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Chapter5 - Episode 17


「お疲れ様です」

「アリアドネさん」


再戦エリアへと辿り着いた私達は、目立つ様に氷の荊の上に立っていた灰被りともう1人……新しくArseareを始めたらしいクロエというプレイヤーの元へと駆け足で近寄った。

尚、RTBNはまたも嫌がった為に【血液強化】を発動させた上で首根っこ掴んで運んだが。


「初めまして、クロエです。そっちのは久しぶりですね」

「あー、そうだねぇ。久しぶりだねぇ。会いたくはなかったけどねぇ」

「私は会いたくて会いたくて仕方がなかったですよ、えぇ」


観念したのか、しっかりと顔を突き合わせて話を始めた2人を傍目に、私と灰被りは情報交換を始める。

といっても、灰被りから伝えられる情報はメッセージに書いてあった事に加え、前回似たような事があった時の下手人達である『駆除班』達からの情報が加えられたものだったが。


「……何も変化はない、と」

「どうします?目にわかる変化が難度上昇及び表示バグだけとなると……対応の仕方も変わってきますけど」

「うーん……うちの馬鹿狐に聞くしかないですかねぇ。とりあえずパーティ組んでボスエリアに行きましょうか。ここでも良いんですけど、やっぱり本体と直接話した方が色々わかりやすいんで」

「了解です」


そうして私達4RTBNは嫌がったものの、報酬を渡すと言う契約で着いてきてもらうことになったは、ボスエリアの方へと移動する事となった。


「ん?」

「おや?」


そうして道中、あることに気が付いた。


「もしかしてクロエさんって霧系の魔術使ってます?」

「そういうアリアドネさんは霧系メインですね?」

「まぁこういうダンジョンの管理してる関係で……成る程、じゃあどうせなんで後でモブ引っ張ってきて素材集めでもしますか」


そう言うと、クロエは驚いたような困ったような表情をした後に灰被りの方へと視線を向けた。

注目された彼女は少しだけ苦笑いしながらも、首を縦に振る。


「じゃあお願いします。……あぁ、全然後で時間が空いた時でいいんで」

「了解了解」


そのやりとりを少しだけ疑問に思いつつも、私達は少しずつボスエリアへと、霧に包まれた境内へと足を進めた。

また後日談ではあるのだが……どうやらクロエは以前やっていたVRMMO作品が、簡単に他人を信じると痛い目を見るタイプのものだったらしくそんな反応をしていたそうだ。

その話を聞いた私以外の2人は納得したように苦笑いを浮かべていたが、どんな作品だったのか少しだけ興味が湧いたのはまた別の話。



『……今回は初めて見る顔が複数あるな』

「まぁ異常事態だから。集められる人を集めて来たって感じよ。……で?あんたなら大体の事情は把握してるんじゃないの?」

『把握自体はしているとも。しているが……』

「何よ、言いにくいことでもあるの?」


ボスエリアに辿り着き、いつものように『白霧の森狐』を呼び出すと何やら困ったような、しかしながら少しばかり興奮しているような様子の白狐の姿がそこにはあった。


『いや、言いにくいというわけではない。寧ろ聞く人数が多い方が良い事柄だろう』

「なら……」

『だが、最初に聞くべきは狐の女子のみの方が都合が良いこともある、という事だ』


そう言って白狐は私の背後……主に灰被りの方へと視線を向けた。


『特に、そこの娘は他の管理者だろう?』

「私ですか?確かに『灰降る廃市街』の管理をしていますが……」

『我もそうだが、管理者となった者を通じて外の情報を知る術は持ちうるものだ。……つまり、そのな?』


白狐がそこまで言った後に、灰被りは何か分かったかのように手を叩いた。


「あぁ、成程。私達の言葉風に言うなら、私の所のボスが『ネタバレをするな』と?」

『そういうことだ。すまないな』

「いえいえ。ちなみにその圧をかけてきてるのが私のどの部位辺りかだけ教えてもらっても?」

『そうだな……その複数ある指輪辺りだろうか。そこから娘以外の力を感じるが?』

「……えぇ、確かに。アレから貰った指輪がありますね、一つ。ありがとうございます」


その後、良い笑顔をした灰被りだけが境内に続く霧の道の方で待つとのことで、この場から離れていった。

その時に見えた目が少しも笑っていなかったのは、恐らく以前再戦エリアで白狐と戦った時の私と似たようなものだろうと予想出来たため、同情だけしておいた。

どうやら、この世界のボス達は言葉を介す事が出来るタイプでも禄でもないのが多いようだ。

うちの白狐然り、灰被りのダンジョンボス然り。


『……よし、では話そう』

「うん、まぁ大体アンタが焦ってない時点で割と警戒は解いてるんだけど……何があったわけ?」

『うむ。簡単に言えば、ダンジョンが拡張・・しているのだ』


拡張。

規模や範囲を大きく広げるという意味。

つまりは、


「は?この森広がってるの?」


当然の疑問だろう。

何せ、これまでの間全く成長……というよりは横に伸びていく様子はなかったのだ。

ダンジョン内の事は内のみで。外は外、というのがここまでのダンジョン事情。

それが突然拡張なんて言われたら混乱もするだろう。


『勘違いするな、横にではない。縦に広がっている・・・・・・・・のだ』

「縦……縦ってことはあれですか?所謂、建物のような1階、2階が出来ていっていると?」

『そういうことだ』

「あぁ、成程。それなら難度が表示されなかったり上昇するのには納得だねぇ。当然、拡張している最中ならシステム側が難度の調整やらで正確な数字は出せないだろうし、上昇しているのは暫定で表示させているだけなのだろうし」


クロエの質問に白狐が頷きRTBNが補足するように追加する。

しかし私は少しだけその情報に嫌な予感がしてきていた。

否、恐らくこの予感は少しすれば確信へと変わってしまうだろう。

何せ、この『惑い霧の森』のボスエリアの物語的な役目を考えるならば、


「えっ、じゃあここにまたモブの大群攻めてくるって事?」

『……』

「おい明後日の方向を見るな、何か言え馬鹿狐。せめて前回と違っていつかだけを教えなさいよ」


新しいエリアが出来るのは良い。新しい素材や、モブが出てくる可能性が高いのだから、探索の楽しみが増えるのは単純に楽しみだ。

しかしながら、この『惑い霧の森』のボスエリアはこのダンジョン全体に存在している敵性モブを浄化……正気に戻すために存在している神社、という事になっている。

だからこそ、一番最初のボスクエストの時は浄化してもらいたいモブ達が押し寄せてきたのだ。

そんなダンジョンに、新エリアが出来るとなったら予想出来るのは1つだろう。


「また、って事は以前も?」

「えぇ。ここに居ないメンバーが中心に、どれくらいだっけな……でも軽く100以上のモブは来てたかと」

「私帰ってもいいかな?ダンジョンボス攻略後で流石にそこまでの集団を相手に出来るほどのホムンクルス居ないんだけど?」

「良い修行にはなりそうだけど……流石にこの人数は厳しそうですね……」


白狐が何も言わない以上、そういうことなのだろう。

それに私がこの話を聞いた時点でフラグが建ったと考えるのならば……時間はそうないはずだ。

私はフレンドリストを開き、オンラインとなっているフレンド達に応援を求める事にした。


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