目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
Chapter5 - Episode 9


――――――――――――――――――――


暗い洞窟内。

そこに1人の人影が浮かび上がる。

徐々に鮮明になっていく影は、手足に枷を。

その身体にはボロボロの布のような服を着て。

しかしながら、その頭部には王冠のような何かを被っていた。


『……』


しかしながら、その者は既に生きてはいない。

目があったであろう場所は窪み、そこに光はなく。

そもそもとしてその者には肉という肉がなかった。


だが、その者は動く。

手を広げ、じゃらじゃらと鉄球の付いた枷を鳴らしながら。

しかしながら、それさえが自身の声だと言うように大きく口であった場所を開きながら。

すると、だ。

その者の周囲から、王冠の被っていない似た者達が地面から這い出るようにして出現する。


抗え。

その運命に。

抗え。

その暴力に。

抗え。

その圧政に。


――――――――――――――――――――


【ダンジョンボスを発見しました】

【ボス:『酷使の隷属者』】

【ボス遭遇戦を開始します:参加人数2人】


転移が終わると共に始まったムービーを見終えた瞬間。

私は【血液強化】と【脱兎】を発動させ、一気に駆ける。

身体全体には【血狐】を纏い、赤黒い人型の狐が一直線に駆けていく姿は、見る者が見れば敵性モブにしか見えないだろう。

しかし、そんな誤射をするような者はここにはいない。


私が飛び出すのが分かっていたかのように、RTBNは行動を開始する。

その動きは、緩やかに。だが起こる結果は数多く。

私の背後でガラスが1つ砕けるような音がしたのと、私がボスであろう王冠を被った骸骨の胴体部分へと蹴りを入れたのはほぼ同時だった。


「クリティカール!」


強い衝撃を与えられた事が、自分の足裏に返ってくる感触で分かる。

だが、それで倒しきれるとは最初から思っていない。

何とか地面に着地した瞬間、強化された身体能力を使い、無理やりボスから距離を取るようにRTBNの横へと戻っていく。

見れば、既に数十体の人型のホムンクルスを生成しており、戦争でも起こす気なのかと少しだけ呆れてしまう。


「で、どう?事前情報と同じだった?」

「それはもう。君がボスに蹴りを入れると同時に周囲の骸骨が何体か砕けてたから相違はないよ。あと確かめるべきは使役系を使わないでの攻撃が徹るかどうかかな」

「了解。そっちの準備は?」

「大方。まだまだ最適化出来てないから時間は少し掛かるけれど……君がもう一発入れるまでには準備を終えよう」

「ふふ、頼もしいなぁ……じゃあ行ってくる!」


足に力を入れ、再度地面を蹴る。

私とRTBNが言う事前情報とは、簡単に言えば『駆除班』などが掲示板にまとめているボスごとの能力詳細の事だ。

私達は初見攻略を目指しているわけではないし、場合によっては何度も攻略する相手だ。

それを考えると、まずそこに書かれている情報が本当に正しいか、自分達にとって適用できるものなのかを確かめる必要がある。


幸い、それがだめだったとしても正攻法メウラのやり方を事前に教えてもらっているため問題はないのだが……その場合、私はほぼほぼすることがないため、一番最初の攻撃が徹ってくれて助かった。


……まず、『酷使の隷属者』の特徴その1と2。『使役系魔術を纏ってさえいればダメージは徹る』、『ボスに対するダメージは周囲の取り巻きが肩代わりする』。確認完了と。

強化された身体能力によって、どうしてか副次効果のように強化された思考能力を使い周囲を確認しながら私は駆ける。

狙うは先ほどと同じ胴体。しかしながら、相手も骸ではあるが同じ行動を何度も赦すような空っぽな頭はしていないようで。

取り巻きである、王冠を被っていないだけでボスとほぼほぼ同じ容姿をした骸骨達が私の前へと数十体単位で立ち塞がった。


彼らの攻撃方法はその手足に死して尚付けられている枷だろう。

鉄球の付いたそれを思い思いに振り回しぶつけようとしてくるその姿は……単体ならば可愛いものだっただろう。

しかしながら、それが数十体ともなれば一種の津波のようになる。

鉄球の津波だ。生身で直撃すれば良くて瀕死だろうし、【血狐】を纏うことで衝撃など物理ダメージに強くなっている私でも、流石に許容できる量を軽く超えている。


だからこそ、自分の身体に負担が掛かる事を理解しながら私は空へと跳んだ。

前がダメ、横に行こうにも数が多くて回り込めない。

ならば上に跳ぶしかないだろう。

前へと移動していた身体に急激にブレーキをかけたためか、足に違和感が生じ、それと共にHPが減ってしまうが関係ない。動くならばそれは無傷と同じなのだから。


そうして跳んだ私を待っていたのは一瞬の自由な時間。

いつも初見のボスに挑む時のような緊張感はまるでなく、寧ろ霧というアイデンティティを封じられた上で、私の身体1つで何が出来るのかを試していけるという高揚感が私の身体を支配する。


「楽しいなぁ」


さぁ、行こう。そう小さく呟いて、私の身体は落下していく。

当然、私の着地地点には待ち構えるように多くの骸骨が殺到してきているが……問題はない。

彼らの速度はそこまで速いわけではなく、そしてつい最近彼らよりも速い化け者のようなプレイヤーと1on1を行っていたのだ。

だからこそ対応できる。そう確信を持って、私は落下していき……足をあるものへと触れさせる。


それは鉄球だ。

彼らが振り上げ、私へとぶつけようとしていた黒い鉄の塊を足場として扱う。

触れたのは一瞬。しかし【血液強化】によって強化されている獣人にはその一瞬で十分な膂力を引き出すことが可能だった。


再度地面を蹴ったかのように加速した私を待つのはボスである『酷使の隷属者』。

他のように鉄球を振り上げるでも、何かアクションを起こすわけでもなく、その光無い双眸を私へと向けただただ佇むその姿は少しだけ違和感を覚えるものの。

しかしながら、それに反応していても仕方がないため私はそのまま突っ込んだ。

直撃する瞬間【血狐】を足の周囲から離れさせ、純粋な私の身体のみでの蹴りを入れ……先ほどとは違う感覚に顔を顰める。

全くと言っていいほど返ってくる感触がないのだ。


だが、そのままその現象について考えこみ相手の攻撃を喰らうのは阿呆の仕事。

すぐさま空中に再度跳び上がり、バク転をキメるように一気に後ろへと身体を逃がすと。

私がボスへと蹴りを入れた場所。跳び上がる前まで居た場所に突如小さなクレーターが出現した。


「RTBN!」

「身代わり無しだね。カウンターは?」

「あったよ。やっぱり使役系ないとダメかぁ」


着地と同時に、私の身体を守るように数体の人型ホムンクルスが周りに来てくれたため、一息つくことが出来た。

そして彼女の方を見てみれば、


「おぉう、これまた凄いものが出てきたもんだ」

「広域殲滅するならこれ・・が一番だから」


そこには、いつぞやのイベントで見た西洋竜の形をしたホムンクルスが存在していた。

先ほどまで居た人型ホムンクルスは私の周囲を守る数体しか存在しておらず……恐らくは竜型を生成するのに素材として使われたのだろうと把握する。


遠目から見るのと傍から見るのでは迫力が違うな、と少し思いつつ。

次いで、イベントで見た時とは違う生成方法だなとも思いつつ。

竜型ホムンクルスが起こす現象が気になりわくわくしている自分がそこにはいた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?