「ちょっと状況を整理しよう。キザイア。……何がどうしてそっちの攻略が失敗したの?」
『あぁ……ごめんなさいね、少し動揺してるみたい。とりあえず、結果は失敗。原因は……ボスに嫌らしいギミックが追加されてたからよ』
「ギミック?」
キザイア含む『駆除班』の面々は対モブ……それもボスを専門とした外部クラン。
そこらのボスに実装されていそうなギミック程度、言っては悪いが彼らの敗因には成り得ないだろう。
しかしながら、このゲームでのクラントップであるキザイアはそう言った。
「ギミックって言っても、特定NPCを探さないとボス戦にすら入れないとかそういう類のギミックじゃないでしょ?」
『流石にそんな門前払い系じゃない。きちんとボスとは遭遇自体は出来たさ。だけど、
「……相手に防がれたとかじゃなく?」
『えぇ。きちんと身体に命中してた。なのにダメージにならないのよ。最初はHPが強化されてレイド級になってるのかと思った……けどアレは違うわね。私や他のメンバーの切り札を切ってまでゲージが1ミリも削れないのははっきり言って異常でしかないわ』
ダメージが徹らない。だから何かギミックが存在する。
単純な思考だ。しかしながら、ゲームに出てくる敵に倒せない者は基本居ない。
それこそ負けイベントと呼ばれるようなものならば兎も角として、個別に、しかも同時に複数のプレイヤーが挑めるようなボス戦でそういった負けイベントはほぼ無いに等しい。
キザイア達はそれに戦闘中に思い当たった。
流石は専門クランと言うべきだろう。戦闘中にボスエリア内を精査するグループを新たに作り、そしてギミックに関係する何かを探したところ、
『何も発見できなかったわ』
「……何も?」
『えぇ、何も。正直負けイベントじゃないならどうしようもないわ。だって相手の無敵化を解くためのギミックが発見できないんだから』
そのセリフを聞いていた私を含める面々は1人を除いて暗い表情を浮かべた。
何せ、私達が今列車で向かっているのはボスエリアなのだから。
イベント限定のこの状況で、ボスに似たようなギミックが追加されていてもおかしくはない。
「あは、失礼。私も質問良いかな?キザイアちゃん」
『その声……フィッシュ?何か気になる事でも?』
「いやなに、普通の事さ。君らはどこのダンジョンに挑んだんだい?『惑い霧の森』の前に居たメンバーが言うにはキザイアちゃんが管理してる所に挑んだんだろう?数が多くて絞り込めないのさ」
『それは近くにあった『荒れた砂上の城』だけど……』
「成程、成程……あそこのボスは確か、砂で出来た王様だったっけ。物理攻撃が効かないから倒すのに苦労した覚えがあるよ」
唯一暗い表情ではなく、いつものように笑顔を……否。いつも以上に獰猛な、獲物を見つけた肉食獣を想わせるような笑顔を浮かべながら。
しかしながら坦々とフィッシュはキザイアと話していく。
『……何が言いたいの?』
「いやいや、まだ私も確信が持てなくてね?ちなみに今回、そのボスの王様はどんな強化がされてたんだい?」
『どんなもなにも、瘴気があったからか砂の身体が水分で硬くなってたわよ。これは弱体化かしら。あとはそうね、普通の行動パターンに加えて、電撃や炎を使った攻撃が増えてたわ。でもそれくらいよ?他に強化された所は特に無いわね』
「うんうん、オーケー。……あとはそうだねぇ。キザイアちゃん、本当に何も見つからなかったのかい?」
フィッシュのその言葉に、キザイアは沈黙した。
だがそれすら気にせず彼女は話を続ける。
「いや、多分見つけたんだろうさ。でもそれがギミックに繋がるとは思えなかったから、さっきもアリアドネちゃんに『何もなかった』って言ったんだろう」
『……はぁー……分かった分かった。負けよ負け。というか詰問みたいにしなくてもいいじゃない』
「あれ?もうネタ晴らしの段階まで来ちゃったかい?こういうの、普段はバトくんがやるからちょっと楽しかったんだけど」
『そういうのは慣れてからにして頂戴。……アリアドネ、ボスエリアまであとどれくらい掛かる?』
「あ、ちょっと待って」
突然こちらに話を振られたため、少し慌てながらコンダクターの方へと顔を向ける。
すると彼はこちらへ向けて、3本の指を立てた。
「あと3分程度だって」
『なら十分ね。私達が戦闘中に見つけたのは、ボスの身体……それも隠すように足裏やらに刻まれた文字よ』
「……文字?」
「あは、もしかしてその文字って【回帰】とか【貫徹】とかそんな感じかい?」
『答えが分かってるのに質問するのは先輩後輩変わらないわね。そうよ、『荒砂の狂王』に刻まれていたのは【回帰】。……でも、私達はこれくらいしか出せる情報はないわ。本当よ?攻略すら出来てないんだから』
彼の言葉は尤もだ。
確かにボスの身体に【回帰】と刻まれていた。それは情報としては中々重要だろう。
彼自身もう少しこちらの状況を確認してからだそうとしていたのだろうが、まぁそれ自体はどうでもいい。
問題はこの情報を引き出した上で、余裕そうな顔を保っているフィッシュの事だ。
「よし、決めた。ここのボスエリアはアリアドネちゃんだけに挑んでもらおっか」
「えっ」
『「「は?」」』