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Chapter5 - Episode 38


見つけた道を歩いていくと。

その先には、やはりというべきか。一番最初に私が『白霧の森狐』と戦闘を行った廃神社がそこにあった。


【ボスエリアへと侵入しました】

【ボスとの戦闘を確認:『対話』が選択されました】

【ボスクエストの存在を確認:『最深部へと辿り着け』】

【ボスクエストの進捗が100%となりました】

【イベントを開始します】


通知が流れ、周囲から魔力を伴う霧が私達の目の前に集まっていく。

身構えるメウラに対し、苦笑いしながら警戒する必要はないと身振りで伝えると、


「すいません、少し遅くなりました」

『いえ、そこまで待っていませんよ』


『白霧の狐憑巫女』が私達の前へと姿を表した。

彼女の姿はやはり私が戦った時と同じだ。あの時見た生前の姿と思われる巫女服はもう見れないのだろうか。


「えぇっと……この人?がここのボスで良いのか?」

「あぁうん。『白霧の狐憑巫女』さん。ほら、直した神社に元々居た人達の中の1人」

「あぁ、成程……そっちの繋がりか」


突然現れたボスと普通に話し出す私に少しばかり困惑しているように見えるメウラに対して、私は相手がどんな存在かを簡単に説明する。

それと共に、私が防衛クエストの最後にここに飛ばされ彼女と戦った事も、だ。

彼女がしてきた事についてはぼかすが、それでも大変だった事が伝わるように話すと、メウラがこちらの事を信じられないような顔で見てきたため、少しだけ小突いておく。


『さて、ここまで辿り着いてくれた貴女には2つ渡さねばならないものがあります』

「あー、一応報酬出るんですね」

『私が呼びつけたわけですから。あと1つは絶対に渡さねばならないものです』


そう言って彼女は腕を軽く外側へと振るう。

すると、だ。


【ボスクエスト『最深部へと辿り着け』をクリアしました】

【参加人数集計……8人】

【報酬ランクを決定します。行動評価集計……完了】

【クエストクリア報酬をそれぞれのインベントリへと送信しました】

【プレイヤー:アリアドネに対し、劣化ボスとの再戦エリア配置権限を付与しました】


通知と共に、私と彼女の間に注連縄の付いた木の杭が出現した。

『白霧の森狐』の再戦エリアを設置した時にも使った白い杭にも似ているが、こちらは普通の木製にしか見えない。


――――――――――

『白霧の霊木杭』

種別:ボスクエストアイテム

等級:特級

効果:突き刺した場所を中心に、ボスとの再戦エリアを配置する事が出来る

   1度使用したら燃え尽きる

   ※『惑い霧の森』中層以降にしか設置できません

説明:『かつてこの地を治めていた一族の巫女は今を見る。自身に宿った魔の力を用いながら』

――――――――――


「ありがとうございます」

『いえいえ。またそれを使って貴女と戦える事を楽しみにしてますよ』

「はは……お手柔らかに……」


インベントリ内に追加された杭と、もう一つ。

クエストクリア報酬なのか『狐憑巫女の髪』という素材が入っているのを見つけた。

恐らくは先ほど流れた通知の報酬だろう。

ありがたく後で等級強化などの素材に使わせてもらうことにしよう。


「これで終わりですかね?」

『ん?いえ、まだ1つしか与えてないので』

「え?」

『よし、これで良いですかね……えいっ』


可愛らしい掛け声と共に、私の頭へとぽんと手を乗せると。

私の目の前に複数の通知と1つのウィンドウが出現した。


【権限所持者からの申請を確認】

【コンテンツ『神との契約』の前提条件を一部撤廃します】

【プレイヤー:アリアドネの行動ログ参照――『白霧の狐憑巫女』からの介入を確認】

【現在契約することが可能な神は次の2柱のみです】

【どちらかを選択してください】


突然現れたもの全てに思考が追いつかず、自身の動作が停止する。

否、こんなものが前触れもなく目の前に現れれば誰だって混乱はするだろう。

確かに目の前に存在するボスは神に仕えている神職ではあるが、そんな相手がこんなフットワーク軽くこんな事をしでかすとは思わない。

……えっと、いや。まてまて。とりあえず落ち着こう。


「……すいません、これって」

『えぇ、こちらがメインの贈り物ですね。上手くいって良かったです』

「……いえ、あの、突然すぎてですね」

『どちらの神もこの元神社で信仰……というより、力を貸してくださっていた神達です。まぁ少しばかり特殊ですが、アリアドネさんなら問題ないでしょう』

「……あ、はーい」


どうやら選ばねばならないらしい。

通知によると私が契約することが出来る神は現在2柱。

『白霧の狐憑巫女』の話も加味すると、十中八九霧に関係する神なのだろう。

その2柱の名前が書かれていると思われるウィンドウへと目を向ける。するとそこには『天之狭霧神あめのさぎりのかみ』、『国之狭霧神くにのさぎりのかみ』という名前が載っていた。

……どっちも古事記の初めの方に登場してる神じゃん……!!


彼の神達はどちらも古事記の国生みから神生みへと続く展開の中で生まれた神だ。

どちらも霧に関係する神ではあるが、『天之狭霧神』は山と野の境界に立ち渡ることの多い霧や、神聖な霧に関係するとされているし、『国之狭霧神』に関していえば地上に初めて生まれた霧に関係する神とも言われている、霧にこれ以上ないくらいに関係をもっている神達だ。

欲を言えばどちらを選択、というよりもどちらも選択したい。


「……違いは……あぁ、供物とかそこかぁ」

「……なんか大変そうだな」

「まぁね、でも面白いから良い感じ」


既に似たような事を経験しているであろうメウラに同情の視線を向けられているが、正直この状況は面白い。

思ってもみなかった所から、突然今よりも強くなれるであろうコンテンツに触る事が出来るのだから。


「よし……じゃあ私は、こちらの神にしようと思います」


そう言って、ウィンドウ内の片方の名前を選択する。


【プレイヤー:アリアドネの選択を確認】

【神:『天之狭霧神』との契約ラインを構築……コンテンツ『奏上』が使用可能となりました】

【詳しい説明はゲーム内Tipsを確認してください】


『ふむ、どうしてそちらを?』

「私の持ってる魔術と、装備の関係ですねー。『白霧の狐輪』もそうですし、転移する魔術も持ってるので、どちらかと言えば相性が良いと思いまして」

『成程……あぁ、詳しい話はまた後になりますが、供物を捧げる場合はここまで来ていただければ』

「あ、本当ですか?後で確認しますけどありがたいです」


この後、適当な雑談をした後。

また来る事を約束し、私とメウラはその場から離れる。

そういえばあの馬鹿狐は結局出てこなかったが、いろんな意味で大丈夫なのだろうか。


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