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Chapter5 - Episode 26


前方へと移動する道中に見えた光景は様々だ。

大部分を占めるのは、ホムンクルス達による制圧の様子。それに抵抗するようにミストヒューマンを中心として行動するモブ達の様子。

そして、一番異様に見えるRTBNが指揮する様子だろう。

ホムンクルス達に簡易的な指示を出すための動きなのだろうが、それが分からない側から見れば戦場で適当に指揮者の真似事をしている遊び人にしか見えない。


……よし、居た。

私は意識を自身の目的へと移す。

これから飛び込むのはそんな戦場の大部分。ホムンクルス達が制圧している中に居るミストヒューマンの元だ。

凍ってしまっていたり、拘束されているモノではないまだフリーな個体。その中でも、剣を持った個体を探し出した私は更に加速しその個体の元へと急いだ。

なんせ、倒されてしまうと素材が手に入るかどうか分からないのだから。


剣を持ったミストヒューマンの元へ、知覚外から一気に詰め寄る。

【衝撃伝達】、【脱兎】、【血液強化】による加速は、目が付いてこれない相手にとっては瞬間移動したかのようにしか見えない。辛うじて私の纏っている濃い霧の塊が移動する方向で居る位置が分かる程度だろうか。

目の前へと突然現れた私に一瞬硬直したミストヒューマンは、切り替えたように剣を振りかぶった。

それと同時、その身に薄く纏っている霧から何か別のモブが出現しそうになったのを感じ、私は咄嗟に狐面によってその薄い霧を霧散させた。

瞬間、突然目の前でミストウルフが爆発四散し私とミストヒューマンの身体を血や肉で汚していく……が、驚きつつも行動をしなければならない。なんせ、既に相手は剣を振り下ろしかけているのだから。


動き自体は単純だ。

実際、【血液強化】まで使っている現状で避けられないほどの速度も出ていないし、言ってしまえば『酷使の隷属者』の方が1対1をする上では厳しいものがあっただろう。

そんな事実と経験から、私は軽い動きでミストヒューマンの剣を避けた。

……さて、問題はここからかな。

攻撃を避ける事は出来る。周囲の状況も最近は影の薄い狐獣人という特異性から音と気配で分かる。

では何が問題かと言えば……どうやって剣を巻き上げるかを考えていなかった点だろう。


「これでいっか」


軽く呟きながら、剣を我武者羅に振るい始めたミストヒューマンの身体を足先で蹴った。

瞬間、私の周囲の霧の何割かがその形を刃へと変化させていく。自身の霧操作能力によって細かく移動させる事が出来る【路を開く刃をネブラ】はこの状況にはもってこいだろう。

目的は剣だけだが……どうせならと霧の刃を操りつつ、ある魔術言語を構築していく。難しいことはしていない。ただ氷のコップのようなものを手元へと作り出すだけの魔術言語だ。

……お、来た来た。

延々攻撃を避けられ続けた事に痺れを切らしたのか、それとも単純に行動パターンの1つとして設定されているのか。ミストヒューマンは剣による刺突を行うと同時にその身体をこちらへと突撃させてくる。

恐らく他のモブをその身に纏うという性質上、一見悪手にしか見えないその行動も普段ならば・・・・・近づくだけで危なかったのだろう。

しかしながら既にその身に纏っていたミストウルフは光の粒子へと変わっており、尚且つ余裕を持って避ける事が出来る私にとっては、その行動自体を選択する事が悪手だ。


「ご馳走さま」


刺突のために伸ばされたその白い腕を、霧の刃達によってまるで鋸を使ったかのように断ち切った。

前へと放り投げられるように落ちていく腕と剣を拾いつつ、私はミストヒューマンの断ち切った断面から噴き出した血を魔術言語で生み出した氷のコップで回収する。


【『霧人の剣』を入手しました】

【『霧人の腕』を入手しました】

【『霧人の血液』を入手しました】


ログが流れるのを確認した後、手に持ったそれらをインベントリへと手早く仕舞い。

そのまま残ったミストヒューマンの頭に5本ほどの霧の刃を叩き込んだ後に、私は再度高速移動を開始する。

前線に居る時間は出来る限り短い方がいい。なんせ、今も何故かこちらへと竜型のホムンクルスによる火球が飛んできているのだから。


「RTBNー?」

「ごめんねぇ。これ使役系使ってるプレイヤーには指示が変な事になるらしいねぇ?いやまぁ避けられるでしょ」

「【狂化】ねぇ……まぁいいか。じゃあ私戻るから」

「了解了解、こっちもそろそろ終わるから報酬用意よろしくぅ」


使役系も大変だな、と呑気な事を思いつつ。私は来た時と同じように跳ぶようにして後方へと戻っていく。

流石に濃い霧を纏っているためか一瞬だけ武器を構えられたものの、フィッシュが全く警戒せずにヘラヘラした顔でこちらへと近づいてきたからか、私だと気が付いたらしい。

私もこれ以上このウェーブで前方へと戻るつもりはないため、霧を適当に散らした後に成果の確認を行い、それの副産物として手に入れたものをどう使おうか考え始めた。


【Seven Wave Clear!】

【Next Wave :0:05:00】

【ウェーブ発生条件を満たしていません。防衛を終了します】


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