予想よりも消費された素材数が多い。
それも半数はボス素材、しかも深層の巫女さんの素材が含まれている。
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【
種別:霧術・補助・特殊
等級:中級
行使:
制限:【形状を固定する(単行機関車)】、【霧のない場所では行使できない】、【使用時『煙管:【狐霧】』が使用不可となる】
効果:MPを最大値の50%消費し、『煙管:【狐霧】』を基部として霧で出来た実体のある魔導生成物1、2を出現させる
『魔導生成物1』
HP:(消費したMP量×50)
攻撃能力:走行
※等級が低いため、一部能力が制限されています
能力:『煙管:【狐霧】』を動力部に置き、人を乗せ移動することが出来る
『魔導生成物2』を1体出現させることが出来る
※等級が低いため、一部能力が制限されています
『魔導生成物2』
HP:(消費したMP量×1)
攻撃能力:なし
※等級が低いため、一部能力が制限されています
能力:プレイヤーの代わりに『魔導生成物1』を操縦することが可能
低い思考能力を持ち、自己判断を行う
※等級が低いため、一部能力が制限されています
詠唱:『霧は全てを形取る』
『音は恐怖を形取る』
『逃げろ、逃げろ』
『脱兎の如く、狐のように狡猾に追ってくるそれから』
『これは我が理想』
『我が走らせる恣意の具現也』
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……間違いなくやらかしてるなぁ、これ。
何を、というよりは全体的に。
どうにでもなーれと適当に欲望を書き込み過ぎたのか、魔術の効果が盛り盛りに、そのおかげで一部効果が制限されている状態となっているし、何やら詠唱まで付いている。
恐らくは中級という等級では扱うようなものではないのだろう。
そう考えると、灰被りやフィッシュ達の使っていた詠唱付きの魔術は……と少しだけ思考が脱線しそうになったため頭を横に振り、思考を元に戻す。
確かめておきたい。
【血狐】と同じように思考能力を有している魔導生成物を出現させる時点で、意思疎通が出来る何かが出現するのだ。
それが変な性格をしていないか……【血狐】のように、主人の事を『――嘲笑』などと言って笑わないかだけを確かめねばならない。
勿論、そんな性格だったら一度分からせる必要があるからだ。
「……巫女さーん」
『はいはい、何でしょう』
「反応早いですね。今深層って誰かいます?分体の方と戦ってる人」
『いえ、今はいませんよ。今日は誰もまだ来ていませんね』
「了解でっす、ちょっと騒がしくなるかもしれないですけど、今からそっちの方行きますね」
『ふふ、ではお待ちしております』
聞きたい事を聞き終え、私は境内から外に出る。と言っても同じダンジョン内ではあるのだが。
『白霧の狐憑巫女』に確認したのは、一応これから【霧式単機関車】を使ってみようと……恐らく、この魔術を使うには短い距離ではあるが、試運転にはもってこいな悪路を走行できるのかどうかを確かめるためだ。
もしかしたら劣化ボスに挑んでいないだけで、誰かが居るかもしれないが……まぁトレイン行為になりかけたら降りて戦えばいい。
それくらいの気軽な気持ちで私は歌うように詠唱を開始した。
「『霧は全てを形取る』、『音は恐怖を形取る』」
感覚としてはつい最近行った『奏上』のように。
喉に魔力を込め、空気を震わせながら宣言を行う。
「『逃げろ、逃げろ』。『脱兎の如く、狐のように狡猾に追ってくるそれから』」
一拍。少しだけ息を吸い直し、足りなかったら困ると狐面から一気に霧を引き出し、周囲の霧の濃度を上げていく。
「『これは我が理想』、『我が走らせる恣意の具現也』……【霧式単機関車】
言い切った瞬間、私の身体からごっそりと何かが持っていかれるような。力の源が消えていく感覚があった。
それと共に私の目の前には周囲の霧が集まり、気体から固体へと、曖昧な形から明確に形がある物へと変化していく。
「おっと」
突然、目の前の空間から煙管が飛び出し、徐々に機関車のような形になってきた霧の塊の中へと入っていった。
魔術の詳細にも載っていたように、あの煙管が動力部に設置されるのだろう。
煙管から出るであろう管狐達のことが少しだけ気になるものの、変な事にはならないだろうと楽観的に考えた。
……というか、変な事になるのであれば恐らくあの管狐達は反抗してくるでしょ。
そうして実時間としては数秒程経った後。
私の目の前には霧で出来た単行機関車……一両のみの列車が出来上がった。
大きさは駅などで良く見る電車に近いサイズ感。少なくとも小さすぎるという事はない。
だが私も詳しい事は分からないが、見た目は白であるものの、よく海外などで走っている蒸気機関車のようにしか見えない。
まぁ正直、こんな魔術ばかりの世界に現実にあるような電車がドーンと出てきても困るのだが。
だが、重要なのはそこではないのだ。
今回重要なのは『乗れて』、『簡単に意思疎通が出来るのか』。これに限るのだから。
私が出来上がった【霧式単機関車】へと近づいていくと。
目の前に更に霧が集まってきたのが分かった。