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Chapter5 - Episode 21


「……ちょっとハイペースすぎなぁ~い?」

「はは……少しこれは私も疲れてきましたね……」


防衛クエスト開始から約1時間後。

前回とは違い、殲滅力が高いメンバーが揃っているためか防衛自体は楽だった。

そう、防衛自体は。

問題はその防衛クエストのウェーブとウェーブ間の休憩時間が以前よりも短いことだろう。

基本的に10分しか貰えないそれは、肉体的に疲れないアバターである私達でも精神的な疲れをもたらしていく。


「明らかに前回よりもハイペースですね……モブ自体はそこまで問題ないけれど」

「これでモブにも問題があったらアリアドネちゃんに頼んで狐さん呼んでたレベルだけどねぇ」


以前参加していた2人も、どこか疲れを感じさせる顔で休憩中の雑談に加わってくる。

といっても、この2人は2人でこのダンジョンにてたまに狩りを行っているらしいため、他の面々よりも疲労度は少ないように見えるが。


「ここまで出てきたモブの中には特に新しいのは居なかったですね……出てくるならそろそろですけど」

「成程ね?今ウェーブ何回目かしら」

「次で6回目です。前回が10回で終わりだったらしいのを考えると……丁度半分終わった計算ですね。新キャラを出すのも丁度いい頃合いです」


今回のメンバーの中で一番の初心者であるクロエはというと……彼女もほぼほぼ疲労してないように見える。

ほぼ靄を操るだけのグリムと違い、彼女の戦闘スタイルは私やフィッシュに近い近接格闘型。

しかしながら、やはりどこか慣れを感じさせる動きで初見の敵を倒していく姿を目撃している。


「おっと、もう始まるみたいだぜ」

「何が出るのやら……出来れば対処し易いのだとありがたいんですけど」

「……どうやらその願いは叶わないみたいですよ?」


【カウントダウン終了】

【Six Wave Start!】


灰被りの言葉と共にブザーが鳴り、防衛戦第6ウェーブが開始する。

それと共に身構えた私達の目の前に現れたのは……人型のナニかだった。


「人型かぁ……」

「一応他のも居ますね」

「数的には1番少ない……かな?」

「とりあえずこっちで先手取るわ」


剣のような物、槍のような物、弓のような物。

持つものは様々ではあるものの、その身体に薄く霧を纏い、そして狐の耳を生やした姿は何処となく誰かを……というか、私の事を想起させる。

と言っても、それは姿だけだ。

頭には感覚器の類は見当たらず、所謂のっぺらぼうと言うべき者達と似た様相をしていた。


そんな者達へグリムが魔力を呑み込む靄を操り向かわせた瞬間、その厄介さは露呈した。


「っ、そこまで私を真似るぅ……?」


霧を纏った人型達……仮称霧人達は、突風のような速度で迫る黒い靄を確認した途端。

その身に纏う霧が足元へと移動し、爆発……否。

私の使う【衝撃伝達】のように、霧を媒介にした魔術の紛い物のような物を行使しその場から一瞬で離脱した。

それと共に、弓を持った霧人が周囲の霧を手元に集めたかと思えば、矢のように霧を固めそれを弓から射出し始める。

それと共に周囲の他のモブ達も一斉に境内内へと押し寄せてきた。


本格的な戦闘の開始だ。


「グリム!雑魚掃討!」

「分かってるわよ!私とは相性が悪すぎる!」


実際の所、大量のモブ自体は問題無い。

事前に私が用意しておいた一瞬の足止め用の魔術言語や、所有魔術の豊富さから対多戦闘が得意な灰被り。

コストは掛かるものの、1人で軍団を用意することの出来るRTBNが居れば遅延戦闘が十分に行えるからだ。

そして遅延戦闘さえ行うことが出来るならば、


「【黒死斑の靄】」


グリムの靄によって、足を止められている相手は全て呑み込むことが出来る。

そんな様子を視界の隅で確認しつつ、私は私で自身へと飛んできた霧の矢をミストベアーの爪によって弾いていく。

何らかによって物体、硬質化していたそれはカキンという小気味いい音と共に、小さくは無い衝撃を私の腕に与えてきた。


『熊手』は使えない。

本当は耐久値を回復させてから防衛戦を行えば良かったのだが、それが頭からすっぽり抜け落ちていたためだ。

この場にメウラが居れば、ウェーブの合間に整備も行えただろうが……彼はリアルの仕事の残業中の為、来るとしても後数ウェーブは後になるだろう。


「まぁ無くてもやれるってのは私の魔術の良い所だねっと」


【魔力付与】が使えないのだけは痛いが、それでも他の霧の魔術は行使できる。

【脱兎】、【衝撃伝達】、【路を開く刃を】を一息で発動させた私は、近くに居た剣を持つ霧人へと近付きそのままの勢いでその胴体へと蹴りを放った。

近づくだけでも霧の刃に切り刻まれ、蹴りが当たれば獣人特有の膂力と魔術によって発生する衝撃波によって、大抵の普通の敵性モブは光の粒子へと変わっていく……のだが。


……予想はしてたけどさぁ……!

蹴りが霧人へと当たる瞬間。纏っている霧がその形を変えていく。

その姿は見覚えのある……というよりは、この防衛クエスト中何回も討ち倒してきた霧の狼……ミストウルフだった。

私と霧人の間に実体をもって出現したミストウルフは、霧人に叩き込まれるはずだった蹴りとその衝撃を全てその身に受け、すぐさま光の粒子へと変わっていく。


軽く舌打ちを漏らしながら、私は霧の刃を自身の目の前へと一気に集める。

瞬間、ガキンという音と共に霧の刃と霧人の持つ剣がぶつかった音が鳴り響いた。

その一撃を防ぐことが出来た私は、動作によって【衝撃伝達】を発動させ一気にその場から後方へと移動する。

見れば、こちらへと剣を振るった霧人は身に纏っていた薄い霧が綺麗さっぱり消えている事に気が付いた。


「あの人型、纏ってる霧に何かしら別のモブが潜んでる可能性あります!気を付けて!」

「アリアドネちゃんかよ面倒臭い!」

「一体どういう意味かは後で聞きますッ!」


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