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Chapter5 - Another 2


「ほいほーいっと」


私は指を鳴らし大きな熊……ミストベアーだったか?の足元に空間の裂け目を開き。

何も気付かずにこちらへと突進してこようとした熊がそれに足を取られ、体勢を崩す様を目の前で見ていた。

無様に滑るように身を投げ出してきた熊ににっこりと笑いかけ、


「灰被りさん」

「任されました」


私の呼びかけと共に、背後から跳躍し熊の頭部へと灰被りが着地した。

次の瞬間、どこぞのゲームでも見たような氷の荊が彼女の足を中心に発生し、熊の身体を飲み込み……そして圧殺する。


「いやぁ……再現できるもんですね。それ」

「意外と融通は効きますね。でも私の魔術よりも……クロエさんのそれ・・の方が再現度高くないですか?」

「あは、そうですね」


このArseareという世界にきて、私が最初に創らされた魔術。

性能的には簡単で、別次元への裂け目を開く、という程度のもの。

もっと簡単に言えば何でも一時的に入れる事が出来る拡張インベントリの入り口を指定した位置に開く効果のある魔術だ。


――――――――――

裂け目を開けチャック

種別:補助

等級:初級

行使:動作指を鳴らす

効果:行使者の視界内に拡張インベントリへの入り口である次元の裂け目を開く。

次元の裂け目:生死に関わらず5種類までを格納することが可能。

       制限:裂け目に入るもののみ格納可能

――――――――――


一見理解を放棄しかけたものの。

元のWoAでの【チャック】を考えるとこれ以上ない互換具合だろう。

更に灰被りの話ならば、今後素材を求められるものの、ある程度自由に魔術の効果を変更することが可能らしい。

そうなってくれば本当に再現自体は出来るだろう。


……でも、それは流石に面白くないなぁ。

何でもかんでも、同じにしては面白くはない。

同じ物語を、少し変えるだけで8週ほど流される視聴者の気持ちと一緒で、やはり劇的な変化が無ければ飽きが来るというものだ。


「素材的にはこんなものかな……?」

「まずはただ霧を発生させるだけの魔術を作るんでしたっけ」

「そうですね。全く同じものにはならないと思いますけど、やっぱり索敵が出来る魔術は早めに作りたいですし……使い勝手も分かってますから。オリジナルはその後かなぁ……」


だがしかし、世の中には同じだからこそ採用されるモノが存在する。

所謂テンプレートと呼ばれるもの、勇者が魔王を倒すというお約束の流れともいわれるものだ。

それらを踏襲してなお、味を出す為にアレンジを加え、そうしてこのArseareという世界での私というプレイヤーは出来ていく。


「まぁ索敵系に特化させるつもりだから……あの鮫とかの素材がまた必要にはなりそうかな?」

「成程……と、セーフティエリアが見えましたね。一度休憩しましょうか」


現在、私達が素材集めをしているダンジョン……『惑い霧の森』にはダンジョン内に複数のセーフティエリアが存在する。

掲示板や灰被りがいうには、マップ機能が使えなくなる代わりの救済措置だのなんだの言っていたが、少なくとも初心者向けのダンジョンではないだろう。


どれくらいの難度が初心者向けのダンジョンなのか分かるほどこのゲームをプレイしてはいないものの、流石にこのダンジョンに入った時に通知された難度6・・・は初心者向けの難度ではないだろう。

掲示板に載っていた他のダンジョンの難度は1や高くとも3だったのだから。


そんなことを考えつつ、私達はセーフティエリアへと入り、地面へ直接座り込み休憩を始める。

やはり休憩は大切だ。

肉体的な疲労は無くとも、精神的な疲労は自身では感じ取り辛く、また戦闘行動や判断能力の低下に直結する。

取れる時にしっかりと取らねばならない。


「……うーん」

「どうしました?」

「いえ、少し……というか、クロエさんも気になっているかもしれないですが、難度の高さが私が知っているここの難度よりも高くなっているんですよ」

「やっぱりです?掲示板確認したけど、同じ名前のダンジョンが難度3で載ってましたし」

「そうなんです。少し前にイベント的な措置で5まで上がったことはあるんですが……それ以上となると、少し警戒しないとかもしれないですね」


灰被りはそう言いつつ、虚空に向かって指を叩いている。

恐らくはこのダンジョンの管理者……彼女の新たな友人であるアリアドネというプレイヤーへとメッセージを送っているのだろう。


「でもその時は変わったモブが出現してたんですよね?それっぽいのは?」

出てきてない・・・・・・です。だからこそ急を要する事態なのかと」

「成程」


どうやらまだ私が分からない領域の話らしい。

首を突っ込むつもりは毛頭ないが、それでも少しは気になるわけで。


「色々と面倒事が起こりそうですし、私の強化も一気に進めちゃいますかね……」


そう言って、私は半笑いになりながら【創魔】を発動させた。

暫くは灰被りがサポートしてくれると言っていたのだ。

ならば出来る限り彼女についていけるように、また少しでも役に立てるようにはしておくべきだろう。


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