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Chapter6 - Episode 9


【海岸の街 マーレ】。

石造りの建造物が多く、潮の香りが漂ってくる街を歩きながら。

私達は図書館へと向かっていた。


【プレイヤー:アリアドネのステータス制限が解除されました】


「あ、解除された」

「やっとか。結構時間掛かったな」

「そうだね。あーでもリアル時間で2時間くらい?十分長いけど」


私の身体から黒い鎖が消えていく。

それと共に、私の視界に映る景色が一瞬倍速化……否。元に戻っていく。


「うわ、何これ。デメリットの反動凄い」

「あー、知覚系に作用するデメリットには良くあるやつだな……」


ぐわんぐわんと揺れているかのような感覚を感じながら。

私は倒れないように、メウラを手で制し一旦歩くのを止める。

身体強化系の魔術等によって強化されているのならば、システム的な補助が入るためこんなことは起きない。

しかしながら、今回はそうじゃない。

制限が解除されたからこそ、ステータスが元に戻っただけなのだから、システム的に認識に対して補助が入る事はないのだ。


「本命はこっちかなぁ……慣れるまでちょっと動けないもん」

「だろうな……移動系の魔術とか、あとは使役系か。そんなんが無いと厳しいだろうな」

「……よし、とりあえず動けるかも。ダメそうだったら【血狐】か、メウラのゴーレム使わせて」

「了解。じゃあ行くぞ」


ふらふらと少し身体が左右に揺れてしまうものの歩けないわけではない。

メウラもメウラで私に気を使っているのか、こちらをエスコートするかのように手を出してきた。

有難いと思いつつ、私はその手を掴み前へと歩いていく。

……正直、方向音痴的に覚えてもまたいけるとは思えないんだよねぇ……。


【カムプス】でも【イニティ】でも迷ったのだ。

正直、知り合いが居ないと辿り着けないというのも中々だが、マップを覚えていても迷うのだから仕方ない。

地理、地図との相性が最悪なレベルで悪いのだ。

……慣れてくれば迷わなくなるんだけどなぁ。


「あぁ、一応聞いておくが」

「何?」

「今何冊だ?」

「あー、魔術書の話?それなら3冊ね。そっち今何冊?」

「話が早くて助かる。一応2冊だ。ここのと魔術言語で」


魔術書。

各図書館に存在している技術系の本を読んでいくと手に入る、カルマ値に関係する本だ。

現状、読み返す事はしていないが……今後使う場面が出てくる可能性があると考えると持っておいて損はないだろう。

問題としてはカルマ値によって悪性変異してしまう魔術なのだが。


「……もしかして割とカルマ値上がったりする?」

「あー……普通に使う分には問題ないんだが……今回のケースだとまず間違いなく上がるだろうな」

「悪性変異しそうだなぁ……メウラは悪性変異ってした事ある?」

「あるぞ。というかアレどうすればいいんだ?その口ぶりだとやったことあるんだろ?」

「魔術言語で無理やり書き換えしたかな。等級強化と一緒のタイミングで」


以前、【挑発】が悪性変異した際はダンジョンボスの素材も使いつつ。

魔術言語によって無理やり悪性変異のカウンターを抑え込みながら元に戻した。

だが、アレはアレで私が魔術言語で魔術の効果を変化させるのに慣れているからこそ出来た芸当とも言えるため、自分以外の人に薦める事が出来るかというと……そうではない。


「魔術の効果書き換えた事ある?」

「あるにはあるが……付け加える程度だな。難しい事はやったことない」

「あー……じゃあやめといた方がいいかも。変異した部分を取り除きつつ、きちんと発動するように構成を組み替えていかないといけないから、ちょっと難しいかも」

「成程な。仕方ねぇ、少し他の方法で考えてみっか」


本当は請け負えるならば私がやっても良いのだが、流石に相手のプライベートというべき部分だ。

迂闊に提案するべきではないし、尚且つ迂闊に受けるべきではない内容だろう。


暫くして、私達は小さめの図書館に辿り着いた。

外見は街に存在する他の建造物と同じように石造りではあるものの、少しばかり纏っている雰囲気が違うように感じた。何か嫌な……それこそ、大型の肉食獣の大きく口を開けて待っているかのような。

そんな雰囲気を感じ取った。

……うん?なんだろうこの感覚。

横を見てみると、メウラは特に何も感じていないのか私の手を引いて歩いていこうとしている。

気が付いていないのだろう。特に警戒しているようには見えない。


「あ、メウラ。もう大丈夫だよ」

「そうか?了解」


何かあった時に手を取られていると不味い。

ある程度動けるようにもなってきた為、メウラから少し離れつつ。

何時でも武器を取り出せるように、片手を『面狐』の鞘へと添えておき、指一本で狐面に触れる事で自身の周囲へと薄く……本当に目を凝らさないと見えない程度に霧を展開させておく。

これで戦闘が起きたとしても何とか応戦は出来るだろう。


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