔術を解こうとした。したのだが。


「解除不能……現在暴走状態?」


私の目の前に表示されたのは【現在プレイヤー:灰被りの発動中魔術【魔灰の塔】は暴走状態にあります。発動を解除するのは現状不可能となります】と書かれたウィンドウだった。


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