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Chapter6 - Episode 4


「すいません、お待たせしました」

『いえ、退屈はしてないので大丈夫ですよ。今も貴女の友人と戦っている最中なので』

「あー……フィッシュさんかな?」


朽ちた神社の境内。その中心で目を瞑りながら、何故かシャドウボクシングをしていた巫女さんに声を掛ける。

どうやら動きを分体と連動させて、私の知り合いの誰かと戦っていたようだが……突然動きが変わったら近接系の人ら以外は対応が難しいのではないだろうか。


「まぁ後で多分こっちに連絡が来るでしょう……さてと」

『早速やりますか?』

「やりましょっか」


狐面から濃い霧を引き出し、そしてそれを更に広く、濃く、境内の全体へと広がっていくように操作する。

普通の魔力も何も関係ないただの自然現象の霧だが、それでも舞台装置くらいにはなってくれるだろう。

霧に関係している神へと願うのだ。出来る限りそれらしい要素を集められるなら集めておいた方が何かあった時が楽だ。

……えぇっと、詠唱自体は適当で良いって話……あとメウラが詠唱してたのを思い出すと……。


「んんっ……『場に満ちるは白く境界を分ける世界』。『扱うは一介の魔導を学ぶ獣人也』」


思い出し、そして歌うように言葉を口から出す。

一応言霊と同じように喉に魔力を込め、そして周囲へと響くように言葉を紡ぐ。


【コンテンツ『奏上』の使用を確認しました】

【契約神:天之狭霧神あめのさぎりのかみ……確認。力の一部が一時的にその身に宿ります】


ログにそれが映ると同時、私の身体に変化が起きる。

といっても、外的な変化ではない。

突然、身体の内側へと熱のある何かが入ってきたのが分かる。

これが神の力という奴なのだろうか。


「『信仰する彼の神に我は乞う』。『魔の力の源を』」


言葉を発すると共にキィンという音が周囲に響き渡る。

ちらと視線を巫女さんへ向けると何もやっていないと首を横に振られた。

『奏上』を使うのは初めてだが、それでもこんな音が周囲に響くといった現象は聞いたことがない。

メウラが使った時も特にこんな現象は起きていなかった……ように思える。

私はあの時戦闘中だったため、確実に起きていなかったとは言えないのだが。


「『我は借り受けた力を新たな力を象るのに用いる』。『魔霧を発する煙管を象るために』」


用途を明確に、受け取る力の方向性を確定させる。

普段扱わないような強い力は、方向性を決めておかないと周囲へと悪影響を及ぼす可能性が存在する。

特に魔術が主な手段として扱われているこの世界では、そういった可能性も考えた上で行動した方が安全だろう。

といっても、魔力などが暴走し悪影響が発生した事件などはゲーム内の掲示板を見る限りは未だ発生していないようだが。


言い終わった瞬間。

周囲の霧が1つの拳大程度の球体へと変化し、私の目の前までふよふよと浮いてやってくる。

それを手に取れば、


【『魔力球:【神】』を入手しました】

【『奏上』により、一定時間プレイヤー:アリアドネのステータスに制限が掛かります】


というログが流れた。

どうやら『奏上』は上手くいったようだ。しかしながら、同時に私の身体に黒い鎖のようなものが巻き付き始めた。

どうやらこの鎖がステータス制限が掛かった時のエフェクトの様だ。


『出来たようですね?』

「そうですね、何かしらのデメリットあるとは思ってましたけどステータス制限かぁ……」

『……上まで戻れますか?私は流石に手伝えないので……』

「んー……いやまぁ、何とか出来るとは思います」


私はウィンドウを開き、フレンドの状態を確認してから通話をかける。

どうせ『惑い霧の森』に居るだろうし、丁度いい。


『――あぁ、お疲れ。どうしたんだい、アリアドネちゃん』

「フィッシュさんどうもです。今うちの深層に居たりします?ちょっと面倒な状況なんで。あ、もしアレだったらバトルールさんだけでも良いんですけど」

『成程ね、神社の方に行けばいい?救援とかそういう話だろう?バトくんは今死に戻り中だから難しいだろうねぇ』

「あー……成程。じゃあよろしくお願いします。侵入許可出しておくんで」

『はーい了解ー』


これで少しすればフィッシュがここへと来てくれることだろう。

通話を切り、巫女さんへと向き直る。

親指を立て笑顔を向けると、少し困ったような笑顔を向けられた。

……あー、巫女さんと戦ってたんだろうなぁ。


「あ、巫女さんは気にしなくていいですよ?」

『えぇ、まぁ……というかあの女性がここへ?』

「そうですね。……あ、隠れておきます?一応非戦闘エリアには設定してますけど」

『そうしておきましょう……あの人、私の事を食べてこようとするんですよ……』


何処か遠くを見つめている巫女さんの肩に手をそっと置く。

人に食べられる辛さは私も分かる。というか、分かってしまっている。

……あの人、踊り食いっていうか、相手が生きてる状態で食べるからなぁ……。

まぁ彼女のプレイスタイルを否定するつもりはないのだが、アレだけはもう体験したいとは思えない。


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