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Chapter6 - Episode 28


最初の攻防は、お互い凝った事はしなかった。

『瘴侵の森狐』はただただ突進を。

私はその突進に合わせ、『面狐』によって切りつける。

お互いに避け、お互いに有効打にならない攻防。しかしながら、私の成長を実感するには十分すぎるものだ。


以前、というより『瘴侵の森狐』……『白霧の森狐』と一番最初に戦った時は、突進ごとに私を観察するように数秒止まってから攻撃をしてきていた。速さも当時の私が何とか避けることが出来るような速度だ。

だが、今はそうではない。本気だとでも言うのか、待機時間はなく、連続で突進をしてくるそれはほぼほぼ白い風のようにしか見えない。

当たれば確実に死ぬだろうという予感がするそれを、しかし私は余裕をもって回避する。


速いだけでは当たらない。

それが何度も繰り返され、しかしながら実時間にして数十秒しか経っていないのだろう。

先に攻め方を変えたのは『白霧の森狐』の方だった。

足を止め、しかしながら左右にその巨体を揺らしながら。

白く、私でも見通すことができない濃霧をその場に発生させ、それを境内内へと垂れ流し始めた。


……クッソ、【ラクエウス】が使えなくなった。

そしてそれだけで私の魔術が1つ封じられた事を悟り、私はその霧の中に入らないように【衝撃伝達】を使いながら広い境内の中を移動し始める。

【ラクエウス】は地面を注視することで、霧の槍や罠を発生させる魔術だ。

当然、地面が見えていなければ発生させることも、発動させることも出来ない。


狐面を使い出来る限り『白霧の森狐』の発生させた濃霧に干渉しようとするが、向こうも向こうで操っているのか、思ったように霧が動いてくれない。

当然だろう、こちらの持つ狐面は現在戦っているボスから与えられたものだ。

幾ら他でブーストしようが、結局は大本には能力で劣るという事だろう。


「……【霧狐】!」


私は走りながら、尻尾で地面を叩きながら声をあげる。

すると肩に霧が、身体全体から赤黒い液体が漏れ、それぞれが狐を形取る。


「索敵頼んだよ、【血狐】は遊撃」

『――了承』


短くそれぞれに指示を出し、私も私でどこで仕掛けるかを考え始める。

というのも、キザイアやフィッシュ達の話が目の前のボスにも適用されているのであれば、【血狐】の遊撃や、先ほどの突進に合わせた『面狐』による攻撃はダメージになっていない。

実際、戦闘が始まると同時に出現した相手のHPバーは1ミリも削れていないのだから。

しかも、ダメージを与えるという点で見るならば私がこうして攻撃を避けている場合、何も進展しない。


だが、一気に状況を進展させようとしても目の前の狐は許さないだろう。

白い霧の中、その白い毛並みと普段は無い燃える尻尾を揺らしながら、円を描くように周囲を回っている私へと視線を向けている狐は、一番最初の……私との初戦を再現しようと動いているのだから。

だから、恐らく。狙うならば初戦と同じタイミングを狙うしかない。

だが、


……何でもかんでも、思い通りに行くと思うなよ馬鹿狐

要するに私が口の中に入り、そして奴の体内で暴れてやればそれでいいのだから。

それを為すための力は……恐らく自分の中に存在している。

そしてこの状況を見越していたのかは知らないが、それを使う方法は既に教えてもらっている。

だから私は足を止め、この戦いを終わらせるべくしっかりと狐の姿を見据えた。


私が止まると同時、何やら狐の近くの霧が帯電し始めているがそれ自体はどうでもいい。

どういう効果を持っているかは分からないが、それ自体に触れなければ問題ないのだから。

長い間立ち止まる事は出来ないだろう。

それを証明するかのように、既に目の前で狐がこちらへと動き始めているのが目に見えた。

私の肩の上で索敵をしている【霧狐】も止まった私に対して慌てている。

……大丈夫、出来る。


「これ、あんたの腹の中で言ったから当時聞こえてたかは分からないけどさ」


今までとは違い、狐はすぐにこちらへと突進してくることはせずにその燃える尾を振るう。

それと共に、その巨体の周囲に鬼火のようなものが大量に浮き始めた。

だが、私もただ立ち止まって気取ったセリフを言っているだけではない。

周囲の霧を狐に干渉されない程度に操り、そして文字へと形を変え現象を引き起こす。

出現するは、氷の壁。それが複数私の周囲へと乱立し、周囲の気温を下げていく。


「私、言ってることとやってることが全然違うってよく言われるのよ。……『場に満ちるは白く境界を分ける世界』ッ!」


【コンテンツ『奏上』の使用を確認しました】

【契約神:天之狭霧神あめのさぎりのかみ……確認。力の一部が一時的にその身に宿ります】

【警告:『奏上』に干渉されています。『奏上』の効果が著しく下がります】


恐らくは目の前の馬鹿狐に干渉されているのか、以前のように強い熱が身体の中へと入ってくることはない。

ぬるま湯のような何かではあるが、それでも私の身体の中に神の力が入ってきたのがよく分かる。


「『扱うは一介の魔導を学ぶ獣人也』ッ!」


叫ぶと同時、馬鹿狐はこちらへと大量の鬼火を伴いながら突進してくるのが見えたものの。

その瞬間私の視界は赤黒い何かに覆われ、景色も流れるように過ぎていく。

遊撃に出した【血狐】がこちらを見て私の足になってくれに来たのだろう。

あとでしっかりご褒美をあげるとしよう。


神に対して願うのは、状況を進めるための一手。


「『信仰する彼の神に我は』……あーッもう!『面倒だから力を寄越せッ!』『思い通りに道を繋ぐ力をッ!!』」


面倒になって、口調が荒くなるが仕方ない。

これによって何かデメリットがあとで生じても、それは私が悪いのだから甘んじて受け入れよう。


……おぉ?!

だが、しかし。彼の神の何かの琴線に触れたのか、私の身体に入ってくる力の熱量が一気に上がる。

ぬるま湯程度だったそれが、熱湯レベルまで引き上げられ。身体を掻き毟りたい欲求に駆られるものの、それを抑え言葉を紡ぐ。

力を使う魔術は決まっている。前回は出るために使ったそれを、今回は入るために使う。


「【交差する道をクルーセス】ッ!」


瞬間、私の視界は更に一転した。


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