目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
Chapter5 - Episode 7


「……詳しい説明とか一切されてないんですけど?」

「アンタ説明するといつも長いって言って来ないじゃない。……あー、アリアドネ。知ってるだろうけど紹介するわ。RTBNリセットボタン……ホムンクルス使いよ」

「よろしくお願いしまーす」


少し待つと、顔をフード付きのローブで隠したプレイヤーが白い馬のような何かでやってきた。

近くまで来ると、その馬は地面に溶けるように消え。

それと共に降りてきたプレイヤーをキザイアが紹介した。

以前見た通り、その姿は魔術師というよりも研究者やそれに類するものに近いイメージを受ける。

イベントの時は聞こえなかったため分からなかったが……どうやら声からすると女性らしい。


「はぁ……で、私はこの人と一緒にダンジョンに行けばいいと?」

「そういうこと。丁度知り合いの中で使役系使えるのがアンタしかいなかったのよ」

「他にも絶対いるでしょう。まぁ良いか……どこに行くの?」

「あぁ、えっと『万象虐使の洞窟』ですね」


私がそう言った瞬間、すごい勢いでこちらを向いてから息を一つ吐いた。


「えっと、アリアドネさん……でしたっけ。敬語じゃなくて大丈夫です。あぁ、こっちも外した方が話しやすいですか?」

「あ、じゃあ外してもらって。初対面だから敬語の方がいいかなって思ったんだけど」

「んー……まぁこっちの理由で。出来る限り敬語で話されたくないだけだよ。嫌な知り合いの顔が思い浮かぶんだ」


そう言いながら笑い声を少しフードの奥で漏らす彼女を見ていると。

私達がそこまで心配ないと思ったのか、キザイアがRTBNへと話しかけた。


「……で、アタシはもう行くけれど大丈夫なの?RTBN」

「ん?あぁ……制限の方なら問題ない。ただ『万象虐使の洞窟』だと今手持ちのホムンクルスだけじゃ厳しいかな。アリアドネさんは使役系どんなタイプのを持ってる?言っても良い範囲で答えてくれると助かる」

「それじゃあ見せたほうが早いかな……っと」

「っ!?」


指で軽く狐面へと触れ、そして引き出すように自身の周囲に霧を展開させる。

何やら霧を展開した瞬間にRTBNが軽く身構えたように見えたものの、私は小さな声で最近呼べていなかった狐達を出現させた。


「【血狐】、【霧狐】……私が使えるのはこの2種だね。攻撃がこっちの赤い方、索敵や補助がこっちの白い方……ってどうしたの?」

「いや、うん。はぁ……キザイア?」

「言ったら来なかったろう、アンタ」


何やら2人して取っ組み合いでも始めそうな雰囲気を醸し出しているが、どういうことなのだろうか。

……なんかグリムさんも似たような反応してたよねぇ。

機会があれば聞いてみるか、と思いつつ。


「えーっと……とりあえず問題はなさそうかな?」

「そうだね、大丈夫だと思う。……ちなみにその霧だけでも索敵って出来たりするの?」

「え?いや出来ないかな。これ普通の霧を発生させてるだけなんで」


それを聞いて、何やら安心したように息を吐く彼女を疑問に思うものの。

私達はそのままキザイアと分かれ、ダンジョンへと向かう事にした。




暫く移動して、辿り着いたそこは山に面している洞窟だった。

パッと見ではダンジョンには見えないそこには立て札が建てられており、『『万象虐使の洞窟』はこちら』という丁寧な案内がついていた。


「ついたーっと」

「じゃ、パパッとボス倒して素材回収することにしますかね」

「了解」


そのまま洞窟の入り口へと足を進め中へと侵入する。

すると、だ。


【ダンジョンに侵入しました】

【『万象虐使の洞窟』 難度:4】

【ダンジョンの特性により、使役系魔術が強制起動しました】

【発動条件を満たしていないため、【霧狐】の強制起動に失敗しました】


いつもより長い侵入通知と共に、周囲の景色が変わっていく。

不思議な事に暗くはなく、しかしながらランタンのような灯りがどこかにあるようには見えない。

ダンジョンの不思議技術ということだろうか。

だが、それに関しては正直私にとってはどうでもいい。


……霧が引き出せない。いや、引き出すと同時にどこかに文字通り霧散していってる?

こちらの方が問題だった。

霧を操作して私の周囲へと留めようとしても、何かの力が働いてどこかへと消えていく。


「もしかして洞窟系ダンジョンって、霧とか気体系の魔術ダメだったりする……?」

「え?知らなかったの?可燃ガスとかそういうのを発生させる魔術でダンジョンが崩落されても困るって事で、運営が途中パッチ当ててたはずだけど」

「……Oh……」

「あー……もしかして、魔術の大半が霧に関係してる、とか?」

「いや、そんなことは……ありますけど大丈夫。大丈夫だから。メインの攻撃魔術は霧使わないし!」


【魔力付与】は問題ない。武器さえ振れるスペースがあれば十分に火力を出してくれるからだ。血術系も、そもそも【血狐】が発動している時点で問題はないだろう。

だが【衝撃伝達】に始まり、【ラクエウス】やつい最近創った【路を開く刃を】など、私の攻撃方法の多くは霧に関係している。

……これ、まずいかなぁ。

いつかの【凍原】の時のように、どうやら私自身の戦力が半減以下になってしまったようだった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?