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Chapter6 - Episode 14


境内に戻り、私以外のプレイヤーが侵入出来ないように設定した後。

インベントリ内から煙管と今回使うアイテムを2つ、それと『面狐』を取り出した。

Arseareの付加魔術は読み方自体は『エンチャント』であるものの。

創作など他ゲームに出てくるような不思議な力をパァと武具に付けるようなものではない。


「よし、ぶっつけ本番だけど……」


私は狐面から濃霧を引き出していく。

一気に引き出したそれを『面狐』に纏わせ、そして魔術言語によって実体化させていく。

形状は槌に。真っ白な気体の槌を作り出す。


付加魔術は、似非鍛冶だ。

鍛冶のようで、鍛冶ではなく。だが、鍛冶のようでもある。そんな技術だと私は魔術書を読んで理解した。

火は使わない。炉も使わない。

付加魔術に炉は必要なく、火として自身と空気中の魔力を扱うのだ。


「まずは『魔力球』と『霧玉』の2つに魔力で干渉する」


初めに行う工程は素材に対して魔力によって干渉し、そしてその形状を望む形へと変化させることだ。

最初にこの項目を読んだ時は意味が分からなかったが、ある程度を理解した今の状態ならばその意味が分かる。

Arseareにおいて、生物含めた物質は全て魔力によって出来ている……と『付加の魔術書』では定義されている。というかそう考えねば、この最初の工程から躓く事になる。


私は魔力を即席の霧の槌に通し、そしてその状態で2つの素材をそれぞれ適当な感覚で叩いていく。

何も考えていない方の適当ではない。丁度良いタイミングという意味での適当だ。

……ん、響く音と手ごたえが少し違う。

そうして分かるのは、僅かな音の変化と凡そ球体を叩いている時に感じないような不思議な感覚。

『魔力球』の方は、硬い物同士がぶつかるような音がしつつも、どこか柔らかいクッションを叩いているかのような手ごたえを。

『霧玉』の方も、硬い物同士がぶつかる音がしつつも『魔力球』の音よりは何音分か高く聞こえ、手ごたえ自体はほぼ無い。まるで空気でも叩いているかのような感覚だ。


だがそれだけではなく。2つの素材共に、私が振るう槌に対して、まるで磁力の弱い磁石同時を近づけた時のような弱い反発力が働いているのが分かった。

反発力が発生してしまっている理由は、私の叩くタイミング、そして力がその素材に合っていないためだ。

その為、慎重に。それぞれに合わせた速度で、タイミングで、力で叩いていかねばならない。



暫くして、どちらも徐々に形が変化していく。

球体から、平坦へと。そして両方共に、薄っすらと私の魔力を纏っているように見える。

ここまでが第一工程だ。


「次にこの2つを混ぜ合わせる」


そうして平坦になった2つの素材を重ね、二つ折りにしてから再度叩く。

これを何度も何度も……2つの素材が完全に同化するまで繰り返していく。

ここでも反発されないようにしなければならないために、少し面倒ではあるものの……黙々と叩いていく他ない。

……地味な作業だなぁ……。

だが、これをやらねば付加魔術を扱う事が出来ないのだから仕方ない。


「同化したら、魔力を纏った手で触れてこねる……一応霧の手袋作ってそれで触ろう」


言うや否や私は霧を操り、槌を作った時と同じように手袋を作り出し、そして素材に触れる。

手に触れた感触はどこかスライムのようで、延々と触っていたい気もしないでもないが……それでは作業が進まないために。

私はパン生地をこねるように素材をこねていく。

同化させたといっても、槌で叩き表面上だけ同化させたようになっているだけだ。

だからこそ、ここで自身の魔力を混ぜ込みつつちゃんと手を使ってきちんと同化させていく。


少し経つと完全に同化した素材が出来上がる。

霧の手袋で触れていたからか、少しだけ白が入った透明のスライムのようにしか見えなくなったものの。

しっかりと私の魔力が、そして元々素材に込められていた魔力が混ざり合っているのが目に見えて分かった。


「で、ここから……これで煙管を包み込むッ!」


粘度の強い物の中に、管狐の出てきている煙管を突っ込んでいく。

ズブブ、という音と共に素材スライムが煙管の内部まで入り込んでいくのが分かる。

管狐は少し苦しそうにしているものの、以前のようにこちらの作業を邪魔するような事はない。


煙管全体が素材スライムで包み込めた後。

再度、霧の槌を取り出し……私の魔力をしっかりと纏わせ、叩く。

……なんで見た目スライム、感触もスライムなのに硬い感触が返ってくるんだろう。

そういうものなんだろうと思うが、不可思議でもある。


「おっ、スライム無くなってきた」


続けて叩いていくと、素材スライムが目に見える形でその量を減らしていく。

それと共に煙管から染み出してきている管狐の身体が濃く、霧散していくまでの時間が伸びていった。

暫くして。素材スライムが全て消え、それと共に煙管から管狐が出てこなくなる。

……これで、付加魔術の工程自体は終了……。

そう、特に何かウィンドウが出るわけではなくここまでやったら付加魔術で行う工程は終わりなのだ。

達成感が無いと言えばそうなのだが、きちんと成功しているかも気になってしまうため煙管の詳細ウィンドウを開き確認する。

すると、


――――――――――

『煙管:【狐霧】』

種別:補助・特殊

等級:中級

効果:魔力を伴った霧を発生させる

   霧を消費し、霧で出来た魔導生成物を出現させる


『魔導生成物』

HP:10

攻撃能力:噛みつき、締め付け

能力:分裂能力を有し、【狐霧】の所有者から半径200m範囲内の隠されたアイテムを見つけ出すことが可能

   所有者の魔力を喰らう


説明:狐憑きは、富と不幸をその所有者にもたらす

   餌を供給している間は従順に、しかしながらそれが足りなくなった場合はその限りではない

――――――――――


「あぁ。成功してる。よかった……」


きちんと効果や説明が明記されている。

それはつまり、付加魔術が成功したことに他ならない。

これでようやっと、他の……大型イベントまでにやらねばいけない事に打ち込む事が出来る。

大型イベントまでの時間は、そう長くはない。


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