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Chapter5 - Episode 11


駆ける時間は一瞬。

縮地、とまでは行かないものの、傍から見れば何も強化していない目では追いつけないほどの速度は出ているだろう。

だからこそ、少しばかり普段よりも遅いなと感じている私はこの速度に慣れるまで少しの時間が掛かったし……だからこそ、今。余裕をもって考えつつ相手の元へと向かって足を動かす事が出来る。


……『酷使の隷属者』にダメージを徹す事自体は、私の速度と【血狐】が居れば出来る。

問題は、そこではなく。

『酷使の隷属者』のギミックである、周囲の取り巻きにダメージを押し付ける事が出来る、という点だろう。

取り巻きが全滅するまで愚直に殴り続ける。それも良いだろう。

だが生憎と私はそこまで脳筋系ではないし、そもそもそんな事をしていればいつか重要な所でミスを犯し、致命的な一撃を受けてしまう事だろう。


「なら、ちょっと……効くかどうかわからないけどやってみようかな」


ならばこそ、だろう。

私は『酷使の隷属者』の目の前まで辿り着いた後、勢いそのままに蹴りを入れる……のではなく。

身体を低くし、横に回転するようにしながら『酷使の隷属者』に対して足払いをかける。

咄嗟に私からの攻撃を防ごうとしたのだろう。腕をクロスさせ、上体を守ろうとした『酷使の隷属者』はそれをまともに喰らってしまい、そのまま転倒していくのが見えた。

だが、ここで追撃はしない。

確かにここで頭なりなんなりを踏みつければ大ダメージを与えられるだろう。

しかしそれは、今ではない。


周囲の取り巻きが私の動きにやっと反応し集まってくるのに対し、私はにっこりと笑みを浮かべながら後方で援護をしてくれているRTBNへと声をかける。


「取り巻きには通常攻撃って効くんだよね!」

「?……効くけれど!?」

「それだけ聞ければ問題ないね、頑張って!――【血液感染】」

「ッ?!」


私はヘドロのような黒い何かを出現させ、倒れている『酷使の隷属者』へと放る。

それと共に【血狐】を解除させ、強化された速度をもってその場から一気に離脱した。

瞬間、私の習得している魔術の中で一番悪意の籠った効果が弾けるように広がった。


【血液感染】。

その効果は知っての通り、ヒットした相手から5m以内に存在する敵味方関係ない相手に対し【感染症:血液】というデバフを押し付け続けるというもの。

骸骨にそれが効くのか?というちょっとした疑問はあったが……問題なく、効果は発揮したようで。

今も取り巻きの身体に赤黒いオーラが発生しているのが目に見えている。

恐らくは骨髄なんかにも効果があるのだろう。アンデッドの骨髄がその機能を残しているか、という疑問は今考察するべきではないため放っておくが。


「うわぁ?!」


そして当然の話。

使役系ではない魔術によってダメージを与えようとしたため、ボスからのカウンターがあるのだが……そちらに関してはどうやらダメージによって威力が左右されるのか、微風程度の何かが手から放たれただけだった。

問題はその後。

ボスが全身から約1秒置きに衝撃波を発するようになってしまったのだ。


原因は分かっている。【血液感染】によって罹った【感染症:血液】によるダメージに対するカウンターだろう。

しかし、それとカウンターが発生する理由が分かっていない。

ボスのカウンターは元々、その身に対して直接ダメージを与えようとしたときのみに発生すると、情報源であるボス攻略掲示板には載っていたはずなのだが。

……これ、もしかして無理やり相手に効果を徹す【血液感染】だから、とかじゃあないよね。


可能性は捨てきれないだろう。

【血液感染】の主効果はダメージではなく、デバフを押し付ける事。

それがボスから『攻撃』だと見なされたならば……周囲に取り巻きが居る限り、この持続的なカウンターは止まらないだろう。


「……あ、でも取り巻きは倒れていくのか」


そして、その感染源とも言える取り巻き達の方を見てみれば。

きちんと赤黒いオーラに包まれながら苦しんでいるかのようなモーションを繰り返している。

それを疑問に思い、RTBNの方へと少しずつ下がっていき少しばかり話すことにした。


「……ねぇねぇ。アレって」

「私は知らないよ、あんな状態。というか、ここまで広範囲に広がるデバフをここで使う人とかあまりいなかったから知られてないんじゃないのアレ」

「あー……やっぱり?」


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