数日後。
タイミング次第で都合が合う知り合い達を集め、今回の防衛クエストによって開放された中層以降の探索を行っていた。
目的は勿論、最深部へと辿り着く事。
「んー。景色は良いなぁ。結構植物の浸食が進んでるけど」
周囲を見渡すと、それがよく分かる。
まだ『惑い霧の森』、その上層とも言うべき慣れ親しんだエリアは森であるといえる程度のモノであったのに対し、中層以降は木が木に巻き付いていたり、何かの動物の骨がまるで一種の芸術品のようにツタなどに絡まっていたりと、森ではなく別の何かと表現した方が良い様相を呈していた。
「呑気な事言ってないでこっち手伝え!アリアドネ!!」
「あーはいはい。【血狐】~?」
『――遊撃』
「役割分かってるなら良し、行ってきな」
今回、私と共に探索を行っているのはメウラだ。
今も周囲にゴーレム達を展開しつつ、近くに来ているダチョウなどの新規モブ達と戦闘を行っている。
そう、一応今も戦闘中なのだ。
……まぁ、でも。やっぱり余裕は出てくるよねぇ。
防衛クエスト中、1人で複数体を相手にした経験からか、それとも『白霧の狐憑巫女』と戦闘を行った影響か。
中層以降に出現する新規モブとの戦闘で、いまいち緊張を保つことが出来ない。
行動パターンがある程度わかっているからだろうか。それとも、どうやっても対処できるという自負からだろうか。
どちらにせよ、このままだと変な所で足をすくわれかねないため意識的にある程度の緊張感を持った方がいいのだが。
「とりあえず、私も行くか」
既に【血狐】は赤黒い波となりながら、小型のモブ達を飲み込み圧縮し、光の粒子へと還している。
こちらに向かって騒いでいるメウラもメウラで、何だかんだ言ってゴーレムや色々な魔術を用いてダチョウなどの大型を捌いているのだ。
ここで私が何もしなくともいずれ戦闘は終わるだろうが、それはそれで今私がここにいる意味がない。
「まず、確実にッ」
【衝撃伝達】によって飛ぶように加速し、メウラへと接近していたミストヒューマンの近くまで移動する。
突然の加速、そして目の前まで来られた事に対し、纏っている霧から別のモブを出現させるという厄介な能力も発動が間に合わないようで、少しばかり驚いているような感情が伝わってくる。
……ここら辺になると、その辺のモブも感情が少し出るようになってくるの中々だなぁ。
その勢いのまま独楽のように横回転をしつつ。手に持った『面狐』によって相手を切りつければ。
相手の身体には1本の深い裂傷と、それに連なるように3本の巨大な爪で抉られたかのような傷が出現し、そのままダメージに耐え切れず光の粒子となって消えていく。
自身の勢いによってそのまま吹っ飛んでも仕方ないため、その場で更に回転。
尾を伸ばすことによって、身体を安定させ、その場に留まった。
「助かった」
「これくらいはやらないとね。よーしとりあえずこの辺り制圧しようか」
言うは易く行うは難し、という言葉があるものの。
実際、今のように1体1体の対処は簡単に出来てしまうのだから、あとは複数体で来た時に対処の順番、仕方を間違えなければいいだけの話なのだ。
だからこそ。私はそれを絶対に間違えないように周囲の霧を操った。
「……前に見た時も思ったが、やっぱそれプレイヤーってよりボスが使うタイプの技だよな」
「あー、実際ボスが使ってきたよ。ここの最深部に居る人」
「は?」
「戦闘はないとは思うけど、もし劣化ボスと戦う気なら頑張ってね?私、馬鹿狐の時みたいに結構無茶して勝ったから」
言いながら、霧を狐の形に成型し。
それを数十体という規模で周囲に展開させた。
防衛クエストで初めて使った、中に魔術言語を仕込んだ狐型の非実体のトラップだ。
自前の霧操作能力によって細かい動きなどを行うことが出来るため、中々に重宝することが出来る。
「じゃ終わらせるよ」
「あ、あぁ……」
何やらメウラが驚いているが、こんなもの本当に小手先の技術でしかない。
私としては、どちらかと言えばメウラや灰被りのように神の力を降ろす技術、コンテンツを扱える方がよっぽど驚くべき内容であると思うのだが……やはり隣の芝生は青く見えるという奴なのだろうか。
「よーっし終わり。じゃあ行こうか」
「おう、適当にこの辺にゴーレム置いて砕かせておくわ」
「任せたー」
氷漬けとなったモブ達の中、私とメウラは更に奥へと足を進めて行った。
森が深くなるにつれ、足場なども悪くなっていくがそれ自体は問題はない。
ゴーレム使いのメウラがいれば、その場その場で安定した足場をゴーレムによって作り出してもらう事が可能だし、何なら私は特定の足場に拘って戦うような固定砲台型のプレイヤーでもないからだ。
そんな戦闘を何度か繰り返し歩くこと暫し。
石造りの
今の今まで道のような道など存在していなかったのに、だ。
「アレか?」
「アレだろうね。行こう」
霧が見通せる私が先頭に立ち、私達はその突如出現した道に沿って移動を開始した。
その先に待つのが本当に最深部かどうかは分からないが、それらしいものを見つけたのだから。