目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
Chapter4 - Episode 37


<メウラ視点>


ボスは今もこちらへとデバフをかけ続けている。

だがかけ続けるだけで、俺達へと攻撃してくることはなく。

……どっちにしても、俺がやることは変わらねぇか。

一つ息を吐き、俺は周囲へと呼び出したゴーレム達との魔術的なリンクをゆっくりと手繰る。


前方の方で先ほどまで人狼達と戦いを繰り広げていたアリアドネが俺のそんな動作に物凄い表情を浮かべているが、仕方ない。

これもまた魔術に必要な動作なのだから。……決めたのは俺だが。


「……『築き上げたは土塊の使用人』。『扱うは一介の魔道を扱う者也』」


歌うように声を出す。

本来、このゲームにおいて魔術を発動させるのに詠唱と呼ばれる口上を挙げる必要はない。

しかしながら、普段使いするときに必要ないだけであって意味はある。


【コンテンツ『奏上』の使用を確認しました】

【契約神:天目一箇神あめのまひとつのかみ……確認。力の一部が一時的にその身に宿ります】


俺の視界の隅にログが流れると同時、HPが半分ほど減少した。

『奏上』。元々の意味としては天皇などの上位の者へと何かしらの出来事を伝えるというものだ。

他にも、神職が神へと祝詞を読む事という意味もあったりなかったりするらしいが……そういう解説は1生産職の俺よりも適任がいるだろう。


精霊がいる世界。妖精が多くいるこの世界には、もちろん神も身近に存在している。

一番分かりやすく神と接する事が出来るのは街に存在する教会だろうか。

街によっては神社や寺もあり、和の神にも……まぁきちんと供えるモノさえあれば何とか繋がりを持つ事は可能だ。


俺が契約する事が出来た天目一箇神もそんな和の神、鍛冶の神だ。

刀斧や鉄鐸など、製鉄にも精通している彼の神の力の一部を借り受けるということはつまり。


「……きっちぃな。やっぱ」


身体に宿る熱のような力の塊を手の先に、そして自分と繋がっているゴーレム達へと流していく。

瞬間、ゴーレム達の形が少し変わっていくものの気にせずに魔術を扱うための言葉を口にする。


「『信仰する彼の神にこの身を捧げ』、『そして我に従う者を使い潰す者也』」


言葉を紡ぐごとに俺の近くのゴーレム達が重力に逆らうように空へと昇り、そしてその形を更に変形させていく。

人型からただの土塊に。そして十字架へと変貌していく。


「『我はいずれその身を罰される事だろう』。『これは我が磔となる十字、罪の具現也』」


一息。

そしてその名を告げる。


「【罪科の土十字】発動」


俺の上空に、土で出来た十字架が複数……約20ほど出現する。

それらが全て赤黒い炎のようなオーラが纏わりついた。

かつてアリアドネに使った時とは違い、疑似とは言え鍛冶の神の力を使って造り上げた十字架は1つ1つがどこか威圧感を放っている。


『AhAhAh――Gu?』

「ようやくこっちに目を向けたなぁ?【魔術威力低下】の中でも神の力は凄まじいぜ?」


にやりと笑い、右手を空へと掲げる。

それと共に、上空の土の十字架たちが全てボスの方へと向き直った。

ここまで時間を掛けて準備したのだ。失敗は許されない。

しかしながら、失敗するはずもない。

なんせ相手の近くには無視できない存在アリアドネが武器を構え、いつでも特攻できる準備をしているし……先ほどからフィリップというNPCを守っているグリムもその靄の一部を攻撃に転じれば、少なくはないダメージを与える事が出来るのだから。


逃げたら他の面々による大ダメージ。

逃げなくとも俺の作った十字架による集中砲火で大ダメージ。

つまりは、


「チェックメイトだ」


右手を振り下ろした。

土塊による破壊が、ボスを襲う。



――――――――――――――――――――



<アリアドネ視点>


……何アレ!?

メウラがゆっくりゆっくりと手を振り始めたときは遂に狂ったかあの男、と思ったものの。

その後に出現した土の十字架を見て、私の意識はそちらへと引っ張られてしまった。

目の前のボスからは視線を動かさず、しかしながら視界の隅に映るその十字架が気になって仕方がない。

赤黒い炎のようなものが纏わりついているそれはボスによるデバフがあるのにも関わらず、以前私に対して放った時よりも放っているプレッシャーが凄まじい。


私やグリムが使っている『魔術言語』や『言霊』などと同じような技術を使っているのだろうが……それでもここまで使う度に威圧感を放つわけではない。

あとでそれについて教えてもらおうと思いつつ。

今は他に集中すべき事を優先することにする。


……『偽■■の■狼』の名前、まだ隠れてるってことはギミックというか段階がまだあるってことだよねぇ。

第2段階、変身型の魔王、映画版の敵役。なんでもいいが、それぞれに共通することは初期よりも強く、そして厄介になるということだ。

Arseareで戦闘を行った変身型というと、砂漠のウスバカゲロウくらいではあるものの。

それもこちらとの相性が悪かっただけでアリジゴク状態よりも強くはなっていた、はず。多分。


今私に出来るのは、その状態になった時にいち早くメウラからボスのヘイトを奪い返すために待機することだ。

私の周囲に霧を発生させ、そして十字架が落ちていく様子を見届ける。


「チェックメイトだ」


……カッコつけてるなぁ!メウラ!

後でネタにしてやろう。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?