【HPを全て失いました。直前に訪れた街の宿屋へと転送します】
【デスペナルティ:全ステータス低下 00:19:59】
【魔術効果により、ステータス異常【飢餓】が付与されました】
「……ということで。1回目有難うございました」
「いやぁ、ごめんごめん。ついちょっと本気になっちゃった」
「まぁそれはいいんですけど」
宿から場所を移し、そこらのNPCが経営しているカフェ内で、私とフィッシュは反省会を行なっていた。
「隠し玉があるのは分かってたんですけど、ここまで情報皆無だとどうしようもないですねぇ」
「あは、流石に詳細は教えられないしねぇ。でもまぁ、あれはあれで私側も低コストじゃあないからそこまで連発できないんだよ」
彼女が最後に使ったであろう魔術。
攻撃系の魔術であることはまず間違いないだろう。
自らの腕1本切り落とすレベルのコストを必要とするのを考えれば、その効果の高さも想像は出来る。が、だ。
それにしたって費用対効果が高すぎる。
「……聞いてなかったんですけど、今フィッシュさんのランクって?」
「novieよりは上、とだけ」
つまり。
ランクが上がる事で何かまだ私が知らない要素が魔術かプレイングのどちらかに加わっている、ということだろうか。
「同等に真正面から戦えるように、って無茶じゃないです……?」
「あは、でも出来るさ。さっきの霧の刃は良かったねぇ。そのまま突っ込んでたら私がデスペナ食らってただろうし?」
「そりゃあそういう用途もあると思って創ったモノですから。そうなってくれないと困るんですけど、なってくれてないんですよねぇ……」
「面倒な相手もいたもんだねぇ」
「えぇ、本当に……」
ちなみに彼女の魔術によって付与されたであろう【飢餓】というデバフは、ゲーム内の食べ物を食べていないとHPが減っていくという、追い打ちをかけるかのような性能のものだった。
何かを食べている間は緩やかにHPが回復していくため、その分食べていない間のHP減少値は中々に高い。
おおよそ3秒にHP1割といった所だろうか。
「あー……【飢餓】の方は完全に予想外、というか。実は初めてなんだよね、人相手に使ったの」
「だからフィッシュさんにもこのデバフが掛かるとは予想できなかった?」
「確率でデバフが付与されるとは説明に書いてあるけど、それが【飢餓】なのかは知らなかったかな。すまないね、流石にここの代金は払うぜ」
先ほどから話しては食べてを繰り返している私を見て、流石に気の毒にはなってくれたのだろう。
ありがたいが原因が目の前の彼女であると考えると何とも言えない気持ちにもなってしまう。
「……ところで、ついさっき運営が発表したんだけどさ?」
「露骨に話逸らしましたね。……で、何を発表したんです?メンテの日程?」
「まぁ近いものではあるかな。『大型アップデート!新イベント開催予定!』っていう名前のメール来てない?」
言われ、自分のログを見直してみると。
デスペナルティを喰らう直前にそれらしきものを受信している旨のログが流れていた事に気が付いた。
そのまま自分で開き、その内容を確認する。
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件名:【大型アップデート実施&第2回公式イベント開催のお知らせ】
本文:創魔の術師の皆さま、ごきげんよう。
ダンジョンを攻略、【創魔】による魔術創造など、Arseareを楽しんでくれていて大変ありがたいです。
今回はArseareを開始してから初の大型アップデートと共に、第2回目となる公式イベント開催を予定している事をお知らせしようと思います。
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大型アップデート
始めたばかりのユーザーに向けての支援システムを追加予定
各種不具合の修正
詳細は後日発表予定
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イベント名:【集い祓え
内容:大型レイドイベント
前回とは違い、参加プレイヤー全員が協力しクリアを目指すイベント
詳しいルールは後日発表予定
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大型アップデートに関しては、本当に一部しかここでは紹介していませんが、これまでArseareをプレイして頂いている皆さまに満足していただけるような内容になるよう、スタッフ一同調整してまいります。
詳しい内容は後日、公式サイト及びシステムメッセージにてお送りいたします。
開催日は今日から約2週間後となるので、創りたい魔術、強化したいもの等、準備をしておくといいでしょう。
では、創魔の術師の皆さま。良き魔術生活を。
-Arseare開発運営局-
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「ダンジョンに新しい機能と、大型レイドイベント……」
「あは、楽しそうだよねぇ」
レイド。
私の知識が正しいならば、多くのプレイヤーが敵性モブやそれこそ相手方のプレイヤーを倒す事を目標とするミッションの1つだ。
今回は参加プレイヤー全員が、と先に説明されているため、敵性モブを叩くタイプのPVEレイドだろう。
「【集い祓え】って部分は分かるんですけど、後半の字は……誤字、ですかね」
「ここの運営に限ってそれはないんじゃないかい?ご丁寧に読みまでつけてくれてるし確信犯だぜきっと」
問題はそのイベント名だ。
鹿の者、と呼ばれる相手に心当たりがあるわけなくどんな相手が出てくるのかが全く予想できない。
それこそ緑小鬼を、とか書かれていればゴブリンが出てくるのだと連想できるのだが、
「フィッシュさんは分かります?」
「んー……どうだろうね。一応予想は出来るけど、合ってるかどうかは分からないから言わないでおくよ」
「成程。……あ、訓練どうします?フィッシュさんがイベントの準備とかするんであれば、言ってくれれば」
「一応いつでも戦闘は出来る準備くらいしてあるから大丈夫だけど、まぁ訓練自体は数日おきにしようか。連日でやってもいいけれど、アリアドネちゃんも他の事がしたいだろう?」
言外にまたデスペナルティを喰らわせるといっているのだろうか。
しかしながら、現在彼女の攻撃をきちんと認識する術がない私はそうなる可能性が高いのも確か。
「えぇ、そうですね……次やる時は目にもの見せてやりますよ」
「楽しみにしてるぜ……とと、バトくんから連絡きたから私はここらで。多めに支払っておくからあと5品くらいなら追加で頼んでも大丈夫だぜ」
そう言って彼女は店から出ていった。
大型アプデに新イベント。色々と考える事は多いが……とりあえずは前に進んでいきましょうということで。
私は無言で目の前の皿に盛られている料理を喰らった。