目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
Chapter5 - Episode 19


「あの2人はですね、敵同士でしかなかったんですよ」

「……へぇ、敵同士」


私の横に居る灰被りは、彼女達が戦っているのを見ながらそう呟いた。

といっても、突然クロエの足元から噴き出すように出現した霧によって、私以外はまともに見えていないとは思うが。


「まぁ少しの間違いがあれば味方になってたかもしれない関係性でしかないですけど。それでも彼女達は顔を合わせては戦ってました。……って言っても、私が直接その場面を見たのは1回だけなので、殆ど聞いた話ですけどね」

「あぁー……だから普通のコミュニケーションするよりも戦った方が色々と分かるって奴なのかい?青春だねぇ」

「青春なんですかね……?」


私達は彼女らの戦闘を見ながら、ゲームシステム的にこちらに被害が出ないと分かるや否や、邪魔にならない程度に防衛クエスト用に準備を始めた。

初めは私のその提案を疑問に思いつつも、全員が全員それぞれの準備をし始めた時にフィッシュがこちらへと聴いてきた。


「でも本当に大丈夫なのかい?クロエちゃん達の決闘が終わるの待った方がいいんじゃない?」

「いえ、絶対時間かかると思いますよ。……この中で霧の中を見通せるのって私以外誰が居ます?」

「あ、私が。一応色んな環境に対応できるようにしてますから」

「私も一応、ホムンクルス使えば見れるかな」

「おぉ優秀。私達は出来ないよねぇ、バトくん」

「いえ。僕は普段サポーターなんでそこらへんの補助系魔術は習得してますよ。この中じゃ先輩だけです」

「なん……だと……?」


何やらフィッシュだけが見れないようだが、まぁ良いだろう。

私は他の面々にそれらの魔術や技術を発動させるように言う。

すると、だ。


「あー……」

「成程、これは時間が掛かりますね」

「うわ、こっちにまでデバフ来たんだけどぉ?!」


それぞれ3人は私が言いたい事が分かったようで、それぞれの準備へと戻っていった。

RTBNはホムンクルスを使って見るという手法を取った都合上なのか、霧に含まれている何かしらの状態異常を喰らってしまったようだが……まぁ問題はないだろう。


「えぇー、ちょっとアリアドネちゃん説明頂戴?君がこの中で一番良く見えてるだろう?」

「まぁそうですね……うん、説明するとですね。あの2人、どっちも転んで動けなくなってます」

「……え?は?」

「立ち上がればいいって思うじゃないですか。どうもそれすらも出来てないっぽいんですよねぇ。明らかに彼女達、自分が立ってる前提で足動かしてますし」

「あぁ気付けないと思うよぉ?【平衡感覚異常】ってのが付与されたから、多分転ぶ前から立ってるかどうかすら分かってない状況になってるかもだし?」


私の言葉に補足するように、RTBNが2人と同じようにその場に転びながらも答える。

そんな彼女を助け起こしながらも、苦笑いで私も霧を狐面から引き出した。


「私の霧みたいに、普通の……何の害もない霧じゃなく、デバフをかける魔力で出来た霧っぽいですからねぇ。予想外なのは、あんな魔術をセーフティ無しで創ってる所なんですけど……」

「私は何も教えてませんよ。クロエさんも最初は『霧を作り出す魔術を創ろうと思ってる』とは言ってましたけど」

「じゃあ素材の影響か……アリアドネちゃん、あんなデバフ掛けてくるタイプのモブっていたっけ?」

「記憶にないですねぇ……ただ私、この森の木とかの素材を真っ当に【創魔】で使った事とかないんで、もしかしたらそっち関係の素材かもしれないです」

「成程ねぇ」


フィッシュの質問に答えつつ思い返してみるも、こちらの平衡感覚へと異常を与えてくるような敵性モブはこの森に存在していた記憶はない。

だからといって、私はこの森に存在している木がどんな植物なのかも正しく把握しているわけではないのだ。

木だけではない。土や雑草、もしかしたら敵性モブとして認識されないような小さな昆虫なんかも【創魔】の素材として扱えるのならば……その数はこのダンジョンだけでもかなりの数となるだろう。


「確かめようとは思いませんけど、まぁ決闘が終わり次第ですね。管理者として危ない素材は把握して周知させる必要があるんで」

「それもそうだねぇ……まぁ、それだけじゃあないだろう?」

「当然。面白い魔術を見てて思い付いたんで、出来ればどんな素材だったのか、加工できるならそれを使って魔術言語を合わせた【創魔】をやりたいなぁと。注意喚起なんてその後ですよ」


自分の欲望に素直に。

これはゲームをやる上で、否。楽しむ上で絶対に必要な事だ。

そこに被せるように、マナーと言った部分も必要にはなってくるが、普通の生活を行えている人間であれば普段通りにしていればいい程度なのだから。


……とりあえず、もし教えてもらえたら素材系かな。始めたてで私みたいなのが素材を渡し過ぎてもダメだろうけど、お礼としてなら受け取ってもらえるだろうし。

そんなことを思いながら、私は周囲の石畳に魔術言語を再び刻んでいった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?