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Chapter6 - Episode 21


イベント当日。

私は珍しく【始まりの街】へと訪れていた。

というのも今回のイベントが何処から開始で、どういう風に移動すべきなのかが分からなかったためだ。

一応は知り合いであるメウラやフィッシュ、灰被りなどタイミングが合いログインが出来る面々と集合はしているため、道に迷う事も変な輩に絡まれる事もないだろう。


「今回のイベントは【集い祓え鹿の者を】。敵性モブ討伐系のよくあると言えばよくあるタイプのイベントですね」

「でもこのゲームでそんな楽観できるわけもないよねぇ」

「まぁ何かしらのレイドボスくらいは出てくるだろうなぁ……」


3人が話しているのを聞きながら、私は霧で作った椅子に座り掲示板を開いている。

こういうイベントに関しては、既に名前やその概要が公開されているため考察班とも言えるプレイヤー達がバックストーリーなどを調べ上げている事が多いからだ。

現にそれらしいスレッドを見つけることが出来た。


「あー、今回なんかフルフルって悪魔がボスかもしれないって言われてるっぽいですね」

「有名な悪魔だね。まぁ大体それで合ってるんじゃないかい?今回のイベント概要に出てた燃える尻尾やら、名前の鹿の部分を考えると大体話題にはあがるだろうし」

「そうなんですか?」

「そうなんです。まぁ作品によっては電撃を使ったり、嵐を呼び寄せたり様々な事をしてくるんだけど……今回ボスとして出てくるなら広範囲での攻撃がメインなのかなぁ」


フルフル。

調べてもあまり情報の出てこない悪魔だ。

それこそ『燃え立つ尾を持つ牡鹿の姿』だったりだとか、『炎の蛇の尾を持つ翼を持った鹿の姿』だったりと文献や人によって似ているようで違う姿だと言及していたりする。

そして一番の特徴として、三角形の魔法陣の中に入らせることが出来れば天使のような姿となって、秘密や神秘的な出来事についての質問に答えてくれる……という点だ。

今回、それがどういう形で関係してくるのかは分からないものの、レイドボスとして出てくる可能性が高いのであれば注意した方がいいだろう。

フィッシュが言っていたように、雷や嵐を呼び寄せる能力もあるこの悪魔は真正面から相手をするには面倒な部類なのだから。


……まぁどこにどんな形で現れるかによるかなぁ。

それさえ分かってしまえばこちらとしても大量のプレイヤーが存在しているのだ。

ピンポイントで大規模な拘束系の魔術などを扱えるプレイヤー達が足止め、高火力持ちのプレイヤーが攻撃を一点集中させれば変な相手でない限りは問題はないだろう。

千差万別、プレイヤーの数だけ魔術があるこの世界では対応できない相手の方が珍しい部類なのだから。


「まぁ私らは基本的にボス出るまでは遊撃とかになるんじゃないかな。索敵とか広範囲で出来るメンツじゃないだろう?このメンツ」

「恥ずかしながら……殲滅系なら得意なんですが」

「俺はゴーレム使えば出来なくはないが、まぁ混乱させないために今回は無しだろうしな」

「索敵は無理ですね。あ、広範囲で嫌がらせなら出来ますよ。自爆する可能性高いですけどねー」

「……予想以上に偏ったメンツだねぇ、今日。誰か他に居なかったのかい?」

「バトルールさんに期待してた所はあります」


今日はフィッシュの横にバトルールの姿はない。

彼は今、現実の方で野暮用が出来たとかなんとかでイベントが始まって少し経ってからログインするらしいのだ。

ちなみに今回集まっているメンツ以外の私の知り合いは大体が『ソロでやる』か『いつもの面々とやる』と言ってきた。

RTBNは仕方ないにしても、グリムやクロエに関してもそんな回答をされてしまったためどうしようもない。

まぁ恐らく彼女らは彼女らで何か隠したい魔術ものが出来たとかそういった理由なのだろうが。

