目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Chapter5 - Episode 36


私が選択した瞬間、『白霧の狐憑巫女』の身体が光に覆われ、傷が急速に癒えていく。


『……成程、貴女は私を助けてくれるのですね』

「あ、喋れるようで何よりです。まぁ、色々と聞きたい事もありますし……何より、あの馬鹿狐と会わせてみたいですし?やっぱり狐じゃなくてプレイヤー以外の話せる人も欲しかったですし」

『そう、ですか。……ではでは。これから私もお世話になることにしましょう。えぇっと、こういう場合は渡すものがあるんですよね』


見た目はそのままに、戦闘が始まる前のように話し始めた彼女に少しばかり驚きながら。

彼女の身体が霧に覆われていくのを見た。

『白霧の森狐』が私に『白霧の狐面』を寄越した時と似ているものの、どこか違う。


『手を』

「はいはい?」


とりあえず言われた通りに手を差し出してみれば、彼女を覆った霧が私の手のひらの上へと集まり、指輪の形を型取っていく。

……木製の指輪?

出来上がったのは、木で出来た指輪だ。

狐の全身を指輪にしたかのようなそれは、どこか冷たい雰囲気を纏っているように見えた。


「付けてみても?」

『どうぞ、それは貴女のための指輪なのですから』

「ありがとう」


【特殊アクセサリーが装備されました】

【データ観測……該当データ発見】

【第一候補効果設定……承認、実装します】

【ボスインフリクトアイテム『白霧の狐輪こりん』の効果を発現します】


――――――――――

『白霧の狐輪』

種別:アクセサリー・ボスインフリクトアイテム

等級:特級

効果:装備者を中心に一定範囲内の霧を自由に操作することが可能

   霧による空間把握能力の向上

   空間操作、転移能力にボーナス補正

説明:『惑い霧の森』のボス『白霧の狐憑巫女』から与えられた狐の指輪

   その力の源は、今はもう現世には存在しない

――――――――――


「……強くない?」

『あら、そんな能力になったんですね』

「あ、もしかして見えてます」

『えぇ、見えてますよ。与える側もどんな能力になるかは分からないので、面白いですねコレ……あぁ、そういえば。あの子はクエストも与えていたんでしたっけ』


そう言うと、彼女は手を一度軽く振る。

すると、だ。


【ボスクエストが発生しました】

【ボスクエスト『最深部へと辿り着け』を開始します。非フォーカス状態での開始となります。メインに設定する場合――】


――――――――――

『最深部へと辿り着け』


『白霧の狐憑巫女』から与えられたクエスト

濃霧の森の最深部へと辿り着き、再度彼女へ会おう


種別:ボスクエスト

進行度:0%

――――――――――


「あ、行くだけで良いんですか?」

『えぇ、こちらへ来ていただけるだけで十分です。と言っても、道中大変でしょうが』

「まぁそこら辺は承知の上ですよ。一回戦った相手ならある程度の対処は分かりますし?」

『ふふ……頼もしい限りです。おっと、そろそろ時間ですね』


彼女がそう言った瞬間、私の身体が光に覆われていく。

どうやらこの場から退場させられてしまうようだ。


「ではまた近いうちに」

『えぇ、お待ちしております。……あぁ、あと。その狐面から見ているでしょう狐も一緒に来なさいね。顔くらいは見せなさい』


彼女のその言葉と共に、私の視界は白く染まる。

次の瞬間、私は元々居たボスエリアの境内へと戻ってきていた。



【Last Wave Clear!】

【ウェーブ防衛をクリアしました】

【クリア報酬:『霧玉』】


「あー!アリアドネちゃん戻ってきたァ!一体どこ行ってたんだい?こっちは結構大変だったよ」

「うぐぅ」


戻ってきた瞬間、近くに居たらしいフィッシュに抱き着かれる。

そのまま私の身体をまさぐりつつ……腹部に触れた瞬間、


「おっとすまない。バトくん治療」

「はいはい……と、止血は出来ているようですね」

「そういう魔術が得意なもんで。ありがとうございます」


どうやら抱き着いたりまさぐられたのは、傷を探すためだったらしく。

即座に私の腹部……霧の刃によって刺され、【血狐】によって止血してもらった傷を見つけ出し、治療魔術にも精通しているバトルールを呼び寄せた。

バトルールもそれが分かっていたのか、発動準備をしながらこちらへと近づき、すぐに傷の具合を確認。治療を開始してくれた。


「これで終わりかしら。長かったわね……」

「終わったなら、私一回殺してもらっても良いですか……?流石にこのままじゃ嫌なんですけど……」

「あぁ、そういうことなら私がやろうかぁ。丁度余ってるホムンクルスも居ることだしねぇ?」


どうやら欠けたメンバーはいないようで。

他の面々も防衛クエストが終わったからか、それぞれが好きなように行動し始めたようだった。

あとで今回参加してくれたメンバーに感謝の品を贈らないといけないな、と思いつつ。


「今回も無事終わったなぁ……」

「その状態で無事って言えるのか?」

「生きてれば無事だよ無事。メウラだってそうでしょう?」

「まぁな」


近くに来ていたメウラと話しつつ。

私は次にしたい事を既に考え始めていた。

とりあえず、直近の目標としては最深部へ辿り着く事だろうか。

『白霧の狐憑巫女』にまた会おうと約束したのだ。出来るだけ早く行くべきだろう。

……あの馬鹿狐は分かってるだろうけど、どうにかして連れて行かないとね。

私は治療を受けながら空を見上げる。

蒼い、そして変わらない空がそこには広がっていた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?