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Chapter6 - Episode 20


霧が集まった後に出来ていくは、どこかで見た……否。

『惑い霧の森』の深層で見るようになったミストヒューマンに近い姿をしている人型だった。

但し、野生として出てくるミストヒューマンは基本的に服のようなものを着用していないのに対し、私の目の前に現れたそれはどこか車掌のような服を身に纏っている。


『創造主様、でございますか?』

「ん、えーっと、そうなる……かな?」

『私はこの【霧式単機関車】を創造主様に代わり操縦する者でございます。以後、お見知りおきを』

「あー、そういう……一応聞くけど、名前は?」

『ありません。創造主様の呼びやすい名を付けて頂ければ』


女性とも男性とも取れる声でそう言った人型……名無しの車掌は、私の目の前で深く頭を下げた。

それ自体は別に良い。名前を決めるという点も別に問題はない。

しかしながら気になる事が1つある。


「ごめん、名前決める前に聞きたい事あるんだけど良い?」

『何なりと』

「ありがとう。……君の説明、こっちだと『低い思考能力を持ち』って書いてあるんだけど、なんでそんな流暢に喋ったり色々と考えられてるの?」

『お褒めの言葉として受け取ります。答えとして、私はこの【霧式単機関車】を操縦する者として産まれました。そのため最低限の知識、そして創造主様の命令を把握、実行するための最低限の会話能力を獲得したわけです』


……それにしたって出来すぎだとは思うけど。

恐らく、【霧式単機関車】の等級の問題もあるのだろう。

この魔術自体は説明や等級強化時のログを見る限り、中級に収まるような魔術ではない。

一個か二個は上の等級の魔術である、と言われても遜色ない程には多機能なのだから。

その中でも、私とのコミュニケーションを必要とする部分……自立走行が出来ない分、私の目の前に現れた名無しの車掌がそれに関する能力を一身に引き受けているのだろう。

だからこそ、ここまでの会話が出来る……今はそう考える他ない。


というか、正直イベントまでの時間が少ない状態で考える要素を増やしたくはないというのが本音である。

使えるのなら使えるで現状はそれでいい。

何か問題が発生したらそれを解決するためにその場その場で行動すればいいのだから。


「成程ね……あ、じゃあ君の名前はコンダクターで。やっぱり分かりやすい方が良いし」

『把握致しました』

「で、早速なんだけど乗せてもらってもいい?行先はこのダンジョンの深層のボスエリアの前まで。行ける?」

『問題なく。ではお乗りください』


そう言って車掌……コンダクターは【霧式単機関車】の扉を開ける。

中は殺風景だ。それもそのはずで、現実の機関車に存在しているエンジン部分や操縦関係の機構は一切なく、代わりにハンドル代わりなのか『煙管:【狐霧】』の持ち手の部分が台座から生えている謎のオブジェが存在していた。


……一応、座席はあるんだ。

霧で出来ているため真っ白な座席……機関車であるのに電車などで良く見る座席に腰をかけつつ。

煙管を手に握りこちらの指示を待っているコンダクターに対して、


「出していいよ」

『では、出発オール進行アボード


瞬間。私の身体がぐんと後ろに引っ張られる感覚に襲われる。

早いものに乗った時特有の重力の感覚だ。

視線を窓に向けてみれば、いつも私が高速で移動している時の数倍は早く景色が流れていくのが見えた。

この速度ならば恐らくは数分あれば深層まで着いてしまうだろう。


「操縦中って話しかけても大丈夫?」

『えぇ、大丈夫ですよ』

「じゃあ聞くけど、進行上の木とかどうしてるの?避けてないでしょこれ」

『障害物は現状全て破壊して走行しております。環境に関しては問題ありません。時間は要しますが、大規模な地形破壊が起こったとしても現実よりも遥かに早く修復、元の状態に戻るのがダンジョン内の環境ですので』

「成程……」


思った以上にアグレッシブな走行をしているらしい。

……あ、なんか素材の入手通知流れた。

見れば私のログには木材や道中轢かれたのであろうミストウルフなどの素材の入手通知が続々流れていっているのが見えた。

【霧式単機関車】が私の行使している魔術だからだろう。しかし一応は補助魔術であるのだが、予想よりも攻撃手段としても優秀なようだ。


「……戦闘中、この機関車を相手にぶつけるの割とありかも……」

『創造主様の考えは否定しませんが、我々【霧式単機関車】は走行を主に置いている魔術でございます。出来る限り移動をする際に扱ってくれると幸いです』

「どうしようもない時だけにするから。そんな毎回毎回使おうとは思ってないから安心して。ごめんごめん」


釘を刺されてしまった。

だが戦闘中に使ったらどうなるのか確かめたい事には代わりないため、丁度明日から始まるイベント中に1度は使ってみよう。




数分後。

霧の単行機関車はしっかりと深層のボスエリア前へと私を乗せて走ってくれた。

道中、ミストオストリッチの群れに真正面から突っ込んだようだが……その群れがどうなったかは言うまでもないだろう。

余談ではあるが、ボスエリアへと辿り着いた私の前に現れた巫女さんに1時間『流石にやりすぎです』と怒られたのはまた別の話……。


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