メウラや灰被りと合流した後、暫くして。
何時ぞや見た白いホムンクルスの馬に乗って彼女は現れた。
「……来たけど、何これ」
「やぁやぁRTBN。簡単に言うと、これからダンジョンアタックするんだけど人が足りなくてね?」
「……で、人手関係だったらホムンクルスを使える私を呼べば解決すると?」
「そういう事。まぁ本当はあと1人呼びたいんだけど暇そうな人が居なくて」
そこまで言うと、RTBNは溜息を吐きながら頭をガシガシと掻いた。
そのままホムンクルスの馬を溶かしつつ、地面に降りてくると、
「分かった、行きます。行けばいいんでしょう。メンバーはここに居る面々?」
「そうそう。後でここの深層の素材何個か見繕うね」
「……いや、素材よりも欲しいのがあるんだけど良い?」
「何?」
「
……あっちゃー、そう来たか。
彼女が言う通り、その一言だけで何が欲しいのか、何を報酬として求めているのかは十二分に理解できる。
私よりも行動範囲が広く、そして強い彼女が私に求める知識という報酬は……魔術言語の使い方に他ならない。
「……良いの?アレ、正直やろうと思えば誰でも出来る範囲だけど」
「少なくとも私はアリアドネ以上の使い手を知らない。というか、私も
「なぁるほどねぇ……うん、まぁ良いよ。じゃあこのイベント終わった後にでも」
そう言って、この場にいる面々にパーティ申請を送る。
今の会話自体は聞こえていただろうが、その事について突っ込んでくる者は居ない。
というか、今の面々は面々でそれぞれ特殊な部類の技術を持っているのだ。
そしてそれらを上手く伸ばしている者達でもある。
今更私のように小手先の技を増やし続ける意味も薄いのだろう。
「じゃ、皆準備良い?……あ、フィッシュさん。バトルールさんは?」
「うちの後輩なら確実に間に合わないから大丈夫。早くても合流は1時間後だってさ」
「了解、じゃ行きまーす」
そう言って、私は見慣れた森の入り口の前へと立った。
出てくるウィンドウに対しYESを選択する。すると、だ。
まるで入れと言われているかのように、私達パーティの前の霧が左右に退いて森の少し奥までが肉眼で見えるようになった。
……嫌な予感はするんだよねぇ。
しかしだがらと言って足を止める理由にはならない。
一度周りの顔を見渡し、一つ頷くと。
近くに居た『駆除班』のメンバーの1人へと対し、
「じゃ行ってくるよ。キザイアによろしく」
そう言って、私達は見知っているが全く知らないダンジョンへと足を踏み入れた。
【ダンジョンに侵入しました】
【イベント特別ダンジョン『瘴霧に侵された森』 難度:7】
【ダンジョンの特性により、MAP機能が一時的に制限されました】
瞬間、私達の周りの景色は一変する。
ダンジョンの入り口から入ったにも関わらず、背後は森の木々と少し紫がかった霧に覆われてしまい、後退する事は叶わない。
だがそれ自体は問題じゃない。元々がそういうダンジョンであるからだ。
「全員戦闘準備!」
「こっちは見えてねぇぞ!?」
「私の特別製だから!前方12時の方向!熊2匹!」
問題は私達の侵入を悟ってか、どこか理性の無い瞳をこちらへと向けながら走ってきているミストベアーらしき何か2匹だろう。
見た目自体は普段と変わりない。
だが、その身に紫がかった霧を纏っているのが気がかりだ。
「うーん、こっちの耳にも何も聞こえてこないねぇ……アリアドネちゃん、残り距離は?」
「大体100メートル程度、多分あと5秒後には接敵する速度です」
「よし、じゃあこうだ」
何をするのかと、とりあえず『面狐』を抜いて構えながら横目で見ると。
彼女は虚空から取り出した中華包丁を右手で振りかぶり。
たったそれだけだ。否、それだけの動作をしただけなのにドパンという何かが破裂した音と共に、私達へと迫っていたミストベアー2匹がその巨躯の殆どを消し飛ばされている。
およそ包丁を投げられ、そして当たったとは思えない……砲弾や何かによって殺されたと言った方が的確であろう死体が、そのまま生前の慣性そのままに私達の目の前まで運ばれてきた。
そしてすぐに光の粒子となって消えていく。
「よし、アリアドネちゃん他にこっち来てるのって居る?」
「……いや、居ないです……」
「ん?」
彼女にとってはこれはいつも通りなのだろう。
少し考えてみれば分かるが、彼女は純粋な近接戦闘職。
いつも相方として組んでいるバトルールは後衛と言えど、戦闘を自ら行うというよりはバフやデバフをばら撒き続けるサポーターに近しいポジションだ。
当然、空中への敵などに対応するための遠距離攻撃は必要となる……のだが。
少し予想よりも斜め上の威力のモノが出てきてしまったために、私とメウラ、そしてRTBNは軽く彼女に対して引いてしまっていた。
尚、灰被りに関して言えば、小さく「代償と膂力、あとは……」とフィッシュが目の前で起こしたことについて考察しながらウィンドウらしきものを弄っているように見えた。
ある種、彼女らしいと言えば彼女らしい反応である。