戦場で会う事があれば連携をとっていきたいところだ。


「さて、時間かな?」

「そうですね、丁度正午です」


フィッシュと灰被りがそう言った瞬間。

一瞬、水のような液体の中に放り込まれた感覚があった後に【始まりの街】から見える空がどんどん暗雲に覆われていく。

それと共に空中に大きく人の顔が映し出された。


『あー、マイクテス、マイクテス……オーケェイ!どうも、初めましての方は初めまして!2回目の人はお久しぶり!イベント開始の音頭を務める事になった運営の木村です、どうも!』


以前、【双魔研鑽の闘技場】に司会として出てきた運営の人だ。

今回も彼はファンタジー作品に出てきそうな、ありきたりな『まほうつかい』のコスプレをしながらルール説明を開始してくれた。


『さて、今回も先にシステムメッセージで送っていたルールを見てもらえれば分かる通り!今日からゲーム内で数えて3日間、この世界に特殊な敵性モブが出現するので狩って狩って狩りまくってくれ!』

「……これ、毎回やるのかな」

「やるんじゃないですか?嫌いじゃないですよ、私」

「まぁ私も嫌いじゃあないぜ。パフォーマンスみたいなところもあるだろうしねぇ」


手元に出現したルール説明用のウィンドウに目を落としながら、隣のフィッシュに返答する。

彼女が言いたい事も分からなくはない。

ルール説明は大事ではあるものの、やはり早くイベント本番をやりたいのはプレイヤーの総評だろう。

それでも運営がルール説明をするのは……まぁ、文面で配っても読まないプレイヤーや、運営側の技術的パフォーマンスの部分もあるのだろう。


昨今流行っているVRMMOではあるものの、やはりゲームを出しているメーカーによって出来が全く違う。

ひと昔前の非没入型に近い、ほぼほぼ身体を動かす事ができないクオリティのVRMMOだったりがまだまだ多い分野なのだ。そんな中でクオリティの高いゲームを世の中にリリース出来ている、というのはメーカーとして一種のステータスなのだろう。

『こういったゲームを我々は作る事が出来ます!』と高らかに、普段表に出てこない運営側の人間が最大限アピールできるタイミングがここなのだ。彼らもその分張り切るのだ。


『皆が討伐した数、自身が討伐した数の両方でアイテムが貰えるから生産組の面々や戦闘にまだ不慣れなプレイヤー諸君も安心してくれ!戦闘に自信があるプレイヤー達はそれはもう盛大に狩っていけ!……尚、特殊な敵性モブが出現する範囲は第2フィールドまでと限定させてもらっている!これはそれ以上のフィールドに赴いた事のあるプレイヤーなら理由は分かってくれると思う!』

「あぁ、単純に戦う以前にフィールド環境が面倒になりますものね」

「そうだな。まだ【土漠】なんかは楽だがそれ以外は……面倒っていうか、環境対策が必要になってくるからなぁ……」


第3フィールドに関して、私はまだまだ知らない。

というか【土漠】以外訪れたことがないのだから当然だろう。

だが【凍土】や【海岸】が第2として存在している以上……恐らくはあれらをもっと酷な環境にしたのが、それぞれの第3フィールドとなっているのだと推測くらいは出来る。

当然、好んでそういうフィールドに行くプレイヤーは居るだろうが……まぁ基本は行きたくない人の方が多いだろう。


だからこそ、対策が必要のない第2まで。

妥当な所だろう。


『さて、長くなってしまうとアレだからここらで最後にしよう。……奴らは瘴気からやってくるぞ。瘴気の中から君達を狙い、そして襲ってくるぞ。畏れるな、懼れるな、恐れるな。逆転の一手はその中にある……イベント【集い祓え鹿の者を】。スタートだ!』


木村がそう言った瞬間、花火が打ちあがり【始まりの街】は歓声に包まれる。

イベントの開始だ。


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