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Chapter4 - Episode 32


目的の場所までたどり着いた私は、その勢いのままに閉じた扉を蹴破るようにして中に入る。

凄まじい音とともに破壊された扉の破片が家の中に散らばるが、まぁ良いだろう。

中は暗く、しかしながら外の月明りによって照らされていた。


「……人狼達が入ってこない」


こちらを追ってきていた人狼達は、私が中に入ると同時に私のことを見失ったかのように周囲をキョロキョロと見渡しているのが窓から見えた。

一種のセーフルームのような仕様なのか、それともこれもイベントの一環なのか。

詳細はわからないものの、注意深く入った家の中を見渡していく。


少し広めの木造の部屋。

中央には木のテーブルとイスがあり、壁際には簡易的なキッチン。

それ以外には色々と雑貨のようなものとベッドがあるのみの質素なもの。

そしてそのベッドの上には、扉が蹴り飛ばされたにも関わらず寝息を立てている男性の姿があった。


村人風の服を着ているその男性は、人狼に代わる様子もなく。

この空間だけ外とは違う場所なのではないかと錯覚するくらいには静かだった。


「えぇっと、とりあえず起こせばいいのかな」


この状況、恐らくはイベント的に前へと進んでいるのだろう。

何かしらの基準ルールに沿って人狼達が行動しているのならば、この場に入ってこないこと自体基準に違反するからこそ入ってこれないのだろう。

……『いつも寝てばかりの霊能者のみ』。うん、状況には一致してるし、多分彼が残った最後の村人側の役職持ちだ。


既に王手チェックがかけられている状態。

だからこそ、この状況からプレイヤーが介入できるようになっているのだろう。

ある種、人狼ゲームの基準外の存在。ルール破りのメアリー・スーと成り得る登場人物。


「すいませーん。起きてくださーい……」


肩を掴み揺すってみるものの、全く反応する様子はない。

外から聞こえてくる戦闘音に、流石にここで時間をかけすぎるのは得策ではないだろう。

グリムは兎も角として、メウラの方が先にMP切れを起こして人狼に飲まれてしまう。

それだけは避けなければならない。


「……まぁ、人狼ゲームなら昼になる時にGMが言う言葉があるけれど。どうだろうなぁ」


そう言いながら、私は手に『熊手』を握りしめ。

思いっきり寝ている男性の手の甲に突き立ててみた。

しかしながら。


「なるほど、物理的な干渉は出来ないか」


ガキン!という音と共に、私が突き立てようとした『熊手』は男性の腕に弾かれて傷をつけることは出来なかった。

流石にこの男性には物理的な干渉ができないようになっているのだろう。

ならば、やはり。言葉を掛けるのが場を進めるのに必要なことなのだ。


息を吸って、そして吐いて。

心を落ち着かせてから、口を開く。


「おはようございます、朝になりました。……生き残りは、貴方だけです。霊媒師さん」


実際の人狼ゲームで朝を迎えたときの言葉を。

そして、その後に私の個人的な言葉を男性に掛けると、ゆっくりと彼は目を開く。


「……そうか、私だけが生き残ってしまったか」

「貴方は村人側の人間でいいんですね?」

「あぁ、名前はフィリップ。与えられた職業は霊媒師だ。これまで死んでいった村人達の声が聴けるが……何分、言っている事がむちゃくちゃでね。ただ1つわかるのは、人狼が死んでいないってことだけさ」

「そう、ですか。人狼に心当たりは?」

「ある。だからこそ、私はここでずっと寝ていたのだ。行こう」


彼がそう言った瞬間、私の身体が光る。


【『誘い惑わす村』攻略中のみ、プレイヤーアリアドネ、メウラ、グリムに対し『狩人』の役職が付与されました】


そんな通知が流れると共に、外が突然明るくなったのを感じ見てみると。

外には太陽が昇っているのが見えてしまった。

私の発した言葉の通りではないが、このダンジョン内に昼が訪れたのだ。

そして、人狼ゲームでいう昼と言えば……それは武力で争う時間ではなく、口で戦う討論の時間。

しかしながら相手はフィリップ以外全員が人狼。

私達プレイヤーに役職が付与されたからといってそれは変わらない。

私達が討論に参加できるとは限らないのだから、仕方ないだろう。


「ちなみにどこにいくかだけ聞いても?」

「あぁもちろん。君には……君たちにはその権利があるだろう。――私がこれから向かうは長老の家。人狼のいる場所はそこ以外にあり得ない」


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