洞窟内を【血狐】を身に纏わせつつ、RTBNと共に進みながら戦闘すること数度。
彼女はこちらへと手を広げながら私を呼び止めた。
「OK分かった。分かりました。とりあえず貴女はその攻撃魔術を使うのだけはやめてください。お願いします」
「あー……やっぱこれだめかぁ」
頬を搔きながら風邪薬を1本煽る。
今も私たちの前では、灰色の狼を従え、襲いかかってくる緑小鬼型モブ『ケーブゴブリン』がRTBNの操るホムンクルス達に、足止めされ息の根をも止められている。
それ以外には、今も遠くからこちらを弓で狙っているゴーレムとその整備を行う小人型モブ『ケーブホビット』、周囲に気配は無いものの何処かからこちらを確認しては他のモブを呼び集めるフクロウと小さな妖精型モブ『ケーブフェアリー』など、何かしらの動物や使役物を連れたモブ達が襲いかかってくるのがこのダンジョンの特徴であり特性なのだろう。
他にもミミズを連れ、地中から襲いかかってくる犬小鬼型モブ『ケーブコボルト』。
私の管理する『惑い霧の森』のミストベアー、ミストスネーク枠である小型のドワーフを大量に連れた『ケーブドワーフキング』が居るらしいが……幸い今の所は遭遇していない。
「多数相手には強いけど、流石に味方も巻き込むのは……っていうか自分も巻き込んでるよね、それ」
「まぁ、そこら辺の制限作る時は考えてなかったし」
「はぁ……早いうちに魔術言語でもなんでも使ってやった方が絶対に良いから。断言する」
そこまで言われてしまったらやらないわけにはいかないだろう。
というか、私も問題はあると思っていた。
私が【血液感染】を普段使いしない理由は単純明快。自分にも影響があるデバフをばら撒くためだ。
対処が簡単だとはいえ、流石に自身の使っている【血狐】や周囲の仲間達にも被害が出るというのはいただけない。
「そこらへんの素材集めもやるんでしょう?それもどうせだから手伝います。『乗り掛かった泥舟は沈みゆくまで楽しまなければ損するばかり』とも言うことだし」
「それ誰の言葉?」
「私の言葉」
……思ったよりも取っつきやすい人なのかもしれないなぁ。
彼女とそんな会話をしながらもダンジョンの奥へと(RTBNの人型のホムンクルス達が道中のモブを倒しながら)進んでいくと。
少し開けた広場のような場所に、数人のプレイヤー達が集まっているのが見えた。
恐らくはそこが劣化ボスへと挑む事が出来るエリアなのだろう。
私達は自身に【感染症】が残っていないか、使役している者達にも罹っていないかをしっかりと確かめた後、その広場へと足を踏み入れる。
その足音で私達の存在に気が付いたのか、こちらを一度見た後、RTBNの事を二度見した。
「えっ?!姐さんがホムンクルス以外を連れてる……?!」
「おいおい嘘だろ……?どうせアレもプレイヤーじゃなくどっかのモブとかそういうオチだろう」
「姐さんがプレイヤーと知り合うとか結構あり得ない話だからな……」
尋常じゃなく酷い事を言われているが、本人は良いのだろうか。
「……後で闇討ちするか……」
良くなかったようだ。
「結構な事言われてますねぇ……『姐さん』?」
「やめて。姐と言われるような事をした覚えはないし、あいつらにもしたことないわ。勝手にそう呼んでるのよ」
そう言いながら少し不機嫌そうに、しかしながらどこか気楽そうに広場の中心へと歩いていく彼女の後を追いながら、私は周囲を観察するように見渡した。
大抵の場合、劣化ボスとの戦闘は別の空間だったりに飛ばされ、パーティメンバー以外邪魔が入らないようにしてくれるのだが……別の空間だからといって、元々居たダンジョンの特性などが失われるわけではない。
例えば、『惑い霧の森』。
濃い霧が立ち込めており、プレイヤーを迷わせ、索敵を自分の身体機能だけで行っている者の感知外からモブが攻めてくるのがあのダンジョンだ。
それはボスである『白霧の森狐』と戦えるステージでも変わりない。
だからこそ、観察することは間違いではない。
特に私の霧が使えない、という状況がそのままボスエリアでも引き継がれるというのは大きい情報だ。
いつもは霧操作によって何かに書いたり彫ったりせずに発動させていた魔術言語を咄嗟に行えないということであるし、だからといって私が以前作りそして使い所がなく余っていた『水球の生成・射出』の羊皮紙が使えないというわけではない。
「準備は大丈夫?」
と、こちらが考え事をしている間にRTBNがボスエリアへと挑戦する準備を終えてくれたようだ。
私はインベントリ内を確認し、身なりを確認し、そして最後に【血狐】がしっかり起動して私の近くに居るかを確認してから、
「大丈夫、行けるよ」
「了解、じゃあ行こう」
軽く言葉を交わし私達2人はボスエリアへと転移した。