「ほら、もう着くよ。駄々こねてたって仕方ないし……そも、そんなに嫌ならここでお別れでもいいんだけど?」
「いやー……流石に途中まで乗った船を自分の都合で勝手に降りるってのも色々とさぁ……うーん」
うだうだ言っているものの、結局の所RTBNはこちらについてくる意志があるのか、ホムンクルスの馬の脚は止まらない。
並走している私が言う事でもないとは思うが、その速度は中々に速い。
それこそ、自動車で移動しているレベルの速さだ。
「よし、じゃあこのまま突っ込むよー」
「……それはそれで大丈夫なの?」
「大丈夫。うちのダンジョンを嘗めないでほしいねぇ」
『惑い霧の森』、その入り口が見えてきた瞬間。
私は霧の生成範囲を引き上げ、入り口近くに居たプレイヤー達に対して霧の文字を使って突入することを説明する。
元々掲示板や公式イベントで私が霧を操り、尚且つここのダンジョンの管理者である事を知っているプレイヤー達はそれだけで直線上の位置から退いてくれたものの……これで分からない相手に遠慮する必要はないだろう。
警告はした、あとは道の上に居る自身を恨んでほしい。
「【
「うわ、ちょっと。こっちにもダメージ来たんだけど?」
「ごめんごめん、霧の対象から外しておくから……よし」
少しばかり久々に使う魔術の感覚を確かめながら、霧の刃の衣を纏った私を先頭にダンジョン内へと侵入する。
入り口近くに居たパーティ1つを切り轢いてしまったが、まぁ必要犠牲だろう。
改めて言うが、事前に警告はしたのだからそこにいた彼らが悪い。
【ダンジョンに侵入しました】
【『惑い霧の森』 難度:■■】
【ダンジョンの特性により、MAP機能が一時的に制限されました】
「うん、異常事態。一応運営に送っておくかぁ」
「難度表示がバグってるのは初めて見たな、私も」
「……?他だと何かしらで見たことあるの?」
「一応、最前線でって言えばいいのかな。あそこらへんだとたまーにダンジョンの名前とか特性とかが隠されて通知される事はあったんだけど……こんな序盤のマップでこれは私も初めてだ」
私達は足を止めある程度の位置を把握した後に、歩きながら灰被りが待つ再戦エリアへと移動していく。
走らないのは単純にRTBNが霧の中を見通す事が出来ないからというのが一点。
それに加え、下手に騒ぎながら移動すると管理者と言えどミストベアーなんかの敵モブ達に囲まれてしまう可能性が二点目。
囲まれても逃げる事は可能だろうが、それをモンスタートレインのような形で再戦エリアまで運んでしまう可能性が三点目、と中々に理由が積み重なった結果である。
「……目に見える異常はやっぱりないか」
「こっちは見える所か霧でほぼほぼ見えてないけどねぇ」
「そこは適当なモブの目を使って使い捨ての道具を作れば解決するから……とっとく?多分そろそろ降ってくるけど」
「降ってくる……?」
だが、どれだけ敵モブに会わないように私が避けたとしても、向こう側が積極的に近づいてきたらどうしようもない。
そして、そんな敵モブがここには1種類存在しているのだ。
『『ギャギャギャッ!』』
「ミストイーグルっていう、プレイヤーが探索してると延々空から襲撃してくる敵モブなんだけどね?」
「えぇ……」
空からこちらを襲撃しようと降りてきたミストイーグル2匹に対し、私は特別な事は一切しない。
ただ私の周囲に存在している、【路を開く刃を】によって生じた霧の刃をミストイーグル達の進行上に置いてやるだけだ。
『『ギィ……ッ』』
「何もしてないのに消えてったけど?」
「してないように見えるだけ~。きちんと迎撃してるし、こうでもしないと
たったそれだけの行動で、ミストイーグル達は頭に霧の刃を自ら刺しに行き、そして光の粒子へと姿を変えていく。
思えば最初期や、メウラと一緒に初めてパーティを組んだ時はこいつに苦労させられたものだが……今となっては片手間に倒せる程度には強くなったのだと実感する。
「どうする?まだ再戦エリアまで距離はあるから……あと少なくても4回くらいかな?あいつら襲ってくるけど、回収するなら手伝うよ」
「……一応貰っておく事にする。生きたまま目を抉ればいい?」
「私がやる時はそれか、通常ドロップでお祈り。確実なのは抉るのかなぁ」
「じゃあ抉るから、次は足止めお願い。流石に見えないのは厳しいから」
「了解」
こうして、私達は再戦エリアへと辿り着くまでに回数にして7回ミストイーグルとの戦闘を行った。
一応、その都度何か変化はないか、以前のような分かりやすい違和感などがミストイーグルを始めとしたモブ達に生じていないかと目を凝らしていたのだが……特に発見することは出来なかった。
事情を知っていそうな馬鹿狐に話を聞くのが手っ取り早いのだろうが……先に、先達である灰被りの所感を聞いた方が良いだろう。
私にはない視点から何かしらの意見を出してくれる可能性が高いのだから。