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Chapter5 - Episode 30


「実際の所、あのダチョウの能力ってなんだったんですか?」

「んー、直接戦ってた身から言わせてもらうと、身体強化系……くらいしか分からなかったかなぁ。そこの所どうよ、専門家さん」

「専門家って……まぁモチーフ元から言わせてもらうと、確実に【血液強化】は入ってます。身体強化ですね。他だと……最後の演出的に、【霧の羽を】、視界妨害系と【ラクエウス】の罠生成系もかと」


次のウェーブまでのインターバルの間、ダチョウ……ミストオルトリッチの能力についての考察を行うこととなった。

というか、しておかないとこの後出てきた時に対処のしようが無いからだ。


「視界妨害と罠生成が入ってる根拠は?」

「多分あのダチョウ、ミストラットの上位個体だと思うんです。それこそ、ミストラットは自分の分身を出すだけですけど、ダチョウに関して言えば実体のある別個体を大量に生成……そしてそれを目眩しに本体であるダチョウがメインの火力として動くんじゃないでしょうか?」


思い返してみれば変だった部分は複数ある。

戦闘中は気が付かなかったが、何故前線にいた筈のモブ達がクロエやバトルール、メウラのゴーレムやRTBNのホムンクルス達の間を掻い潜って、私やグリム、灰被りの居る後方まで大量に到達していたのか?


ある種、私の使う【霧の羽】の亜種と言っても良いだろう。

敵性モブに対して強制的に羽を払う動作を強いる視覚妨害魔術は、アレンジによってプレイヤーを襲うモブの姿に。

罠の部分は……それらが実体を持っていた部分だろう。

私には所謂動体感知系の魔術である【霧狐】などしかないため効果は薄いものの、それ以外……熱源感知や音源感知などを主とした索敵魔術を使っている者からしてみれば、恐らくダチョウ以外のモブの幻影達も熱や、音と言った『存在している証拠』をじゃらじゃら周囲にばら撒いていた可能性が高い。

なんせ、私以外の面々も、そこに敵性モブが居る事を疑っていなかったのだから。


「成程?質量の持った分身は罠に成り得る、みたいな話か」

「でも実際他に考えられるほど情報が足りてるわけでもないし……まぁそう考えるべきですね。あとの問題は、この後ダチョウが他のモブと一緒に出てきた場合ですか……」

「鼠はまだいいけど、人型とかやばそうだねぇ。組み合わせ的には最悪じゃない?」

「兎も……っていうか、ここに出てくるモブは大抵面倒な事になるかと。唯一面倒じゃないのってミストイーグルくらいじゃないですか?」

「「「あれは雑魚だから」」」


対策に関しては簡単だ。

結局の所、先ほど出現していたのは1体……それも特殊強化された個体だと『仮定』した上で、広範囲攻撃でダチョウごと周囲の敵性モブを吹き飛ばしてしまえばいい。

もしも耐久が据え置きだったとしても、ダチョウの周囲に存在する幻影、本物含め、多くのモブを巻き添えに出来るだろうからだ。

……まぁ、最終的に『最後まで倒さない』って選択もとれるしね。


「よし、じゃあ次の準備をしますかね……」


対策についてひと段落し、その後。

私は灰被りに対してバトルールが多種多様な薬をどばどばかけているのを横目に、久々に習得魔術一覧を開いた。

メウラはまだ籠って作業をしているため、今出来る事をするしかないのだ。

……どれを強化するかな、って言っても難しいものよりは簡単に使えるものの方がいいか……。

私の習得魔術の内、初級魔術は【脱兎】、【血液強化】、【血狐】、【霧狐】、【ラクエウス】、【血液感染】、【交差する道を】、【路を開く刃を】の計8つ。

この中でも、後回しにしていいのは【血液感染】と【交差する道を】の2つだろう。

【血液感染】に関しては、パーティプレイに向いている性能ではないため。

【交差する道を】はそもそも戦闘には全く関係ない魔術だからだ。


「……よし、【路を開く刃を】と【血狐】にしよう」


2つ、現在の自分の中での使用率を考え、そう決めた。

早速時間もないため、まずは【血狐】を選択し等級強化を開始する。


【魔術の等級強化が選択されました】

【【血狐】の等級は現在『初級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『従小鬼の手』、『従蚯蚓の皮』が規定数必要となります……規定数を満たしていません:『従小鬼の手』、『従蚯蚓の皮』】

【『従小鬼の手』が上位素材『隷骨王の骨』に置き換えられました】

【『従蚯蚓の皮』が上位素材『隷骨王の王冠』に置き換えられました】

【【血狐】の強化を開始します】


素材の入れ替えが発生し、強化が開始される。

それと共に『追記の羽ペン』が出現しHPが少しずつ削れていく。


私が【血狐】に求めているのは自律性と、その性能の底上げだ。

現状でも物理防御に関してはトップクラスであるし、それに加え自律的に動き周り、敵を内部から破壊する攻撃方法は素晴らしい。

しかしながら、よくよく効果詳細を見てみると欠点もかなりある魔術だ。


私がこの防衛戦で一度も使っていない理由として、単純にHPを20%も使うというデメリットは継続戦闘を行うと考えると中々に厳しいというものがある。

ここのデメリットをどうにか軽減させられなければ、この後の第9ウェーブ以降でも使う事が出来ないだろう。

……あ、そういえば。

インベントリ内に継続回復のシギルを入っていた事を思い出し、私はそれを起動した。

普段使わないものは忘れていく。今後はインベントリ内の整理なども行った方がいいだろう。


「デメリットを軽減するために、他に新しいデメリットを加える形にしよう……あとは、形を狐に固定。……あ、形固定もデメリットになるのね。じゃあ新しい方も軽減して3つにしよう」


小声で考えている事を口に出しながら、手を動かしていく。

魔術書の補正によって考えたように魔術言語を書くことが出来る。

それと共に、全ての文章を円状に配置し直していった。本当は狐型にしておきたいものだが……流石に時間がない中、成型していくのは難しい。


【『言語の魔術書』読了による構築補助を確認しました。『カルマ値』を獲得します】


視界の隅のログにそんな文章が表示されるのが見えたが、今は仕方ない。

恐らくそろそろ悪性変異する魔術が出てくるとは思うが……その時はその時だ。

中級に上げた魔術以外ならば強化する予定があるため結果としては良いのだが。


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