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Chapter5 - Episode 10


竜が動く。

赤く、そして光無い瞳を無数の骸骨へと向けながら、ゆっくりとした動作でその大きな口を開き。


「ドラグ、やって」


RTBNの短い声に応えるように、ドラグと呼ばれた西洋竜のホムンクルスは開けた口に炎を溜め。

そしてそれを止めようと近づいてきていた骸骨達へと向けてそれを吐き出した。

球の形状で吐き出された炎は、先頭の骸骨に当たると同時に大きな爆発を起こしながら火の波となって他の者達をも巻き込んでいく。

後に残ったのは、黒く焼け焦げ光の粒子となって天へと昇っていく大量の消し炭だった。


決闘イベント、その決勝ではその真価が発揮される前に灰被りにやられてしまったのだろう。

そも彼女の戦闘スタイル自体が、決闘というお互いに向き合ってよーいドンで始まるモノに不向きなのだ。

使役物の力は術者RTBNの力。

広域殲滅を可能とする力を竜に宿らせるために使われたコストなどを考えればわかりやすい。

分かっていたことではあるが、彼女もまた正しく強者なのだ。


「……すっごいなぁ」


先ほどまで鉄球を足場に曲芸のような事をしていたものの。

やはり1つの細かい芸よりも大味な大衆向けの芸の方がウケが良いのと同じで。

私の心は既に今もなおRTBNの近くで佇んでいる西洋竜に奪われてしまっていた。

だが、私の仕事は終わったわけではない。

寧ろここからが本番なのだ。いつまでも買いたい玩具を見つめる少年のような目で竜を見ていられない。


インベントリ内から2種類の回復薬を取り出し、一気に呷る。

【血液強化】の維持コストは継続的なHPとMPの消費。

それらが一時的に回復していくのを目の端で確認しながら、私は再度足に力を込める。


西洋竜が燃やした骸骨達は結局の所、ボスではなくその取り巻きだ。

そして肝心のボスはといえば、2度に渡る私の攻撃を無傷で耐え実質ノーダメージだ。

しかし仕様を理解していればダメージを与える事は出来る。

結局の所、取り巻きをどうにか殲滅し、【血狐】のような使役系の纏いながら打撃をその細い身体にぶち込めばいい話なのだ。

本当ならば『熊手』を使いたい所ではあるものの、【血狐】を纏わねばならない事を考えると刃物よりも自身の身体を使って攻撃した方が幾分かマシだろう。

どろりとした液体で包まれた刃物など、その持前の切れ味を活かせるはずがないのだから。


「じゃ、行ってきます」

「サポートはするから派手に暴れてきて。……道中じゃ見れなかった動きもさっき見れたからね」

「ふふ、ありがとう」


小さく言った言葉に返事が返ってきた事に少し笑いながら、私は前へと加速した。

先ほどとは違い、取り巻きが居ないため跳ねる必要もなく。

ぐんと凄まじい力によって運ばれた身体の目の前に、王冠を被っている骸骨の姿がすぐさま現れる。

勢いは殺さない。

殺してしまっては助走をつけて走っている意味がない。


……私の速度にはついてこれてないのか、これ。

普段よりは幾分か遅いものの、身体強化と速度強化を施している私の速度は中々に速い。

その速度に追いついてこれていないということは、この速度を維持している間は相手が我武者羅に攻撃してこない限りは捉えられることはない、ということだ。

つまり。


「こういうのもアリってことだよね」


ボスの懐へと一気に潜り込んだ私は、そのまま右肩から骸骨へとぶつかるようにタックルする。

しかしながら接触は一瞬。

勢いを付けたこちらの衝撃が相手に伝わると同時、私は自分の足がどうなっても良いと考えながら急ブレーキをかけ、その場で横に一回転した。


『酷使の隷属者』は弾かれたように後ろへと飛んでいき、それを見送るような構図になったわけだが……流石にただただ見送る事は出来ない。

今のタックルによって何体かの骸骨が砕けているものの、それでもまだまだ取り巻きは多い。

勿論それはボスの近くへと飛び込んだ私を囲むようにして存在しているわけで。


「無双ゲー、もしくはヒットアンドアウェイ戦法……ボスに攻撃しては逃げるのどっちかが私には選択できるわけだ」


速度があってこそ、攻撃を当てるごとに逃げる事が出来る。

膂力があってこそ、取り巻きを砕きながら進む事が出来る。

どちらの選択をしても、後ろのRTBNはきちんと補助してくれることだろう。

なんせ、今も私を背後から追いかけるように数体の人型ホムンクルスの足音が聞こえてきているのだから。


……でも負担かけすぎるのもあれだよね。

どちらの選択も結局は私もRTBNも頑張らねばならないものの、負担の度合いが全く違う。

取り巻きを砕きながらボスへと辿り着き攻撃を加える場合、私が対応できていない死角からの攻撃をRTBNに任せる事になる。

そして狐の獣人と言えど、耳などの近距離における索敵能力自体は高いと言えど、そのアバターを操っているのは人間である私だ。

どうしても対応できる数に限界が出てくるため……視点や攻撃の出来る数が多いRTBNに対応を任せる場面が多くなるだろう。


しかしながら、ボスへのヒットアンドアウェイをメインに動き続けていればRTBNの負担は一気に軽くなる。

対応する、と言っても私の方へと取り巻きを近づけないように立ち回ればいいだけなのだから。

しかしながらその場合は私の負担がかなりのものとなる……のは仕方ないことだろう。


「まぁ選択とは言ったものの……こんなの一択だよねぇ」


手伝ってもらっている身なのだ。

今でさえかなりの負担をかけているというのに、更に彼女の負担となるような事をするわけにはいかない。

だからこそ、周囲から寄ってきている骸骨を見て軽く笑い。

私はその場から、無傷で体勢を直そうとしている『酷使の隷属者』の元へと駆けた。


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