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Chapter6 - Episode 2


今回使うのは血と……それと彼女の骨で良いだろう。

元々使っていた煙管に合うよう骨を削り、そうして出た骨粉を血と混ぜ合わせ染料代わりにペタペタと適当に塗っていく。


適当にとは言っても、ただ塗りたくるわけではない。

使う用途に合うように魔術言語を選び、書く。


『成程、ここで魔力を吸収するんですか?』

「そうなりますね。折角良い言語があるんで、それを使う感じで」


使うのはRTBNのホムンクルスに使った、『周囲魔力吸収』。

それと共に、『魔力貯蓄量制限』という魔術言語も組み合わせておく。


『こっちの吸収?は大体意味が分かりますが、こっちは……?』

「あー、こっちはある種の保険ですね。魔力を周囲から吸収し続ける事になるんで」

『成程、変に魔力を集めすぎて災いにならない様にすると』

「そういうことです」


1つ話すだけでそれ以上を読み取ってくれる相手というのはやりやすい。

それだけ会話に割くリソースを少なく出来るからだ。


「起動用のフックとして『息を吸い込む』を組み込んで内部機構は完成っと」


煙管部分はこれで完成だ。

それ以外の部品に関しては、元々使っていた部品を元に、深層の素材を煙管と組み合わせることが出来るよう加工していく。

そこに特殊な技術は使わない。使わないのだが、


『えっと……?突然私の素材を四方八方に置いてどうしたんです?』

「あー、えーっとですね。巫女さんは儀式魔術って知ってます?」

『概要程度なら……でもあの技術はアイテム作成に関するモノではなかった気がしますが』

「そうなんですけど、そうじゃないんですよ」

『そうなんだけど、そうじゃない……?』


疑問符を浮かべる彼女の前で、私は準備を進めていく。

儀式魔術は、前提として魔術言語の習熟が必要なものだ。

【カムプス】の図書館で読んだ時は流れで読み、そして使ってこなかった技術ではある。


それも仕方がないと言えば仕方がない。

元々、儀式魔術というものは設置型の機械のようなモノなのだ。

一定の効果を、燃料である魔力が続く限り、一定の範囲内にもたらし続ける。そんな技術だ。

だからこそ動きながら戦うのが前提となる私にとっては基本的に使用することのないモノだと、そう考えていたのだが。


「確かに儀式魔術の主な内容はアイテム作成に関するものではないです。ただ、少し調べてみると色々と面白いものが出てきたりするんですよ」


素材を置き終わった私は、次いで適当な街で買ってきたチョークを使い、地面に魔術言語を書いていく。

内容はそれぞれでは意味のない、魔力を通しても何の効果を表さない単語を魔法陣のような形で配置していく。

だがそれで良いのだ。何故なら儀式魔術という技術はそうした単独では意味を為さない魔術言語達によって陣を作り上げ、そして意味を与えるものなのだから。


「今やろうとしてるのは、この出来上がった煙管と私を紐付けする……所謂、所有物であると示すための儀式です」

『それで何故私の素材を……?』

「いやぁ、本当は私が素材とか出せればいいんですけど、プレイヤーの血とかは消えちゃって素材化するには少し面倒なんで。調べてみたら近しい存在……私だったら霧や血を扱う者の素材を使えばある程度繋がりが作れるらしいんですよ」

『らしい、というのは』

「ぶっちゃけ、儀式魔術使うのこれが初めてなんで上手くいくか分からないんですよね」


巫女さんが苦笑いを浮かべているのが視界の隅に映ったが、まぁ仕方ないだろう。

こういう技術は使える時に使わないと、本当に一切使わない。

それにもし私に紐付けされなかった場合、変なモブに紐付けされるよりは巫女さんに紐付けされた方が対応が楽だろうという希望的な予想もあるのだ。


そうして少し喋りながら必要な魔術言語を書き終わり。

適当に魔力を流そうとした時に、一つ私はミスに気が付いてしまった。


「……あっ」

『どうしました?』

「いえ、あの。これ起動するための魔力が足りない……」

『?それがどうしたんですか?』

「いやいや、起動出来ないんじゃ今話してた事が全部無駄になっちゃうんですよ」

『あの……もしかして忘れてるのかもしれないんですが』


何やら巫女さんが苦笑いしながら、神社の方を指さしつつ。


『こういう時のために、『奏上』というものはあるのですよ?』

「あっ、あー……?」


『奏上』。

ゲーム内に存在する神と契約し、その力を借り受けることの出来るコンテンツ。

上手く使えば魔術の効果が一段、二段と一気に上がる戦闘だけでなく生産系プレイヤーにも必須と言えるモノだ。

一応私も使えないわけではないのだが……まだ一度も使った事がなかった。

否、使う場面がなかったのだ。


最近は『狐群奮闘』……霧によって象った狐達によって攪乱し、出来た隙を【血狐】と共に潰す、というルーチンが出来上がってしまったため、『奏上』を使う必要のある戦闘をしていないのだ。

生産に関してはそもそも私は生産系のプレイヤーではないため、物を作る事自体やってこなかった。


「でも『奏上』って確か、魔術の効果とかを上げるものじゃなかったです?」

『いえ、神の力を降ろすというものなので。それこそ、足りていない魔力を借りる、という使い方も出来るのですよ?何故か話を聞いていたり見ている限り、皆さん魔術を強化する方向でしか使っていませんが』

「へぇ……」


良い事を聞いた、気がする。

多く魔力を確保できるという事は、1人で大規模な魔術を発動することが出来るという事だ。

まぁ実際に1人で賄えないような魔術が創れるのか、という疑問も無いわけではないが……それでもロマンがあると言わざるを得ないだろう。


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