「こっち終わったよ!」
「こっちもこれでラストですっ!……うーん」
「お疲れ、何か問題でも?」
「お疲れ様です。いや、少し気になる事がありまして」
ミストスネークの首を切り飛ばし、私達を追ってきていた敵性モブの群れの対処は終了した。
途中、私やフィッシュの目の前を【霧式単機関車】が爆走して行った時は驚いたが、その分モブの数も減らしてくれた為、結果として予想よりも早く決着がつき、少しだけ休憩する時間ができた。
「気になる事?」
「えぇ、イベントの概要を思い出してくださいよ」
「概要……あぁ、成程。
「そうです。予想だとフィールド上にそれらしいのが大量発生してるのかなぁって思ったんですけど……見る限りそんな場所どころか瘴気自体見当たらないじゃないですか」
そう、瘴気だ。
イベント概要にはキチンと『瘴気の影から奴らはやってくる』という一文が記されている。
それなのに先程襲ってきたモブ達然り、【イニティ】に攻め込め込んで来ていたモブ達然り……どちらも瘴気から出てきた様子はない。
寧ろ、私のダンジョンである『惑い霧の森』から出てきているモブの方が目立っている。
掲示板をチラと開いてみれば、私のダンジョン以外にも他のダンジョンからモブが出てきていると言う報告もあるくらいだ。
「これ、フィールド上には瘴気出てないパターンでは?」
「あー……ダンジョン内?それだったら……あったあった。『ダンジョンから出てきたモブにフィールドのモブが触れられたら角と尻尾が生えた』だって。確定かな?」
「確定に近いですね……どうします?これ多分、それぞれのフィールドのダンジョンボスと戦うパターンですよね」
別段、ボスと戦うこと自体は問題ない。
そうなったらそうなったで、特殊なボス以外なら私とフィッシュが居れば第2フィールドまでのダンジョンボス程度圧倒できる。
「んー……こういう考えるのは私の役目じゃあないんだけど……よし、ちょっとアリアドネちゃんのダンジョン行こうか」
「その心は?」
「狐さん然り、巫女さん然り。暴れててもどっちもお互い討伐した事があって、尚且つ管理人がここに居るから、それらしいのがあったら分かりやすいから」
「了解です、それじゃそうしましょうか……一応メウラ達にも連絡入れます」
私はメッセージ画面を開きつつ、コンダクターに合図して機関車の扉を開けてもらう。
話は聞いていただろうし、私が乗り込んだらすぐにでも出発してくれるだろう。
フィッシュもその動きで察したのか、何やらペコペコお辞儀をしながら機関車へと乗り込んでいく。
本当ならばもっと車両数が多い方が人を運ぶのには良いのだろうが……その方向の強化はまた後で。今でも十分、4人くらいならば運べるのだから。
「……よし、メウラから返信も来たんで行きましょう」
「おけーい」
『出発進行』
私が乗り込んだのを見るや否や、コンダクターは機関車を動かし始めた。
先ほど私が操縦していた時よりも安定しているそれは、やはり役割の差なのだろうと思わずにはいられない。
これからは操縦関係は任せるべきだろう……時間のある時に自分でも出来るように教えてもらうが。
やはり自分の魔術なのだ。自分が満足に操縦できないのでは面子が立たない。
少しして、霧の機関車は見慣れた森の目の前へと到着する。
そこに集まっていた何人かのプレイヤー……見覚えがある『駆除班』の面々や、街などで会ったことのあるプレイヤー、そして全く知らないプレイヤーがそれを見て各々の武器を構えそうになるものの、中から出てきた私達を見てほっと安堵する。
誰が掲示板に書いたかは分からないが、少し後で霧の機関車については書き込んでおいた方が良いかもしれない。
「皆集まってどうしたの?入るなら入りなよ」
「あーいや、アリアドネさん。入りたくても入れないというか……とにかくちょっとこっちに来てもらえれば」
『駆除班』の内の1人に言われるがまま、彼らが立っている近くまで行き『惑い霧の森』へと入ろうとすると、だ。
【瘴気による干渉を受けています】
【現在このダンジョンに挑戦するには、管理プレイヤー:アリアドネとパーティを組んでいる必要があります……存在確認】
【イベント特別ダンジョン『瘴霧に侵された森』 難度:7に挑戦可能です。挑戦しますか?】
「あー……成程ねぇ」
とりあえず私の目の前に出てきたウィンドウを閉じ、フィッシュとこの場に居る『駆除班』3人ほどを近くに呼ぶ。
「なんだい?やっぱり面白そうなことになってる?」
「なってますねぇ……これ『駆除班』の方は情報回してたりしてんの?」
「一応既に掲示板の方には『駆除班』名義で。それと確かリーダーが管理しているダンジョンに現在挑戦中のはずです。なので近いかは分かりませんが、共通していそうな事項ならお渡しできるかと」
キザイアは既に行動中。流石はボス専門の外部クランのリーダーなだけはある。
だがこれでそんな彼に助力を願うという選択肢が消えてしまった。
一応は少し待てばメウラと灰被りも来るだろうが、
「このゲームのパーティメンバー数の上限って何人でしたっけ」
「さぁ?私はいつもバトくんかアリアドネちゃん達としか組まないから知らないなぁ……」
「6人ですね。特殊措置で10人や12人に増えたケースも確認してますが、基本は6です」
「オーケィオーケィ……じゃああと2人分の空きか……」
正直な話、中で何が起こるか分からないためパーティメンバーは知り合いだけで固めたい。
しかしながら、今目の前に居る3人の『駆除班』のプレイヤーも悪いわけじゃない。
寧ろ、ボスを討伐しないといけないのならば彼らのような専門家が居た方がずっと楽だろう。
……んー。知り合い……来れそうなの居ないよなぁ近く。
一応オンラインになっている知り合い達の名前に目を通す。目を通すが……全員が全員、我が強い面々ばかりだ。
使える魔術の癖も強いため、普段からパーティを組んで行動している、というのも少ないだろう。
となってくると、正直来るかは分からないが連絡を入れるのは1人だ。
多少遠くに居ても問題がない足を持ち、そして汎用性のある魔術を持つ知り合い。それは、
「フィッシュさん、バトルールさんは?」
「一応メッセ送ったけど、もうちょいだって。流石にすぐには間に合わないかな」
「了解です……仕方ないかぁ。来るかな」
「?」
「あー、いえいえ。少し面倒くさがりというか人見知りというか……まぁフィッシュさんは一回会ってますが」
私はフレンドリストから彼女の名前を呼び出し、メッセージ……ではなくゲーム内通話を開始した。
「あ、もしもしRTBN?今暇?暇だよね?ちょっとうちのダンジョン前まで集合してくれる?ありがとう、待ってるね」
『は?ちょっまっ』
「じゃねー」
通話を一方的に切り、満面の笑みで周囲に親指を立てる。
何故か周りは苦笑いをしているが、彼女の呼び方はこれで合っているのだ。
理屈を捏ねるよりも、まず来てもらう。これが彼女に