「戻りました」
「お帰りぃ……って、んん?」
「お帰りなさい。どうかしました?フィッシュさん」
ボスエリアから元の探索エリアへと戻ってみると、そこには何故か要塞のようなものが築かれていた。
当然といえば当然なのだろうが、メウラやRTBNなどのような陣地構築系の生産職が長時間同じ場所に留まっていたらこうなってしまうのだろう。
見れば、要塞の壁には土やホムンクルス以外にも、灰色や赤色の何かが混ぜられているのが分かるため他の2人も何かしらの魔術で補強自体はしているのだろう。
……パッと見だけでも、真正面からは崩せそうにないなぁこれ。
これと戦うとなったら中々に面倒だろう。
恐らくは周囲の地面などから自動補修、ホムンクルスを使っているために通常の回復魔術やアイテムも受け付けるのだから。
「いや、ちょっと嗅いだことある匂いだけど、少し違うような……うーん……いやまぁ良いか。所で、その仮面どうしたの?」
「仮面?……あぁー」
何やら気になる事があるようだが、それはそれとして。
フィッシュは私の頭に付けられている狐の面が気になったのか、少し訝しんだような目を向けてくる。
まぁ確かにボスエリアに入る前と入った後で少しばかり装飾などが変わっていれば気になるものだろう。
「なんか、戦ってたら変わってたんですよね」
「戦ってたら」
「えぇ、戦ってたら。なんでまだ私自身詳細を確かめてなくて。……まぁ何とかなるんじゃないですかね」
「一応、俺が見る限りは大丈夫そうだな。それ以外の装備が何時ぞやみたくドロッドロだが」
と、ここで近くに来ていた敵性モブを返り討ちにしていたメウラがこちらへと視線を向ける。
彼が問題ないと言うのであれば、特に私に対して不利益になるような効果は発生していないのだろう。
ただまぁ、きちんと確認自体はするのだが。
【霧式単機関車】を発動させ、全員が乗り込んだのを確認した後。
ダンジョンの外へと向かって発進させている間に、私は狐面を頭から外そうとして……手が空を切る。
「アリアドネ、それ多分実体ないかも。今見た限りすり抜けてたよ」
「あー……じゃあこうかな」
霧を操作する要領で、頭付近に意識を集中してみると。
確かにそこに操作が可能な霧の塊が存在しているのが分かる。
それをそのまま頭から離れるように、私の手に収まるように移動させてみれば。
「これまた特殊な装備になったなぁ……」
実体を持たず、白と黒の鈴の装飾が加わった狐の面がそこにはあった。
――――――――――
『魔霧の狐面』
種別:アクセサリー・ボスインフリクトアイテム
等級:特級
効果:装備者を中心に一定範囲内に魔力を含んだ霧を自由に発生させることが可能
装備者を中心に一定範囲内の霧を自由に操作することが可能
発生させた霧に実体を持たせることが可能
説明:『惑い霧の森』のボス『白霧の森狐』から与えられた狐の面が装備者の影響を受け変化した姿
自身の能力によって実体、不実体を行き来する
人や獣を惑わせ、時に魔術すらも曖昧にしてしまう力の一片が備わっている
注意:『白霧の森狐』の試練が継続中の為、一部性能が封印されています
――――――――――
「この中にボスインフリクトアイテム持ってる人は?」
「私はこの指輪がそうですね」
「俺は眼だな。義眼だ」
私の問いに答えたのは灰被りとメウラの2人。
しかしながら、私と同じようにアイテム自体が変化したり、ボスから試練を受けたことはないとの事。
「という事は……多分、深層の解放が最低条件な所ありそうですね」
「そうみたいですね……恐らくあと少しすれば私のダンジョンも深層解放関係のクエストが発生するはずなので、そこで確認しましょう」
「俺の方はまだ結構掛かるだろうから、こっちのボスに確認だな。試練関係で良いよな?」
「メウラはそれで。深層解放前に試練について聞いたらどういう反応をするかって所かな」
「りょーかい。……そろそろか?」
メウラが車窓に目を向ける。
【霧式単機関車】の速度を考えれば、そろそろダンジョンの出入り口近くまで来ているはずだ。
「コンダクター」
『正確には後1分26秒後に到着予定です』
「ありがとう。って事なんで、皆準備を」
私の言葉に、皆が頷きながら虚空に向かって何かを操作したり、自身の武器を取り出し、手入れの最終確認をしたりしている。
外の様子を確認してからにはなるものの、1つイベント仕様のダンジョンを潰したのだ。少しばかりは周囲の様子も変わっている事だろう。
……あ、キザイアに連絡するの忘れてた。
討伐完了した事、イベントの進行状況についての質問をメッセージで彼へと送っておく。
恐らく私以外にもイベントダンジョンボスの討伐をしているプレイヤーは居るだろうが……まぁ少しでも情報は多い方が良いだろう。
これで『駆除班』引率の元、イベントダンジョンの攻略が進んでいけば、イベント自体の進捗も早くなるだろうから。