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Chapter5 - Episode 13


燃えて灰に、そして光へと変わっていく骸骨達の群れの隙間を私は悠々と余裕を持って歩く。

【感染症】にはまだ罹っていない。

私が効果範囲内に入る前にホムンクルス達による遠距離攻撃によって骸骨達が倒されているからだろう。

それに感謝しつつも、目的を考えると急がないといけない。

少しだけ私は歩く速度を上げ早歩きに、そして駆け足へ移行しようとした時、身体を少しだけ後ろへと引っ張るような感覚を覚えた。


「……こらこら、大丈夫だから」


【血狐】だ。

やはり明確に死地であると分かっている所には突っ込みたくはないのだろう。

しかしながらここで突っ込まねば、『惑い霧の森』の方の案件が手遅れになってしまう可能性もある。


「仕方ない、ほらこれ。罹ったら自分で蓋開けて使える?」


そう言いながら、私は自分を覆うように存在する赤黒い液体に風邪薬を蓋のついたまま落とす。

すると、地面には落下せずに液体の中で何かに掴まれたかのように漂い始めた。

それと同時に後ろに引っ張るような感覚は消え、しっかり前へと進めるようになった。

……使役物の難点ってこういう所なのかなぁ。

RTBNのホムンクルス達にはこういった嫌がる素振りなどは見られないが、実際の所はどうなのだろうか。


そんな事を考えながらも、足は止めずに前へ前へと進み。

私の身体に赤黒い靄のようなものが纏わりついた瞬間に、インベントリ内から一本風邪薬を取り出し一気に呷る。

【血液感染】の効果範囲内、つまりはホムンクルス達の遠距離攻撃に耐えたか、もしくは運よくその攻撃範囲内に居なかった取り巻きが近くにいるのだろう。

しかしながら、攻撃は仕掛けられない。どちらにしろ【感染症】に罹っている間は苦しんでいるモーションによって動くことが出来ないのだから。


私は【血狐】が風邪薬を使った事を確認すると、その場から一気に今もなお周囲へ衝撃波を放ち続けているボスの元へと駆け始める。

風邪薬の効果によって【感染症】に罹らなくなった今、ここからはどうボスを倒すかの作業にしかならない。


「うわぁお」


『酷使の隷属者』は周囲にいる取り巻きの骸骨達を吹き飛ばしながらもそこに居た。

といっても、吹き飛んでいるのは重みがないからだろう。

衝撃波の範囲内に入ったというのに私のHPには一切の変動はなく、寧ろ心地良い風が頬を撫でるだけだ。

思わず笑みを浮かべてしまうものの、風邪薬の効果や後につかえている問題を考え真面目な顔になる。


そのまま一歩踏み出せば、苦しむように衝撃波を発している『酷使の隷属者』はこちらへとその暗い双眸を向けた。

……一応、動けるには動けるのか。

予想はしていた。だがそれは問題ではなく、今まで通りこの敵だけは動けるというだけのこと。

私は姿勢を低くし、手に持った『熊手』の切っ先が地面に触れるか触れないか程度の位置まで下げる。

後々に響くように、普段はやらない戦闘態勢ではあるものの、今となっては仕方ないものだ。


「行くよ」


誰に話しかけるでもなく、そう呟いた瞬間。私の身体は一気に前へと移動する。

すぐに目の前に『酷使の隷属者』の骨しかない身体が見え、そして私はその身体に下から振り上げるように『熊手』を振るった。

……お?

今までならばそのまま攻撃を当てられていた相手。しかしながら今回は、まるで中に人が入っているかのように直撃の瞬間だけ少し身体を後ろに倒され、切っ先が掠るだけとなってしまった。


不信に思いつつ少しだけ距離を取り、円を描くように移動しながら私は再度『酷使の隷属者』の側面から『熊手』を振るう。

しかしながら今度は、しっかりと私の振るう『熊手』をその細い骨の左腕でどうやってか受け止め、今までやってこなかった反撃までもを行おうとしているのが目に見えた。


幾ら物理攻撃に強い【血狐】を纏っているからと言って、ボスからの一撃をまともに喰らうのは無謀という他ないだろう。

流石にそんな馬鹿な事をしたくはないため、ボスの右腕を突き出すかのような動きに合わせ最小限の体重移動だけで何とかその場を乗り切ろうとする。

少しくらい掠る程度ならば【血狐】の軽減効果で何とかなるし、直撃するよりかは良いからだ。


「それが君の得物って奴かな?」


身体を右側に倒しつつ、ボスが何を使って攻撃してきたのかを確認する。

そこに在ったのは全てが骨で出来た細剣だった。

軽く振るわれたそれは、私の頬を掠めるように後ろへと突き進んでいく。

驚くべきはそれがきちんと私の身体に傷をつけることが出来た事だろうか。

以前、プレイヤーと戦った時は【血狐】を纏った状態で、何かしらの物理攻撃を身体に喰らっても傷がつくことがなかった。それほどまでに物理軽減効果が強かったとみるべきか、それとも序盤も序盤だったために相手の攻撃力がなかったと見るべきかは別として。


しかしながら、この目の前の敵はしっかりと私に傷をつけてきた。

フィッシュとの訓練のおかげで人型相手との戦闘経験を以前より格段に積めていたからこそ、避け、そしてこうやって驚く暇がある。

自身の成長をこんな形で実感するとは思っていなかったため、少しだけ面食らうものの……そのまま私はその場から後退するように細剣の範囲内から離脱した。

速度自体は捉えられないほどではない。問題はその貫通力。範囲内に居る事が問題となるのだから、ここからはやはりヒットアンドアウェイが正解になるだろう。

相手が先ほどと同じように私の動きに合わせ、細剣を進行上に置いて・・・いなければの話だが。


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