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Chapter6 - Episode 33


「連れてくるなら、まず説明をしてくれれば良いんですよ。えぇ。説明なしに拘束されたら敵かと思うじゃないですか。聞いてる?RTBN」

「あー、はいはい。後で聞く後で聞く」


危険な雰囲気だったクロエに対し、私が状況の説明を行うと。

彼女はすんなりと協力体制を取ってくれると言ってくれた。

……元々、説明役としてメウラをつけた筈だったんだけどなぁ。

視線をメウラの方へと向けて見れば、彼は彼で首と腕を横に振ることでこちらへと返してくる。


恐らくは説明を行う前にRTBNが独断で動いたのだろう。

昔からの知り合い同士だった為に、交渉もすんなり行くだろうと思ったのだが……どうやらRTBNという選択自体が間違っていたようだ。


「で、この本を調べれば良いんですね?」

「そうです。出来ますか?」

「一応私、新人も新人なんですけどね……大丈夫です。こと、こういう本・・・・・に限って言えば確かに私の専門でしょうし?」


そう言いながら、彼女は虚空から1つのアイテムを取り出した。


「「「げっ」」」

「ん?……あぁ3人は知ってる感じですか。でも詳しく知ってるのは……フィッシュさんとアリアドネさんの2人?」

「確かに俺は詳しく知らねぇが……」


取り出したのは、銀の鍵。

私は兎も角として、フィッシュが知っているのはまぁ進行度の都合なのだろう。

灰被りがそこに含まれていないのが少し不思議ではあるが。


「では失礼して……【開帳:目録の壱】」


彼女はそれを虚空へと文字通り挿しこみ、そして捻るようにして回す。

すると、だ。

裂け目としか言いようのない何かが鍵を中心に空中に広がっていく。

裂け目の奥には見覚えのある図書館が見えていた。しかしながら、あの時見た魔術言語の蛇の姿も気配も感じることは無い。


「あー、フィッシュさんとアリアドネさんは兎も角、他の人はこの奥見ない方が良いですよ。何に魅入られるか・・・・・・・・分かったもんじゃないですし」


そう言いながら彼女は楽しそうにその裂け目へと手を突っ込み、1冊の禍々しい紫の魔力を纏った本を取り出した。

明らかに悪性変異をしているであろうそれを、何の問題も無いかのように開き、そして。


「うん、これなんか良いですね――【禁書:鑑定の目】」


そこに書かれていたであろう、悪性変異した魔術をさも当然かの様に行使した。

瞬間、彼女の右目に濃密な紫の魔力が集まり……血の涙を流し始める。

だがそれも彼女にとっては問題ないのだろう。

血を拭う事すらせず、視線をテーブルの上の本へと向け。


「――よし、読み取れました」


簡単に、簡潔に、そう言ってのけたのであった。


「……え、もしかして今ので鑑定が終わったんですか?」

「えぇ、まぁ……えぇっとバトルールさんでしたっけ。メウラさんでも良いんですけど紙とかあります?鑑定した内容がちょっと長いんで、口頭よりは書いた方が早いかなって」

「あー、紙自体は沢山持ってはいるんだが……目、大丈夫なのか?」

「あぁ、これですか?平気ですよ。目が潰れた・・・・・程度、腕1本縫いぐるみになるよりかはマシなんで」


本人はさして問題がないかの様に言っているものの、目が使えなくなるというのは大問題だ。

だが、平然としているし……何より彼女の行動に何の淀みも感じられない。

まるで目が潰れた程度では、本当に何の問題がないかの様に。


「あ、それとアリアドネさん」

「ん、何?」

「霧を出して貰えますか?私も霧に関する魔術を持ってるんで」

「了解了解……っと」


クロエに言われた様に、しかしながら濃い霧ではなく薄く、この場から霧散していかないように操作しつつ霧を狐面から引き出していく。

恐らくは、現状。この状況において必要な魔術を使う為のコストとして霧を使いたいのだろう。


「ありがとうございます……と。【霧海ミスト】」


私が霧を引き出した瞬間。

その操作権が消失し、代わりに周囲を引き出した以上に濃く、白い魔力の込められた霧が充満し始める。

……これ、不味くない?

これまで何度か魔術を行使してはいるものの、現状私達が居るのは街の図書館という……言ってしまえばNPCなども利用している場所なのだ。

だからこそ、私達は周囲の迷惑にならない程度に魔術の範囲などを狭めていたのだが……どうやら、クロエの使った魔術はそんな制限など掛かっているようには見えなかった。


「クロエさん」

「大丈夫ですよ、灰被りさん……とと。出来た出来た」


咎めるような声をあげた灰被りに対し、クロエはそれでも問題がないかの様にメウラから渡された紙に、恐らく鑑定によって読み取った情報を、自らの眼から流れ出る血で記していく。

といっても、それを行うのは彼女自身ではなく。

……霧の操作、それも実体化させてやってる……。


周囲に充満している濃い霧。

それが彼女の頬を伝う血を拭い取りながら、紙へと情報を記しているのだ。

何をどうやっているのかは理解できる。

というか、魔術言語を使えば私にも近い事はできるだろう。

だが、私よりも後に始めた彼女がそんな魔術を扱っている事が私にとっては驚きだった。

……このゲームがPvP主流とかじゃなくて良かった……。


短いゲーム期間で、先達と同じレベルの発想、プレイングをしてくる相手と面と向かって戦うような事をせずに済んだ。

そう思わずにはいられない光景を見せられ、独り驚愕していると、


「終わりました」


彼女は指を鳴らしそう言った。

すると、それが合図だったのだろう。

周囲に充満していた霧は霧散し、跡形もなく消え去って。

後に残ったのは、テーブルの上に置かれた数枚の血で記された紙のみだった。


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