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Chapter5 - Episode 34


「おつかれ、次が最終ウェーブかしら?」

「そうなるといいですねぇ……少し疲れました」


第9ウェーブが終わった後。

少ない休憩時間で消耗したMPや、『面狐』のグリップ調整などを行なっていると、グリムから話しかけられた。

彼女は今回参戦している中で1番消耗の少ないプレイヤーだろう。

なんせ、敵さえ飲み込めればMP自体はある程度の範囲で戻ってくるのだから当然だ。

私やフィッシュ、クロエのように近接で戦闘しない限り彼女の消耗はほぼ無いに等しい。


「前回は確か……あの度々出てきてる蛇の強化個体が最後に出てきたのよね」

「そうそう、ミストスネークですね。あの時は私とフィッシュさん、バトルールさん、メウラの4人しかいなかったんで色々大変でしたよ」


恐らく今回の最終ウェーブも何かしらの……今まで出現していない新規モブの強化個体が相手となるのだろう。

それ自体は別段どうでもいい。

ダチョウの時はその身体能力の強化の度合いから、灰被りが切り札を使う事になってしまったものの。

あれ以上の例外でない限りはここに集まっているメンツで対応が出来るからだ。


近接戦闘ならば、私とフィッシュとクロエが。

中距離戦闘ならば、グリムとメウラとRTBNが。

そして遠距離戦闘ならば、灰被りとバトルールが。

それぞれ、メインの役割をもって戦う事が可能なのだから。


「何が出てくると思います?これ前回も皆で予想して、結局フィッシュさんが当たったんですけど」

「そうねぇ……私の予想だと、やっぱり前回と同じような強化個体が出てくるんじゃない?防衛の基本的な流れは変わってないんでしょう?」

「変わってないですねぇ……」

「何の話です?」


そんな話をしていると、近くに準備を終えたらしきクロエがやってきて話に混じってくる。

彼女は今回集まったメンツの中で一番の初心者だ。

だからこそ、取れる手段も少ないがために準備もすぐに終わったのだろう。


「この後出てくるであろう何かについてですねぇ。大きいのが出てくるか、今まで通り群れで来るか、はたまた別の何かかっていう」

「あー、成程……お二人の予想は?」

「私は今まで以上に強い新規の強化個体が1体出てくる、ね」

「なので、私はグリムさんとは違って群れじゃないかなぁって。強化個体混じりの」


そんな私達の意見を聞いたクロエは一つ頷き、


「じゃあ私はまた別の特殊なタイプで予想しますか」

「特殊?」

「えぇ。こういうゲームっていうか、何かを解放する系のクエストの最後ってよく1人だけ別の所に飛ばされて敵と戦ったりする事多いじゃないですか。なんで、そんな感じの特殊な奴がくるんじゃないかなぁって」

「……あり得なくないわね」

「え、じゃあそれだった場合は私1人だけどっか飛ばされるってことですよね?!」


1人で戦う事には慣れているが、それでも味方が居た方が心強いのは確かなのだ。

【血狐】や【霧狐】は味方じゃないのかと言われると……味方ではあるが、人の様に臨機応変に動いたり、意志疎通がスムーズにいかないため除外だ。


「……頑張って、アリアドネ」

「応援はしてますよ、アリアドネさん」

「あれ?!グリムさんもそっち側!?」


そうこうしているうちにも、短い休憩時間は過ぎていく。

見れば、残り時間は10秒を切っており……既に他の面々は準備を終え、臨戦態勢へと移行していた。

私も顔の横にずらした狐面から霧を引き出しつつ、煙管を咥え、グリップ調整の済んだ『面狐』を逆手に握る。


【カウントダウン終了】

【Last Wave Start!】


「は?」


その瞬間、周囲一帯にブザー音が鳴り響き……私の視点は暗転した。

次に視界が開けるとそこは、


「……廃神社、っていうか最初に馬鹿狐と戦った所じゃん」

『あら、貴女……どこからここに?』

「へ?」


周囲を見渡しながら呟いた瞬間、背後から声を掛けられた。

だが、それだけではない。私が狐面や煙管から霧を出していないにも関わらず、濃い霧が……魔力を伴った霧が、周囲に広がるように出現し始めたのだ。

呆けた声を出してしまったものの、それに気が付いた私はそのまま前方へと飛び込むように背後の声の主から距離を取り……姿を確認する。

そこに居たのは、


「巫女さん?」


黒い長い髪。

日本のコスプレでよく見るような巫女の衣装ではなく、実際に神社で働いている子が来ているような、本格的な衣装を身に纏った長身の女性。


『えぇ、確かに私はここの巫女ではありますが……いえ、巫女だったというべきでしょう。そういう貴女からはどこか、うちの狐の気配がしていますね……』


その言葉で思い出す。

馬鹿狐……『白霧の森狐』が話したこのダンジョンのバックストーリーを。

このダンジョンには、昔、魔に狂った動物たちを浄化する事を生業としていた一族が住んでいたことを。

ならば、目の前にいるのは。


「……ここに居たっていう、浄化を生業としてた一族の1人?」

『ふふ、貴女は質問が多いですね』

「す、すいません」

『いえ、何も責めているわけではないです。私も久々に人と話すことが出来て舞い上がっている節はありますから……ですが、それもそう長くは出来ないようです』

「それはどういう……ッ!?【血狐】、【霧狐】!!」


突然、目の前の女性が周囲の魔力を伴った濃霧に飲み込まれる。

しかしながら、私はその中を見る事が出来ない。

狐面による霧を見通す能力が無効化されているわけではない。ちゃんと私自身が引き出した霧は見通す事が出来ている。

ならば、これはゲーム的な処理なのだろう。演出的な処理なのだろう。


【選択肢確認……『対話』:『白霧の森狐』の生存を確認】

【ボスインフリクトアイテムの存在有無確認……『白霧の狐面』の存在を確認】

【一次ボスクエスト確認……『『惑い霧の森』の神社を改修せよ』:クリア確認】

【対象者の等級確認……『novie magi』:不足確認。難易度を低下】

【Last Extra Waveを開始します】


霧が晴れていく。

見通せなかった霧が晴れていく。

その中から一歩、前へと。私の方へと踏み出してくる存在がいた。

先ほど話していた巫女ではない。否、巫女の面影は存在する。

しかしながら、その姿が先ほどより大きく変わっていた。


黒かった髪は白く変わり。

巫女服は消え去りながらも、裸体を曝け出すわけではなく霧によって最低限隠されている。

それと共に、身体の所々が霧へと変化しては戻るを繰り返し……存在自体が人から別の何かに変化した事を如実に表していた。

だが、それ以外に最も分かりやすい変化として……何故か、白い狐耳と、狐の尻尾が彼女の身体から生えているのが目に見えた。


【ダンジョンボスが出現しました】

【ボス:『白霧の狐憑巫女』】

【ボス討伐戦を開始します】


防衛クエスト、その最後の戦闘がどうやら始まったようだった。


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