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Chapter5 - Episode 12


どうやら私達は知らない間に効果的な攻略法、というものを編み出してしまっていたようだった。

否、編み出したというよりは見つけ出した、と言った方が的確か。

なんせ、使役物を必要とする舞台でその使役物ごと滅していく悪魔のような病をばら撒くなんて本末転倒な事をやらかしたのだから。


「攻撃は出来なくないけれど、どうするわけ?」

「……うーん。私なら近接戦闘できるけど……【血狐】と【血液感染】の相性の悪さがなぁ……」


そして、そんな攻略法を見つけ出してしまった私達はただただその場でボスと取り巻きが藻搔いている姿を呆然と見ることしかできなかった。

結局の所、ボスに対してはダメージを与えることが出来ていない。

ボスの頭上にHPの残量を示す緑色のゲージが微量なりとも欠けていないのがその証拠だ。


結局の所、ボスにダメージを与えるには使役物による補助、もしくは使役物による直接攻撃を行うしかなく。

しかしながら【血液感染】によるデバフによって私とRTBNの使役物は、ボスに辿り着く前に死滅してしまう。

幸いがあるとすれば、周りの取り巻きにはダメージが徹るからか、徐々にその数が減っていっているという点だろうか。


「まぁ、いいでしょう。ボス戦中に休憩出来るとは思ってなかったけど、こういうのもまた良いわ」

「あー、じゃあ効果切れるまでこのまま回復とかしますかぁ」


RTBNならば竜型のホムンクルスや他のモノを使って攻撃出来るだろうが、彼女も彼女で使うリソースは抑えておきたいのだろう。

私も一度【血液強化】などの強化を切り、減っていたHPなどを回復させる事に努める事にした……のだが。

ここで、何やらフレンドメッセージが届いている事に気が付いてしまった。


「……ッ」


差出人は――灰被り。

その名前を見た瞬間に、内容を読んですら居ないはずの私の頭に警報が鳴ったような気がした。

彼女は他愛無い雑談などでメッセージを送ってくるようなフレンドリーさはないものの……だからと言って、必要がないものまでは送ってこない。

そして、私にこうしてメッセージを送ってきたということは、だ。

私に何か知らせておかねばならない事柄が発生したということだろう。


「……どうかした?」

「何かあったかもしれない。外で」

「外……ダンジョンの外か……」


息を呑んだ私に気が付いたのか、作業の手を緩めず視線だけこちらに寄越したRTBNが問い掛けてくる。

それに対し少し素っ気ない態度をとりつつも、私は灰被りから届いたメッセージを確認していった。


内容を要約すれば、『惑い霧の森』の難度が6まで上昇している事について。

何か知っていたり、管理者として異常を知らせるアナウンスなどが入っていないかの確認だ。

しかしながら、私のログには異常を知らせるようなモノは1つとしてなく、私の記憶の中にも難度が上昇するようなモノがあの森に出現していた記憶はない。

私よりも心当たりがありそうな狐ならば知っているが、その狐に話を聞くにはまずこのダンジョンから出なければならない。


「……私の管理するダンジョンが、変に難度上がってるみたい」

「元の難度と現在は?」

「3から6」

「異常事態でしかないなぁ……」


以前、『駆除班』が手引きしダンジョン内に出現した辻神による影響で難度が一時的に5まで上昇したことはあった。その時は分かりやすくパゼスドウルフなどの異常個体が出現していたため、異常事態であることは明白だった。

だがしかし、灰被りからの報告ではそのような個体が出現したというものはない。

普段と同じダンジョンで、しかしながら難度だけが上昇している……というのは不可解だ。


ちなみに難度だけで言うのであれば、5は第3マップである【土漠】に存在しているダンジョンと同等レベル。

6は掲示板でも発見報告が少なく、まだ到達者の少ない第4マップの平均難度なのではないか?と言われているものだ。


「どうする?気になるならここから遠距離攻撃撃ち続けるけど」

「お願いしても良い?多分うちのダンジョンのボスに話を聞いた方がいい案件だし」

「了解、後でホムンクルスの素材分は頂くとするかな」


そういって私の隣で竜型のホムンクルスを複数生成し始めたRTBNを横目に、私は自らも敵陣へと飛び込む準備を始める。

と言っても、今すぐに飛び込むわけではない。

今飛び込んでしまえば竜型ホムンクルスの攻撃を骸骨達と一緒になって受けてしまうだろうし、それ以前に何処かの誰かが蔓延させた【血液感染】の所為で私の現状での火力源である【血液強化】などの血術が使い辛い状況なのだ。


軽く屈伸し、ボス戦が始まってから一度も取り出していなかった『熊手』を持ちつつ。

私はダンジョン関連のスレッドが並ぶ掲示板を開く。

そこに『惑い霧の森』の現状、そして注意喚起を書き込んでから少しだけ息を吐いた。


「【血狐】」


私の傍らに再び出現した血液で出来た狐は、苦しんでいる骸骨達の方を一瞥するとぶるりと身体を震わせた。

……あー、やっぱりダメそうかぁ。


「ごめんね、今すぐにって訳じゃないんだけど。あれが少し収まったら突撃するから……?」


そこまで言って、あることに気が付いた。

【感染症】に罹り、血が病に侵されるからダメなのだ。

ならば、それを無理矢理治してしまえば?

方法は存在する。しかしながらそれがゲームのシステム的に可能であるかは分からない。


「ねぇ、少し良い?」

「何?」

「使役物にポーションとかの薬って効いたりする?」

「当然。HPが存在してるし、状態異常にも罹るからそれを治す手段もプレイヤーと同じ方法が使える。道理だね」


それだけ聞くことが出来れば私にとっては十分だった。

インベントリ内から2本の液体の入った瓶を取り出し、身体に少しだけ嫌がる【血狐】を纏わせながら取り巻き達の方へと歩き、近づいていく。

ポーションなどの薬品類が使役物に効くならば、状態異常を治すことが出来るのならば……【感染症】を治すために使う風邪薬を【血狐】に使う事が可能という事。

それはつまり、相手が苦しんでいる中で私と【血狐】が万全の状態で活動できるようになるという事だ。


私の意図を察してか、歩いている背後から炎の塊が複数飛来する。

竜型ホムンクルスを使った遠距離攻撃だ。私のサポートを最大限、出来る範囲で行ってくれるのだろう。

……本当に今回、お世話になってばかりだなぁ。


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