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Chapter6 - Episode 35


私が灰被りに頼んで殺された後。

再び私がフィールド上に立つまでの数瞬の間……本当に、少しの間。

Arseare世界では、様々な事が起こったらしい。

何故ならば、私が【始まりの街】の宿でリスポーンして最初に見た物が【これよりボス撃退戦へと参加します】と書かれたウィンドウだったからだ。


当然、私の記憶では本の鑑定情報を読んだだけ。

それに伴う影響も、ダンジョン外から瘴気が出てくるようになっただけだったはずだ。

それがどうして、ボス撃退戦へと参加することになるのか……と言えば。


「多分、こっちが起こした影響を見てから自分達もやったパターンだよね、コレ」


ログには連続する見知らぬ2つの全体通知が存在した。

そのどちらもがイベントの進展を告げるもので、掲示板を開けば誰がやったのかは大体理解することが出来た……のだが。

私はそれを行ったプレイヤー、もしくはプレイヤー群を知らなかった。


1つは『死霊教皇』と呼ばれているプレイヤーによって。

もう1つは『魔女連合』というプレイヤー達の集まりによって、トリガーが引かれたらしい。

らしい、というのは実際に本人達が掲示板に書き込んでいるわけではなく、近場に居た他のプレイヤー達がそれらしい行動を目撃、全体通達も含めてある程度確定的だろう……という事らしい。


まぁ、誰々が何をやったか、というのは極論どうでもいいのだ。

問題は目の前に存在しているこのウィンドウについて。


否、参加すること自体は問題じゃあないのだ。

そもそもボスを引っ張り出せたらいいな、と思ってあの本を探していたのだから。

それでは問題とは何か?


「……知り合い全員と連絡が取れないし、パーティも外れてる」


恐らくは特殊なフィールドに転移でもさせられるのだろう。

私の知り合い達……死ぬ直前に話していた面々に通話しようとしても繋がる事はなく、それどころか組んでいたパーティからも外されてしまっているのだ。

だからと言って、死ぬ前にした約束を違えるわけにもいかず。

私は薄い希望を持ちながら、宿の部屋の中を濃い霧で満たした。


「とりあえずはうちのダンジョン前まで行ってみない事には始まらない、かな」


もしかしたら、通話が繋がらない事とパーティから外されている事に関してはそれぞれ別の原因がある……かもしれない。

あるいは誰か1人、もしくはメッセージか何かを残している可能性もある。というか正直、私はこちらの方が可能性が高いと思っている。

いつもの面々は我が強いものの、そういう所はきっちりしているのだから。


「被害は……まぁ気にしなくていいか。お金はあるし弁償すれば良いでしょ」


私は周囲の霧を操り、複数の魔術言語を構築、そして起動させていく。

といっても攻撃の為の構築ではなく、補助用……所謂バフを掛けるためのもの。

淡い光が私の身体を包んだかと思えば、視界の隅に表示されるバフ数がどんどん増えていくのが分かった。

……簡単に身体強化系かなって思ったのを複数使ってみただけだけど……ちょっとおかしいくらい効果が出てるなぁ。使い勝手、少し変わった?


新たな考え事が浮上したものの、別段今考える事でもないため私は気にせずに。

宿の部屋の窓を開け放ち、窓枠に足を掛けた。

インパクト重視……と言えば聞こえは良いだろうが、今からやる事は文字通りインパクト衝撃重視。

言うなれば、疑似【衝撃伝達】だ。


窓枠に掛けた足の裏へと霧を移動させ、そこに魔術言語を構築。

数回深呼吸をした後に、


「よし、行こう……ッ!」


言った瞬間、私の視界は急変した。

つい数秒前までは宿の窓から街が見えていたはずなのに、今の私は空を飛んでいる。

背後からは何かが崩れるような音が聞こえてきているものの、まぁ何とかはなるだろう。きっと未来の私が何とかしてくれるだろうし、最悪【始まりの街】に戻れなくても問題はないのだから。


問題は、今も空へと浮いている私の身体の方だ。

無理やり視線を地面だと思われる方向へと向けてみれば。高いとは言えないものの、低いとも言えない距離感の位置に【始まりの街】がそこにはあった。

考えていたこと……魔術言語を使って【衝撃伝達】での高速移動の真似事は出来ないか、というある種の実験は成功してはいるようで。

空を飛ぶ私の身体はどんどん街から離れ、【平原】の方へと運ばれていく。

だが、それだけだ。


制御が出来ているはずもなく、そもそもこれは魔術言語によって足との接地面に強力な衝撃波を発生させることで射出する……言わば人間大砲のようなもの。

狙い自体は付けられるものの、制御できるようなものではない。

だが、制御しなければ知らない場所へと吹っ飛ばされるだけだ。


「【血、狐】ッ!」

『――失笑』


それを避けるため。私は呼んだ。

こういう時に一番使えるであろう魔術の名を。

身体から大量の赤黒い液体が染み出したかと思えば、いつも通りの形を形成する前に波へと変化し。

そしてそれは現在の勢いを保ったままに、私を地面の方へと運んでいった。

何やらセリフ付きで、だが。


だが、こんな無茶とも、馬鹿らしいとも言える方法で移動したおかげか……普通ならば十数分程掛かる道のりが1分も掛からず。

私は自身の管理するダンジョン『惑い霧の森』の目の前まで辿り着くことが出来たのだった。


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