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Chapter4 - Episode 33


フィリップと共に家の外に出ると、そこには困惑した顔のメウラと、何かを悟っているかのような表情をしたグリムの姿があった。


「何とかなったのね?」

「えぇ、まぁこの後に多分ボス戦があると思うんでまだ一安心、とはならないんですけど」

「さっき付与された役職について色々聞きたい事はあるが……この後が俺らにとっての本番なわけか」


ずんずんとNPC然として村の中を進んでいくフィリップの後ろを3人で話しながら追いかけていくと。

村の中で一際大きい家の前までたどり着いた。

フィリップの寝ていた家を標準とするのであれば、その家はそれの一回りも二回りも大きく。

明らかにファンタジーなどで良くある『村長の家』のようなものだった。


そのまま中へと入ろうとするフィリップの後ろ姿を見つつ、私達は人狼達との連戦によって消耗した装備やHP、MPなどを簡単にではあるが点検、回復していく。

といっても、私の使っていた武器は特に消耗しているようなものもなく、HPやMPに関してもフィリップと話していたりこうして家へと向かって歩いている間に回復しているのだが。

一番消耗が激しいのはメウラだろうか。

グリムに関しては、使っている魔術が特殊であるために消耗などを考えなくてもいいが、彼だけは違う。


私が途中でお願いした村中……ダンジョン内ほぼ全域に向かって、ゴーレムによる索敵を行ってもらったり、それ以外にも彼の魔術は消耗するモノが多い。

ゴーレムの素材自体はその場で確保できるものの、それ以外が問題なのだ。


「……よし、とりあえずは戦える。だがさっきみてぇな連戦は無理だな。途中で支援中心に切り替えるぞその場合」

「それでいいよ。単純に強いボスだったらどうする?」

「その場合は……まぁ出来る範囲で攻撃、それ以外は消極的に後衛として援護中心じゃねぇと難しい」


その言葉に、私とグリムは言葉を発さずに頷いた。

戦闘での役割は変わらない。

私が前に出て、グリムが中距離からの攻撃を。

そして後衛からメウラが支援をしながら戦況の全体把握、適度に援護を行う。

それがこのパーティでの役割であり、変わらない編成だ。


「話し合いは終わったか?では行くぞ」


いつの間にかこちらを見ていたフィリップに対して全員で頷くと、彼は家の扉をノックしてから勢いよく開いた。

そのまま中へと入っていく彼を追いかけるように私達も中へと入った。

中は外から見るよりも広く、空間自体が広く拡張されているような印象を受ける。

内装はおよそ人が住んでいるような部屋ではなく、全てが木で出来た裁判所のように見えた。


「村長!霊媒師のフィリップが議論をしにここへ来た!姿を見せてもらおう!」


声が響く。

その声に反応するように、中から足音が複数・・聞こえてくる。


『……フィリップだと?寝てばかりで役割を全うしない霊媒師が何の議論をするというのだ。もしや誰が人狼かが分かったとでも言うのか?』

「分からなければこの場に来てはいないさ」


村長と思われる壮年の男性はこちらの方を一瞥してからフィリップの方へと向き直る。

彼の近くには数人の村人らしき男女がこちらを睨むようにして村長の後ろに立っていた。

被告人側にフィリップと私達3人、裁判員側に村長と村人数人。

議論を開始するには数的不利ではあるものの、実際にこの場で人狼ゲームの議論をやるわけではない。

私は村長達に気が付かれないよう、いつでも攻勢に出れるように後ろ手に『熊手』を抜いた。


……フィリップが失敗したら、あの村長に突っ込むか。

私の考えている事が分かったのか、横でグリムが苦笑しているものの。

実際、彼女も彼女でインベントリ内に手を突っ込んでいるため、私と似たような事を考えているのだろう。

問題はどのタイミングでそれを実行に移すかだ。


「こんな茶番は終わりにしよう、村長。……いや、人狼達よ」

『ハッ!何を言うかと思えば我々が人狼だと?寝すぎて頭がおかしくなったのか?』

「自身の姿すらもまともに認識出来ていない者らにおかしくなったとは言われたくはないな。姿見で一度確認したらどうだ?卑しい獣の姿が映るだろうさ!」

『証拠もないのにそんな事をするわけがないだろう!もういい!貴様も狂ってしまったのだ!あぁ、また軟禁しなければならない者が増えてしまった!これもこの村に巣食う人狼の所為!皆、早く見つけるのだ!人狼を!諸悪の根源を――ッ!』


村長がフィリップの言葉をまともに聞き入れず、周りの村人に指示を出しフィリップを捕えようとした瞬間。

複数の動きが同時に生まれた。


私が狐面から一気に霧を引き出し、【衝撃伝達】を発動。一気に床を蹴って村長へと肉薄し。

グリムが自身の周囲に黒い靄を出現させ、それらをフィリップとメウラを守るように操作し、フィリップを捕えようとした村人たちを飲み込んでいく。

次いで状況をあまり理解していないと思われるメウラが自身の近くにゴーレムを出現させ、それらを素材とすることで、広い裁判所の中へとゴーレムで出来た十字架を複数浮かべ。


最後に私が一気に目の前まで近づいてきた村長が、その身を一回り大きく膨らませ始めた。


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