実際の話、人型……ミストヒューマンという敵性モブは初見の場合は厄介なだけで、行動さえ分かってしまえば楽な相手だった。
というのも、基本的に気を付けるべきはその身に纏う別種のモブのみ。
それ以外は手に持った武器種に寄った動きしかしないのだから、対人或いは近接戦闘に慣れた者が居れば容易に対処が出来てしまったからだ。
身に纏うモブは『惑い霧の森』に出現する中でランダム。
それ故に近接戦闘を行うのはリスクが高いのだが……だが、それぞれのモブを見てから対処できるのならば話は早い。
例えば私ならば、一気に近づきモブを出現させた上で【路を開く刃を】によってミストヒューマン諸共切り刻んでやればいい。
例えばフィッシュならば、出現したモブごとミストヒューマンを一刀両断すればいい。
例えば灰被りならば、氷の茨を大量に出現させ、出現したモブとミストヒューマンを物量で押し潰せばいい。
三者三様の方法ではあるものの、似たような事が出来るならば対処は可能な部類。
唯一気を付けるべき点を挙げるとすれば、
「チッ、また急加速した……ッ!グリムさん!」
「分かってるわよ」
私の【衝撃伝達】を真似たような、霧による
一時的、と付けた理由は簡単で。ミストヒューマン達は一度高速移動を行うとその後数分は絶対にそれを行わないのだ。
恐らくは彼ら自身の身体に備わっている、私達で言うMPがその1回で底をついてしまうのだろう。
それが分かってからは本当に楽だった。
なんせ、高速移動するのが数分に1回だけならばグリムの【黒死斑の靄】で飲み込むことが可能なのだから。
【Six Wave Clear!】
【Next Wave :0:05:00】
【ウェーブ発生条件を満たしていません。防衛を終了します】
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様、被害は?」
「こちら特になしです。先輩も特に……いや、指一本ですか?」
「そうだねぇ。小指だけ。まぁこれくらいなら出てくるモブを食べれば回復するから問題ないよ」
「こっちも人型が2体やられただけだから問題はないかなぁ」
最後に残った敵性モブを倒し終えると、第6ウェーブが終了した。
といっても、次のウェーブまでのカウントダウンが既に始まっているため、本格的に休むのはもう少し先になりそうだった。
「でも最初の新モブがアレかぁ」
「この後を考えると中々ですよねぇ……」
正直、対応が容易かったのは纏っているモブが既知であったからだ。
咄嗟の判断さえ間に合えば、近接戦闘が出来る手合いであれば誰でも反応は出来る。
しかしながら、それは既知であるからだ。
未知である新モブに対してそれは出来ない。
それこそ、ミストスネークと初見で戦った時のように特殊な対応が必要になる可能性があるのだから当然だろう。
だからこそ、一発目としてミストヒューマンが出てきたのは喜ばしくもありながら悩ましい所でもあった。
最悪、RTBNのホムンクルスによって処理すればミストヒューマン自体は良いだろうが……それもそれで問題が発生するのが頭の痛い所だ。
「ん?あぁ……言いたい事は分かる。こちらからの返答は『コスト代さえ出してもらえるなら』かなぁ」
「いいの?……正直、アレな役割だと思うけど」
「まぁ私のやりたいポジションじゃあないねぇ。でもやれば楽に勝てるってんなら私はやるよ?」
そう彼女は言うと、ホムンクルスを作るために必要な素材を提示してくる。
といっても、本当に最低限のモノしか書かれていないのかコストとして考えると安すぎると言わざるを得ない量しか伝えられなかった。
「……少なくない?」
「必要最小限、あの人型のギミック発動させるだけならこれだけで作れる初期ホムンクルスで十分だから。大量に操るからプログラミング大変だけどねぇ」
何処からか『追記の羽ペン』のような羽ペンを取り出し、羊皮紙へと魔術言語を書き込み始めた彼女の手元を見る……すると、だ。
……ん、ちょっと無駄な単語が多いかな。
恐らくは私が魔術言語という分野においてだけ知識が豊富だからだろう。
RTBNの書いている魔術言語の中の無駄な部分や、足りていない部分が手に取るように分かってしまう。
「あー……グリムさん」
「ん?……あぁ、成程。口頭で教えたり、あとは貴女自身が書けば影響はないわよ?私がそうだったし」
「成程、ありがとうございます」
『カルマ値』に私よりも詳しいであろうグリムの名前を呼ぶと、それだけで察してくれたのか聞きたい事を先んじて答えてくれた。
問題ないのであれば私がやる事は1つだろう。
「RTBN、魔術言語は私がやるよ。どう書けばいいのかだけ教えてくれれば複数一気に用意するんで」
「え?いや、大丈夫だよ。そこまで複雑な事はやってないしこれくらい」
「時間見てみ?もうあと3分しかないから手分け出来る所はやった方が良いし……それに魔術言語なら私ちょっと得意なんだよね」