「おい、アリアドネ大丈夫か?!」
「……メウラ、ここ図書館」
「あっ……悪い。いやそうじゃなく」
自身の状況を確認してみると。
転送される前の状態……図書館で本を引き抜いた状態で私は帰ってきていた。
それと共に、私の身体から一気に血が染み出していく。
どうやら戦闘中についた傷がそのまま今開いたようだ。
「あー、この傷の事?これならすぐ塞げるから大丈夫」
「それならいいんだが……いや、うん。何があったんだ?」
「いやまぁ、適当に戦ってきたんだけど。あれ、もしかして身体転送されてなかったりする?」
「あぁ、お前その状態でずっと固まってたぞ。肩叩いても反応なかったし」
……精神だけ別のエリアに飛ばされた感じ、かな。
精神のみで戦い、そして傷ついた為にそのフィードバックが肉体側にきた形だろう。
回復が出来るものを持っていて助かった形だ。
「時間はどれくらい?」
「そんな長時間は止まってなかったぞ。10分もない」
「あー……時間加速もされてたかぁ……まぁとりあえずこの本のシリーズ読んじゃうね」
「お、おう……」
とりあえずということで。
私はここの図書館に来た目的を果たすために、手に取っていた『付加の魔術書~必ずしも全は個の為ならず~』を含め付加魔術関連の本をいくつかチョイスする。
……あ、そういえば報酬……。
チョイスした本を適当なテーブルに置きつつ。私はインベントリを確認する。
特殊イベントが終わる際、何やら報酬が手に入ったとのログが流れたのだ。それの確認をしていなかった。
「……メウラ」
「……まだなんかあるのか」
「いや、イベントの報酬で手に入ってたアイテムが見たことなくて。何か知ってるかなと」
「俺が知ってるのって生産系のアイテムくらいだぞ」
そう言いながら、私はそのアイテムをインベントリ内から取り出した。
それは、
「……あーっと……これは」
「『禁書庫へと至る鍵』。なんか制限アイテムというか、アレだ。イベントアイテム?みたいなやつ」
「銀の鍵、かぁ……いや、これ俺よりキザイアに聞いた方がいい案件だろ」
「あー、やっぱり?」
――――――――――
『禁書庫へと至る鍵』
種別:イベントアイテム
等級:???
効果:禁書庫へと至る扉を開ける
説明:銀の鍵。扉を開く為の鍵
これは鍵の形をした資格であり、最初の一歩である
――――――――――
銀色の鍵だ。
それも効果も説明も何一つ意味が分からないというおまけ付きの。
だが問題はそれだけではない。
インベントリ内から実体化させて初めて分かったのだが、この鍵は以前【挑発】の等級強化を行った時に現れた紫色のオーラが出現していた。
分かりやすくカルマ値に関係するアイテムだと言わんばかりの代物だ。
……一応、辻神事件からクトゥルフ神話は履修したけど。銀の鍵って厄ネタの一種だよねぇ。
通常と言うべきであるならば、銀の鍵は時空を超えてあらゆる場所へと行くことが出来るというゲーム内にあってもおかしくはないチート級アイテムだ。
しかしながら、それがそのままこの世界にあるとは思えない。
というかこの世界の場合、それがそれとして存在している場合。きちんと名前や説明などに元ネタによる影響が表れる。
それこそ、今回で言うなれば説明にある『銀の鍵』がそうだろう。
メウラがキザイアの名前を出したのもそれが理由だ。
「厄ネタしか出てこないなぁ……」
「まぁ周りにゃもっと変なネタばっか持ってる奴多いから大丈夫だろ。それももう他に持ってる奴いるんじゃねぇか?」
「あー……確かに。グリムさんとか持ってそうだよね」
「確かにな」
そう言いつつ、私は鍵をインベントリ内へと仕舞う。
正直そのまま仕舞って大丈夫なのか、という心配はあるものの。
以前から何かしら悪影響がありそうな辻神の素材をインベントリに入れているのだ。それで影響が出てきていないのだからある程度問題はないだろう。
私とメウラは互いの顔を見合った後、溜息を吐きながら本を読み始めた。
脱線しすぎたが、付加魔術を手に入れ『煙管:【狐霧】』をどうにかするのが元々の目的なのだから。
少しして。
私は『付加の魔術書~必ずしも全は個の為ならず~』を含めた付加魔術の参考書を読み終わった。
相も変わらず私の言語野が侵食されそうになる本だった。
だがその分、付加魔術に対する理解が深まるのが本当に解せない。
「終わったか?」
「終わったねぇ」
「じゃあある程度アイテムの使い方も分かったな?」
「うん、案内ありがとメウラ。色々横道逸れたけど」
「まぁお前と居るとある程度まともなプレイは出来ねぇ分、退屈はしねぇから別に大丈夫だぞ」
褒められてはいないように感じるが、まぁ良いだろう。
使える技術が増えた、そして問題を1つ片づける事が出来るようになったというだけで十分だ。
その後メウラに改めて素材をお礼として渡した後に別れ、私はそのまま『惑い霧の森』へと足を進めた。
【海岸】から出るのに再度メウラを呼んだのは言うまでもないだろう。