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Chapter5 - Episode 31


「……うわぁ」


全ての魔術言語を書き終え、強化を終わらせた私はその結果を見てついそう漏らしてしまった。

何というか、自分で設定はしたものの、というやつだ。

手早く追加された動作での発動方法を設定していると、メウラが背後から話しかけてきた。


「どうした?アリアドネ」

「ん、あぁメウラ……ちょっと魔術の強化しててね。そっちは終わった?」

「あぁ、あと1分も時間ないから確認してくれ。手持ちの素材で強化もしておいた」

「ありがと。あとでその辺の素材の補填はするわ」

「そうしてくれると助かる。……てか、大丈夫なのか?その反応的に強化の方向性が予想通りじゃなかったんだろ?」

「あー……いや、予想通りではあるんだけどね……」


メウラから送られてきた新生『熊手』の性能ウィンドウを開きつつ、インベントリ内から出現させてグリップなどの調子を確かめる。

問題はなさそうだ。

刃の色が爪由来の白色から鈍い鉄の色が混じった物へと変わり、グリップの部分には縦半分の仮面をつけた狐の意匠が施されているそれは、何処か魔力を纏っているように見えた。


――――――――――

面狐めんこ・始』

種別:武器・短剣

等級:中級

効果:切り払い範囲+1m

   斬りつけた範囲に追加斬撃発生

   霧操作能力にボーナス(小)

説明:ミストベアーの爪と魔力を含んだ鉄を精霊狐の血によって練り上げ、成形された短剣。

   斬りつけた相手に、刀身の熊は更なる裂傷を与える。

――――――――――


「……名前、変わったのね」

「恐らく、ここの狐さんの血を使ったからだろうさ。急造だからそのままだが、これが終わったら刀身の部分にも狐さんの爪使ってやる」

「ありがと」

「良いってことよ。最初の客だしな」


メウラとそんな会話をしつつ。

時間を見れば、もう次のウェーブ開始まで10秒を切った所だった。

『熊手』……もとい、『面狐』を手に持ち浅く構え、霧を周囲へと発生させる。

次に何が出てくるかは分からないが、武器があるなら先程よりもやれる事は多いだろう。


【カウントダウン終了】

【Nine Wave Start!】


合例のブザーが鳴り響き、境内の入り口から敵性モブが殺到する。

その中に新しいモブが居ないかを注意深く探しつつ、


「行きます」


【血液強化】、【脱兎】、【衝撃伝達】、【路を開く刃を】を発動させ、一歩前へ出た勢いで私は敵性モブ達の中へと単身突っ込んだ。

迫ってくるウルフやイーグル、ラットなどを霧の刃によって斬りつけながら、周りを確認する。

しかしながら、新しいモブはどこをどう見ても見つけることができない。

私の探し方が悪いのかと、【霧狐】と『霧の社の手編み鈴』を併用し、霧の範囲を無理矢理広げて索敵してみるも……新しいモブがいる様子はない。


一瞬モグラのように地下に潜っているのではないか、と考えたものの。

私の足裏から伝わってくる振動の中にそれらしいものはない。

つまりは、だ。


「現状新規なし!今まで出てきたモブ全てが出現するタイプのウェーブです!【挑発】ッ!!」


叫ぶ。

それだけ伝えれば、この場にいる優秀な魔術師達には十分だから。

私は周囲のモブ達のヘイトを強制的に奪い、短剣を軽く振るう。

瞬間、『面狐』の刀身に半透明の刃が出現した。

最近は使えていなかったメインの攻撃魔術【魔力付与】だ。


それと共に、普段使わない尻尾をびたんと石畳へと叩きつける。

地団駄を踏む行為に似ているがそうではない。

動作が終わると同時、私の身体から幾分かの力が抜け、赤黒い液体がどぼぉっという音と共に地面へと落ち、その形を狐へと変えた。


「さ、やろうか。カタログスペックだけじゃないってことを見せてね、【血狐】」


しかし、その姿は今まで通りではない。

大きさは変わらず2メートルほどの巨体ではあるが、その頭上には血液で出来た王冠のようなものが乗っており、尻尾の数も1本から3本まで増えている。

極め付けは、


『――承知』


こちらへと、しわがれた男のような声で返答したことだろう。


――――――――――

【血狐】

種別:血術・攻撃・特殊

等級:中級

行使:発声、動作尻尾を叩きつける

制限:【形状を固定する(狐)】、【戦闘以外の用途を禁じる】、【命令に反する行動をすることがある】

効果:HPを10%消費し、血液で出来た魔導生成物を出現させる


『魔導生成物』

HP:(消費したHP量×7)

攻撃能力:爪撃、噛みつき、叩きつけ、分裂

能力:物理的な攻撃によるダメージを70%軽減する

   低い思考能力を持ち、自己判断を行う

――――――――――


「自由にやって。私は私で適当にやるから」

『――承知』

「……もしかしてそれ以外の返答って出来ない?」

『――否定』

「……まぁ、良いか」

『――嘲笑』


……後でお仕置きしよう。『凍原』辺りで。

そう心に決め、私は気が付いたらこちらへと飛び掛かってきていた複数の敵性モブに対して『面狐』を向けた。


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