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Chapter6 - Episode 18


翌日。

今日がイベント前最後の準備日だ。

ちょっとした、街へと行ってアイテムを買い揃えるなど、やれることは今日しておいた方がいいのだが、私にはそれよりもやる事が1つある。

当然、悪性変異してしまった【脱兎】の等級強化だ。


「……って言ってもなぁ」


等級強化をすること自体は決まっている。

決まっているからこそ、等級強化をしたくないという気持ちも大きい。

なんせ、等級強化をしてしまったら制限をつけねばならなくなるのだから。


……霧の中だけ?一番無難なのはそれだよねぇ……。

一番無難でありながら、一番面倒な制限である【霧のない場所では行使できない】。

【衝撃伝達】や【霧の羽を】など既にその制限をかけている魔術に関しては、ほぼほぼ戦闘……それこそたまに戦闘外で使う程度であるために、そこまで困る制限ではない。

だが【脱兎】はこれまで、その使い勝手の良さから適当にその辺を移動する時にも使っていたのだ。

それこそ、霧を使わずに移動速度をあげる事が出来るため、他のプレイヤーの邪魔などにならずに。


「いっその事……結構一気に変えちゃうか」


それを解決する、というよりは。

寧ろ、【脱兎】自体を変えてしまうという考え。

これならば前提から崩れるのだから、【脱兎】ではなく全く新しい魔術について考えればいいだけになる。

正直、そうしてしまった方が色々と楽ではあるのだ。

使い勝手が良いからこそ依存してしまう。だからこそ、少しばかり使い勝手が悪くとも『敏捷性の向上』という元々の目的さえ果たす事が出来ればいい魔術を【脱兎】の等級強化で新しく創ってしまえばいい。


私は以前、それと同じような事を既に行っている。

【霧狐】を創った時だ。

だからこそ、どうやればいいのか。どう変えていけばいいのかは分かっている。


「変えるとして、問題はベースかぁ。あの時は【血狐】がもう有ったし」


元が存在しているからこそ、模倣が出来る。

だが、今回はオリジナルを創るのだ。基礎の部分が難しい。


「……でもどうせなら周りの知り合いが使ってたような……乗り物系?」


一つ、私の頭の中に過ぎったのはホムンクルスやゴーレム達に乗った知り合い達だ。

それぞれどの方向へと移動させるかなどの指示はあるものの、上に乗っている間は走る以外の他の作業を行う事が出来る。

それこそ乗り物が大きければ大きい程に、作業の幅は広がっていくことだろう。


……遠くのフィールドとか行くのに便利だよね。足があると。

確かに綺麗な景色を探しに行くのに徒歩というのは、色々な発見もある。

だが距離を稼ぐという意味では乗り物などに乗って加速した方が時間の短縮にもなるのだ。


「よし、じゃあ乗り物で……問題は何に乗るかかぁ……」


乗り物、と言っても種類は様々だ。

私の知り合い達は魔術の特性故か、生物の形をしているものが多い。

しかしながら街の中、他のプレイヤー達を見てみると空を飛ぶ絨毯や、かぼちゃの馬車のような童話をモチーフにしている無生物などを使った乗り物なども数多い。

だからこそ私は考え、


「きーめた」


【脱兎】の等級強化を開始した。


【魔術の等級強化が選択されました】

【【脱兎】の等級は現在『初級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『風塵狼の足』、『風塵鼠の耳』が規定数必要となります……規定数を満たしていません:『風塵狼の足』、『風塵鼠の耳』】

【『風塵狼の足』が上位素材『塵立兎の脚』に置き換えられました】

【『風塵鼠の耳』が上位素材『塵立兎の耳』に置き換えられました】

【【脱兎】の強化を開始します】


出現した魔導書のページの名前の部分を最初に消していく。

今まで頑張ってくれた魔術に対して色々思う事はあるものの、次からは新しい魔術として頑張ってもらおう。

名称は少し考えたものの、モチーフに近いものに。

効果は……私を乗せる事ができ、尚且つ実体があり、そしていざとなったら迎撃が出来る。

そんな効果を盛れるだけ盛っておく。別段、全てが承認される必要はないのだ。

私にとって必要な部分は『乗れる』、『普段よりも速く移動できる』。この2つなのだから。


勿論、この書き換えを行っている間にも私の腕には紫のオーラが纏わりつき攻撃を加えてきているものの。

正直慣れてしまえば対処も楽だ。

継続回復のシギルや、それこそ該当の部分をとりあえず消してしまえばそれらは一瞬で消えていくのだから。


【警告:名称未設定の状態では等級強化を完了することはできません】

【名称を設定してください……【霧式単機関車コンクラー】へと名称が変更されました】

【魔術効果が変更されました……一部承認】

【一部効果を書き換えました】

【魔術効果変更に伴い、インベントリ内から『霧霊狐の霧発器官』、『霧霊狐の血液』、『霧霊狐の毛皮』『狐憑巫女の霧発器官』、『狐憑巫女の血液』、『霧人の霧発器官』、『霧人の腕』、『霧人の眼球』、『霧人の足』、『霧人の血液』を消費しました】

【魔術効果変更に伴い、等級が『初級』から『中級』へと変更されました】

【【霧式単機関車】の等級強化に必要な適合アイテムが足りません】

【『言語の魔術書』読了による構築補助を確認しました。『カルマ値』を獲得します】

【等級強化を終了します】


「……あれ、もしかしてやりすぎた?」


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