私が選択した瞬間、『白霧の狐憑巫女』の身体が光に覆われ、傷が急速に癒えていく。
『……成程、貴女は私を助けてくれるのですね』
「あ、喋れるようで何よりです。まぁ、色々と聞きたい事もありますし……何より、あの馬鹿狐と会わせてみたいですし?やっぱり狐じゃなくてプレイヤー以外の話せる人も欲しかったですし」
『そう、ですか。……ではでは。これから私もお世話になることにしましょう。えぇっと、こういう場合は渡すものがあるんですよね』
見た目はそのままに、戦闘が始まる前のように話し始めた彼女に少しばかり驚きながら。
彼女の身体が霧に覆われていくのを見た。
『白霧の森狐』が私に『白霧の狐面』を寄越した時と似ているものの、どこか違う。
『手を』
「はいはい?」
とりあえず言われた通りに手を差し出してみれば、彼女を覆った霧が私の手のひらの上へと集まり、指輪の形を型取っていく。
……木製の指輪?
出来上がったのは、木で出来た指輪だ。
狐の全身を指輪にしたかのようなそれは、どこか冷たい雰囲気を纏っているように見えた。
「付けてみても?」
『どうぞ、それは貴女のための指輪なのですから』
「ありがとう」
【特殊アクセサリーが装備されました】
【データ観測……該当データ発見】
【第一候補効果設定……承認、実装します】
【ボスインフリクトアイテム『白霧の
――――――――――
『白霧の狐輪』
種別:アクセサリー・ボスインフリクトアイテム
等級:特級
効果:装備者を中心に一定範囲内の霧を自由に操作することが可能
霧による空間把握能力の向上
空間操作、転移能力にボーナス補正
説明:『惑い霧の森』のボス『白霧の狐憑巫女』から与えられた狐の指輪
その力の源は、今はもう現世には存在しない
――――――――――
「……強くない?」
『あら、そんな能力になったんですね』
「あ、もしかして見えてます」
『えぇ、見えてますよ。与える側もどんな能力になるかは分からないので、面白いですねコレ……あぁ、そういえば。あの子はクエストも与えていたんでしたっけ』
そう言うと、彼女は手を一度軽く振る。
すると、だ。
【ボスクエストが発生しました】
【ボスクエスト『最深部へと辿り着け』を開始します。非フォーカス状態での開始となります。メインに設定する場合――】
――――――――――
『最深部へと辿り着け』
『白霧の狐憑巫女』から与えられたクエスト
濃霧の森の最深部へと辿り着き、再度彼女へ会おう
種別:ボスクエスト
進行度:0%
――――――――――
「あ、行くだけで良いんですか?」
『えぇ、こちらへ来ていただけるだけで十分です。と言っても、道中大変でしょうが』
「まぁそこら辺は承知の上ですよ。一回戦った相手ならある程度の対処は分かりますし?」
『ふふ……頼もしい限りです。おっと、そろそろ時間ですね』
彼女がそう言った瞬間、私の身体が光に覆われていく。
どうやらこの場から退場させられてしまうようだ。
「ではまた近いうちに」
『えぇ、お待ちしております。……あぁ、あと。その狐面から見ているでしょう狐も一緒に来なさいね。顔くらいは見せなさい』
彼女のその言葉と共に、私の視界は白く染まる。
次の瞬間、私は元々居たボスエリアの境内へと戻ってきていた。
【Last Wave Clear!】
【ウェーブ防衛をクリアしました】
【クリア報酬:『霧玉』】
「あー!アリアドネちゃん戻ってきたァ!一体どこ行ってたんだい?こっちは結構大変だったよ」
「うぐぅ」
戻ってきた瞬間、近くに居たらしいフィッシュに抱き着かれる。
そのまま私の身体をまさぐりつつ……腹部に触れた瞬間、
「おっとすまない。バトくん治療」
「はいはい……と、止血は出来ているようですね」
「そういう魔術が得意なもんで。ありがとうございます」
どうやら抱き着いたりまさぐられたのは、傷を探すためだったらしく。
即座に私の腹部……霧の刃によって刺され、【血狐】によって止血してもらった傷を見つけ出し、治療魔術にも精通しているバトルールを呼び寄せた。
バトルールもそれが分かっていたのか、発動準備をしながらこちらへと近づき、すぐに傷の具合を確認。治療を開始してくれた。
「これで終わりかしら。長かったわね……」
「終わったなら、私一回殺してもらっても良いですか……?流石にこのままじゃ嫌なんですけど……」
「あぁ、そういうことなら私がやろうかぁ。丁度余ってるホムンクルスも居ることだしねぇ?」
どうやら欠けたメンバーはいないようで。
他の面々も防衛クエストが終わったからか、それぞれが好きなように行動し始めたようだった。
あとで今回参加してくれたメンバーに感謝の品を贈らないといけないな、と思いつつ。
「今回も無事終わったなぁ……」
「その状態で無事って言えるのか?」
「生きてれば無事だよ無事。メウラだってそうでしょう?」
「まぁな」
近くに来ていたメウラと話しつつ。
私は次にしたい事を既に考え始めていた。
とりあえず、直近の目標としては最深部へ辿り着く事だろうか。
『白霧の狐憑巫女』にまた会おうと約束したのだ。出来るだけ早く行くべきだろう。
……あの馬鹿狐は分かってるだろうけど、どうにかして連れて行かないとね。
私は治療を受けながら空を見上げる。
蒼い、そして変わらない空がそこには広がっていた。