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Chapter6 - Episode 1


「……ん?おぉ、きたきた」


防衛クエスト等、諸々の『惑い霧の森』関係の事が終わり、数日後。

運営が遂に大型アップデート及び次回イベントについての情報を発表した。

リアルでその通知を受け取った私は、のんびりとやっていた家事などを手早く片付けると、フルフェイス型のVR機器を手に取り装着する。

そうして没入していくのは、最近熱中しているVRMMOの世界だった。



「えーっと?『次回大型アップデートとイベント開催について』……」


ゲーム内にログインして目の前に広がるのは、霧の立ち込める森の中の境内だ。

最近は街よりもこちらにいる事の方が多い私は、ついにログイン、ログアウトまでもをここで行うようになっていた。


『おや、人の子らのお祭りが始まるのですか?』

「そうですね、そろそろ始まります……って、大丈夫です?下の方」

『えぇ。今はまだ挑戦者も少ないですし……なんと言っても変わり映えしない面々なので、対応もそこまで力を入れる必要もありませんので』


すぅ、と霧と共に現れた半裸の美女……『白霧の狐憑巫女』に対し、軽く今回のイベントについて説明をしていく。

彼女は割とお喋り好きな性格をしているようで、私がここで何かしらの作業をしているとこうして良く姿を現すことが多かった。

今もある程度の意識は私がダンジョンの深層に設置した再戦エリアにて、フィッシュ達との戦闘に向けられているのだろうが……そこはボス。ゲーム内の存在だからこその思考分割でも行っているのだろう。


「……とまぁそんな感じで。今回は大型のボスか、或いは大量の敵モブが特殊なダンジョンから出てくる形になるみたいですね」

『成る程……広範囲殲滅や、各個人同士の連携などが求められるのですね』

「そうみたいです。……まぁ、私は連携できるのがどれくらい居るのかって感じなんですけど」


私は使う魔術が魔術であるために、正直知人以外との連携はあまり考えない方向で考えている。

それこそ、私と同レベルで霧が見通せたりするか、霧に関係なく索敵し攻撃出来る魔術を持っているプレイヤーでないと難しいだろう。


「だからこそ巫女さんの素材をいち早く回収しておいたんですけど」

『何度も何度も挑んでましたからね』

「1人で何とかできるって分かってるなら、自分の時間使ってやりますから。まぁこれらを装備にするならメウラとかの手を借りるんですけど……」


私は虚空からあるアイテムを取り出す。

それは、


『煙管、ですか?木製の』

「そうです。この森の木を使って私が作ったんですけど、ただの霧しか出せない魔術の魔の字もない、普通のおもちゃですね」

『成程?それを強化して使えるようにする、と』

「そんな感じですねー。丁度深層の方の木もある程度あるんで、一旦バラして、色々と巫女さんや馬鹿狐の素材を使って一気に強化しちゃおうかと」


アイテム名は『』。

本当に無銘の木製の煙管だ。

これを基部として、ボス達の素材などで強化すれば、ある程度使える装備アイテムにはなるだろう。


「じゃ、ちょっと始めていきますかねっと」


そう言うのと同時。

私は狐面から霧を引き出し、周囲に展開させる。


『意図を聞いても?』

「えぇ。まぁ前提として、私は魔力を伴った霧は展開できません」

『それは……あぁ、これ自体も』

「そうです。この霧自体も、狐面によって引き出した自然現象の霧でしかないんですが」


言いながら私は霧を集め、魔術言語を象らせる。


「こんな風に、操作能力だけはおかげさまで達者なので。実体が無くても魔術言語や立体的に図面を作ったりとか色々できるんですよ」


指をタクトのように振る。

すると文字の形をしていた霧が、私の手の中に収まっている木製の煙管と同じ形へと変化した。


『これはまた……器用ですね』

「ありがとうございます。本当は内部の傷み具合とかまで霧で知れたら良いんですけど、そんな魔術はまだ持ってないんで形だけ、それもガワだけですけど……」

『それなら私が手伝いましょう』

「え、良いんですか?」

『こうして喋る為に出てきているのです。暇なのですよ』


彼女はそう言うとパン、と柏手を打つ。

すると、周囲から魔力を伴った霧が集まってきた。

流石は家主と言うべきか、それとも私も似たような事が彼女の素材を使えば出来るようになるのかは置いておいて、手伝ってくれる意志を見せてくれている『白霧の狐憑巫女』に感謝を述べる。


「ありがとうございます」

『いえいえ。では傷み具合と内部の詳細部をこちらで担当しますので、大部分はそちらで』

「了解です」


ボスとの共同製作。

普通のゲームでは中々あるものではないために、少しだけ気分が高揚するのを感じながら。

私は手元に道具と素材、それと必要になりそうな魔術言語の準備を同時に始めた。


まず、煙管に求めるのは霧の安定した供給だ。

現在は内部に仕込んだ、羊皮紙に書かれた魔術言語を使うことによって霧を排出するだけの簡単な仕様。

それをまず、羊皮紙無く出来るようにしたい。


「素材はー……よし、巫女さんの素材を何個か使いますか」


彼女の素材をいくつか取り出し、並べていく。

本人が近くに居るのに、その素材をこうして手に取っているというのも変な感覚だ。

このダンジョンに出現するモブ達と違い、彼女の場合、血や声帯などの普通の人間にも存在する部位などが霧の発生に関係しているため、並べられていく素材も自然そうなるのだが、


「これだけ見ると猟奇殺人現場にしか見えない……」

『自分で言うのもなんですが、人間範疇のボスですからね。仕方ないかと』

「そうなんですけどねー」


さぁ、早速作業していこう。

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